幕間 『渇望』
静寂に支配された、とある荒れ地。
ここにはちょっとした町があったのだが、一年と少し前に綺麗さっぱり無くなってしまった。
「はぁ……」
枯れ木や廃屋が点在する荒れ地のど真ん中で、堂々と転がっている大きな黒い岩。その上に座っている一人の女がため息をついていた。
「早くして……」
濃い紫色のローブを身に纏う彼女は、一人だというのに顔をフードで完全に隠している。そして独り言も止まらないようだ。
「この領域内にいるのよ……」
また一つ、ため息をつく。そして足を組み替える。気分が落ち着かない様子だ。
――そんな中、白い砂を突き破って、一体のスケルトンがこの世界に誕生する。
這い出したスケルトンはすぐ近くの岩を見て、自然な流れで、岩の上に座る女を視認する。
ただただ肉を望むだけの存在であるスケルトンは、女に向かってゆっくり歩く。
「あのコがいる……欲しい……」
スケルトンが見えていないのか、女は座ったまま独り言を続ける。
「ア"ァ」
女のすぐ近くまで寄ってきたスケルトンは呻き声のような音を発した。
岩の上に座っているとはいえ、スケルトンが手を伸ばせば女の足にはもう届く。そんな距離である。
「あら……?」
「ア"ァ」
呻き声で、女は下のスケルトンにようやく気づく。
女が振り向くと、スケルトンはまた呻く。呻くだけで何もしない。
「アタシとしたことが……これに手が当たっていたみたいね。まったく、考え事の邪魔よアンタ……」
驚きもせず呟く女。そして岩の上、つまり自分の後ろに転がっていた『ある物』を少し奥へずらす。
スケルトンはそんな彼女を、虚ろな節穴の目で見上げている。
「ああ、確かその辺の壊れた小屋にフルーツがあったかしら。それ取ってきてちょうだいな」
女としてはスケルトンが眼中にないのか、いかにも面倒臭そうに命令する。
しかしスケルトンは無機質な声を出すだけで、頷きもしない。
「取ってきたらもう用済みよアンタ。そもそもスケルトンがここにいたら契約違反なんだから、慈悲深いと思いなさいよね?」
話し終えて、手袋をはめた手で「しっしっ」という仕草をする。スケルトンはくるりと後ろを向き、ふらふらと歩き出した。
そんなスケルトンの背中にも興味なさげな女は、またどこか意味のない方向を見やる。
「あの赤い目が欲しいわ……それから……」
そして、組んだ膝の上で頬杖をついて、また変わらぬため息をつくのであった。
――この女にはしっかりとした名前がある。あるのだが、多くの者はそれを知らない。彼女は『ネクロマンサー』という仮の名で呼ばれ、恐れられている。
――恐れられている。ただそれだけなのだ。




