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ホープ・トゥ・コミット・スーサイド  作者: 通りすがりの医師
第三章 『P.I.G.E.O.N.S.』問題
123/239

第113話 『苦労人』



 驚いた。

 ナイトの方から「よォ」と挨拶して、距離はあるが隣といえば隣に来るなんて。


「無視かよ」


 ドカッと座り込んだ彼はこちらを見ないものの、あっけらかんと言う。


 どうやらホープから無視されることを当然だとは思っていない様子。

 しかも、



「俺と話す余裕ァ……まだできねェか『青髪』?」



 前にホープから冷たく対応された話し掛け方を、改善までしてきている。


 どういう風の吹き回しだ?

 彼の態度を、ホープとしては容認するわけにはいかないのだが。なぜなら、



「君はまるで……二重人格だ。それが、昼間におれを投げ飛ばして押し倒して、しかもレイ(あのこ)の前で、ものすごい口喧嘩ふっかけてきた奴の態度?」



 今日の昼に熊を倒し、腕を中心に血だらけだったナイトは、偶然出くわしたホープを引き止めるばかりか乱暴を働き口論させた。

 しかもこうして意味不明な『遠征』にも、彼が放っておいてくれれば来る必要が無かったはずだ。


 どう責任を取ってくれるのか。それを問うた。


「……あァ」


 しかし、


「悪ィな青髪……俺ァ、器用じゃなくてな……熊と戦って気が動転してたのもあるが」


「はぁ?」


 返ってくるのは、気が抜けるような答え。


「呆れてものも言えないよ、ナイト。おれに乱暴しなければ良いだけの話だった……器用とかそういうのは関係無いだろう!?」


 そんな答えをされてしまったら、当然ホープはブチ切れるのだが、


「だァから、やろうとしたことがあんだよ……それが上手くいかなかったんだ」


「知らないよそんなの! 余計なことは、人に迷惑を掛けないようにやってくれよ! 血の流しすぎでバカになったのか!?」


 怒りが沸々と込み上げてきてしまうホープは、好きなだけ相手を言い責める。

 ところが直後、その口も止まってしまう。



「俺ァただ、てめェらの関係を修復してやろうと……」



 動揺した勢いで言ってしまった、という意味なのか自分の口を押さえるナイト。

 ホープは首を傾げる。


 そして、ある可能性を思いつく。もし当たっていたら最高な――


「それは頼まれたの? 彼女に」


「あァ? 違う、言わせんじゃねェ……! ……あァっ……俺の独断だ。本当に悪かった」


「はぁぁ……」


 拍子抜け。


 もうナイトの表情とかを窺っている余裕も無く、本人の前で大きなため息。

 レイがナイトを利用し、仲直りしようとか画策したわけではないらしい。


 つまり、今回の件は『ナイトがバカだった』という結論で全てがまとまりそうである。


 そうやって油断していたホープは、



「おい――てめェさっきまで、ニックの奴にシゴかれてたんだろ?」


「……うん」



 突然ナイトに言い当てられて驚いたが、平静を保って言葉を返す。

 ナイトは何度かコクコクと頷き、


「気持ちァ、わかる。ウンザリするよな」


 何の感情を宿しているのかわからない瞳で、静かに火を見て呟く。

 彼は勝手にホープと気持ちを共有しているつもりのようだが、ホープとしては納得いかない。


「本当にわかるの? おれには……君が進んでニックの奴隷になってるように見える」


「ッ!」


「おれは違う。今回のことで本気で彼を嫌いになったよ……最悪な思いをした」


 スケルトンや野犬、中途半端に強い生存者に襲わせるなんて。

 ホープの一番嫌なことを、ニックという男は喜々として実行してきたのだから嫌うのは当然。

 しかしいくら嫌いでも、ホープにはニックを打倒する力など無い。


 ナイトの場合は違うじゃないか。


「君は強いのに。強いくせに、1から10まで彼の言いなりなんてね……夢が無い」


 ナイトはニックのような普通の人間なら、片手で斬り刻むことだってできるはず。

 なのに行動に移さない。ということは自ら進んでニックの下僕として生きている、となる。


 ――強ければ、自由になれるかと思った。


 ――強ければ、たくさんの傷をものともしない豪快な人生を送れるのかと思った。


 ――強ければ、ホープが、強ければ。


 そう思ったのに。

 ナイトのことを知れば知るほど、彼ほど情けない『最強』が存在するのかと絶望する。


 夢が無い。ただただ、夢が、無い。


「進んで奴隷になってる……か。そうか、そうかよ……俺ァそう見えてんのか」


「うん」


「確かに……俺の方から頭を下げ、奴の手下になることを懇願したからなァ。始まりは完全にそれだった」


 軽く眉間に皺を寄せ、パチパチという火の音に目を細めるナイト。


 最初にニックに頭を下げたことには、それなりの事情があるのだろう。

 だが奴隷生活をずっと続けるうち、さすがにウンザリしてきた。そんなところだろうか。


 ナイトという男にそこまで興味の無いホープは、手持ち無沙汰な手を、自身の膝に乗っているメロンの頭へ持っていく。

 鼻ちょうちんとヨダレが凄いが無視し、若草色の髪を撫でる――ペットみたいに無防備だからか、撫でたくなってしまったのだ。


 二度目に撫でようとした時、メロンの手がホープのその手をガッシリ掴んできた。痛い。


「ん〜、むにゃむにゃ……お触りは〜……有料会員の方限定です〜……むにゃ……」


 メロンは幸せそうな寝顔のまま。だが、とりあえず生存本能的な何かが働いたようだ。


 ――ホープと同様、深い部分まで話すつもりの無いらしいナイトは、露骨に話題を変えてくる。



「……そんで青髪、どうする気だ。仮面女は本当にてめェが消えた日から様子が――」


「――ナイト、この『遠征』はどこが目的地か知ってる?」



 だからホープも露骨に話題を変える。

 とはいえ無理に捻り出した話題ではない、事実気になっていることだ。


「……さっきニックに聞いたが」


 すり替えた話題を追加ですり替えられ、頭を掻いているナイトは、



「俺にもよくわからねェが、『P.I.G.E.O.N.S.』の他のメンバーに会いに行くらしい」


「……へぇ」



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