第109話 『同志たち』
――ナイト、そしてホープは『遠征』に行くことになったらしい。
いったい何の『遠征』なのかは見当もつかないが、どうやらレイはまたも置いてけぼりのようだ。
だがその前に、
「ちょっと待ってナイト!」
「ん?」
ニックたちを追いかけようとするナイト(傷だらけだが本人が治療を拒否)の肩を掴み、その足を止めさせる。
だって、まだ聞いていない。
「自分で言っといて忘れないでくれる!? 『あたしの魔法についての疑問がある』って、あんた熊倒す前に言ってたわよね!」
「……あァ、すっかり忘れてた」
悪びれもせず言うナイトに多少腹が立ち、
「バカ!」
「いでェ!」
その頭に拳骨を食らわせた。
エドワーズ作業場で出会った頃から、ナイトにはこういうところがある――クソ真面目なくせに、レイの扱いに関しては雑なことが多いのだ。
「悪かった、悪かったよ……そういやァてめェ、一緒に来なくていいのか?」
頭を擦りながら、ナイトは純粋に聞いてくる。
レイはついつい俯きながら、
「あたしは呼ばれてないじゃない。呼ばれたとしても、あの人とは一緒にいれないし」
「……そうかよ」
呆れた、という感情を隠すことなく顔に出したナイトは、遂にレイへの『疑問』を吐く。
「てめェの唯一使える魔法……ありゃァ、本当に『味方のサポート』しかできねェのか?」
俯いていた仮面の顔を、レイは弾かれたように前へ向けるのだった。
――数分後、ナイトは他の仲間たちと共に旅立っていった。
◇ ◇ ◇
「あ、あ……」
男が、倒れている女を抱えた。
それはウェーブがかった金髪を持つ、少しだけ幸薄そうな顔をして――すっかり体が冷たくなってしまった美少女。
「アリス……! 我が同志……っ!!」
「そんな……!」
「嘘だろ!?」
「どうしてこんな目に!」
何者かに喉を切られて息絶えている彼女の名は、アリス。
それを抱える男、そしてその後ろで見ている10人以上の人間たちは、彼女の『同志』である。
「お、おいシリウス! アリスの奴は……ほ、本当に死んじまってんのか!?」
驚愕している同志の一人が、アリスを抱えているリーダー格の男――シリウスに訴える。
シリウスは当然怒り、
「見ればわかんだろ、とっくに逝ってるよ……!」
「待ってシリウス! そこの岩に、赤い文字が見える気がする!」
「何!?」
最近同志入りしたばかりのアリスの死に、冷静さを失いかけるシリウス。
掛けられた声に、彼はすぐ横を見る。
「本当だ、『ホープ・ト』……血で書かれてる、犯人の名前みたいだが……」
「アリスの指に血が付いてる! 死の間際に残したってわけだ」
「力尽きて途中までしか書けなかったのね……」
頑張り屋なアリスを称賛する同志の面々。
シリウスも涙目になる。当然彼女を凄いとは思うのだが、何よりも、
「どうして……生き抜こうと必死なだけの俺たちが、こんな目に……?」
――ついて行ってはいけない男に拾われ、献上品を模索する日々を奴隷のように生きる、俺たちがなぜこんな目に。
黒髪をぐしゃぐしゃと掻き乱しながら、シリウスは自分たちの運命を悲しんだ。
「ブタ! キツネ! ……アリスを殺した犯人がこの辺にいるかもしれない。お前らはそっちへ! あとの奴らは俺について来い、もう少し先で別れる」
「おう……許せねぇもんな」
「またなシリウス。俺らはこっち行くぜ」
シリウスから指示を出された二人組が、同志殺しの犯人探し……そして献上品を得るために道を外れる。
太っちょな体格で何も考えていなさそうな顔をしている男が、『ブタ』。
ヒョロヒョロな体格でズル賢そうな顔をしている男が、『キツネ』である。
そのまんまなニックネームだが二人とも気に入っているし、同志たちから好かれている二人だ。
「アリスや、今まで死んでいった同志たちのため――すぐにこの生活から脱却してやるんだ!」
「「「おお!」」」
今シリウスが拳を掲げて叫んだこと。
それが、彼らを『同志』として一体化させている信念であった。
「『ホープ・ト』……か。途中まででも充分。覚えておくぞ、アリス……!」
彼らの結束は、とても固い。




