脱獄
「では段取りを。」
レイは大きな紙を地面に引くと1箇所を指さす。
「まずここにしか出口はありません。なのでここを目指す事が目標となります。」
ソウジはレイに少し目配せをする。
「しかし、ここに看守長の部屋があります。逃亡する時には必ず見つかるでしょう。」
「だが……脱獄をするとなるとひっそりと抜け出すのか、それとも大々的に脱獄するのか……どっちなんだ?」
「ええ、私がこの監獄へ来て1番長いので経験則となりますが……まず、脱獄のチャンスは夜にしかありません。」
レイは全員の顔を見て、話を続ける。
「しかしですね。夜、部屋を開けると看守に気が付かれます。厄介な魔法ですね。」
「だけどーー。」
「はい。部屋に穴を掘る事が最初に浮かびましたが……ダメです。部屋の床、壁全てに魔法がかかっており……壊すどころか傷1つ与える事は叶いませんでした。」
「………。」
レッドは顔を伏せる。
「なので……力づくでの脱獄となります。いえ、脱獄と言うよりも反乱と言った方がここまで来たらしっくり来るかもですがね。」
レイが困った顔で笑う。
「ではそれぞれ役割を与えていきます。ではーー。」
「明日、だね。」
「ん?どうしたんだミズキ。珍しい。」
「ははは。ちょっとボクも緊張しててね。」
確かに緊張もするだろう。
「……オレはわかんないな。オレには力が無いから。人任せになってしまう。」
「ええ、だからこそーー。」
「ああ、わかってる。だからこそ『オレらの命を自分が背負わなければ』なんて思ってるんだろうな。」
ミズキは黙る。
「だけどそんな事考えなくていい。ミズキは強いだろう?ソウジも、ルウトも……レイも。どうにかなる。」
「そう……かな。」
「そうだとも。」
昼はいつもと変わらずに仕事をこなす。
本番は夜。
世が更けてからが勝負だ。
「そろそろか?」
「うん……。」
ミズキは扉に耳をつけ、慎重に音を聞く。
どこかの部屋が開く音がしたらそれが合図となる。
「……!!レッド!」
オレは頷くとミズキかドアを開ける。
「急いでレイの部屋へ行くよ。」
「わかってる。」
そしてオレ達の脱獄が始まった。
「ミズキの部屋とソウジの部屋が集合しましたね。ではソウジは手筈通り武器を。私達は看守をなるべく引き付けながら出口へ。」
ソウジは1回だけ頷くと武器があるであろう場所へと走っていった。
「行きます!」
「脱獄だ!!皆起きろ!!」
看守の怒鳴り声が聞こえてくる。
「止まれ!」
「はっ!」
ルウトが看守へと一瞬で張り付き殴り飛ばす。
看守は壁へと叩きつけられ気絶した。
「いい感じです!後ろからの攻撃は私がどうにかします!前だけに集中を!」
「了解!」
ミズキだけはソウジが心配になり、後を追っていった。
なので前をルウトが、後ろをレイが守る事で隙を無くす。
「どうにかして剣が欲しい所です!ルウトさん!看守を叩きのめしたら少しだけ調べます!」
「了解!」
「ルウト!前!」
ルウトはレイへと注意が向いており少しだけ反応が遅れてしまった。
「ぐっ!」
何とか腕で防御をし、看守の顔面へと綺麗に蹴りが決まる。
「ルウトさんは腕に布を巻いていて下さい!レッド君と、オリバーは周囲の警戒を!」
それだけ言うとレイは看守の持っていた棒と鍵を奪う。
「大丈夫です!行きましょう!」
「お前ら何してる。」
前から大きな影が歩いてくる。
「看守長!」
「都合のいい囚人だったんだがな。」
看守長は首を振ると手に持っていたハンマーを地面へと下ろす。
「そろそろソウジさんが来るはず何ですが……。」
「ごめん、遅れた!」
ちょうどいいタイミングでソウジが追いつく。
その腰には長細い剣が下げられ、不思議な洋服に着替えていた。
「お?アレは俺がやる。面白そうだ。」
ソウジはユラっと歩き看守長の前まで歩く。
「お前は……囚人番号1000番。ソウジか。」
「おう、その通りだ。看守長サマ?名前は?」
「俺の名前を知らんとは……ほれ、あそこにあるだろう?」
「え?何処に?」
ソウジが看守長の指さされた場所へと目を向けるとハンマーを振りかぶる。
「俺はダミアンだよ!もらった!」
「甘いな。不意打ちで言葉を発してどうする?」
ソウジは身軽に横にスライドするとハンマーを避けるがダミアンの攻撃は地面を壊す。
「あ?なんで壊れるんだ?」
「俺の事何も知らないのか?この俺に与えられた唯一無二のスキル〈ブレイカー〉を!」
ダミアンは一頻り笑うとハンマーを構える。
「ほう?壊すってか。」
ソウジはヤレヤレと頭を振る。
「それだけならこういうやり方もある。」
ソウジの姿が霞んだと思うとダミアンへと密着していた。
「ちなみに俺は『スキル無し』だ。」
そのまま首へと剣を貫通させる。
「どうだ?『社会的強者』が紛れもない『弱者』に負けるのは?」
「ごはっ!……ま……だ!」
「残念、終わりだ。」
素早く剣を抜き上から首を跳ねる。
「さて、行こうか。」
その青と白の羽織に着いた赤い血は怖く、だがとても美しく思えた。