レイの同室の男性
「そう言えばレッドの様子はどうだ?」
ルウトは少し気になっていたようでミズキに聞く。
「うん、頭が冷えたみたいで今は冷静だね。」
同じ部屋にミズキがいなかったらと思うと恐ろしい。
「リーダーに持ちかけてみるといいさ。あの人を立たせるにはレッドが必要だからね。」
「うん、『人数は多い方がいい』からね。」
「リーダー、レッドが落ち着いたけど……オリバーに合わせてみるのはどうかな?」
ミズキは仕事の休憩中にレイへと持ちかける。
「それは……ええ、今より悪化する事は無いでしょうしね。」
レイは快く了承し、仕事へと戻る。
レイと同室のオリバーはレッドと同じように勇者セツによって監獄へと送られていた。
しかし……レイと違い、オリバーは勇者の悪意を間近で見ている。
そのためオリバーは……今でも特例として部屋に引きこもっているのだ。
「オリバー?入るよ。」
レイは部屋に入ると隅で蹲っている人影へと近寄る。
「オリバー、君と同じ様な境遇の人を連れてきた。少しでも……心の支えになる様に……ね。」
レイはこちらを見て来てと合図する。
「こちらレッド君。勇者の……身代わりとなってここにいるんだ。……後は2人で少し話をして欲しい。」
レイはそれだけ言うと部屋から出ていく。
正直初対面の人と2人きりはキツいものがあるが……リーダーとしてレイにはお世話になっている。
やるしか無い。
「オリバー……さん?どうもオレはレッドって言うんだけど。」
「…………。」
「ああ、オレから事情を話そう。」
レッドは自分の話をするとオリバーは少し顔を上げる。
「……そうか。」
それだけ言うとまた顔を伏せてしまう。
「……俺には愛する人が……いる。いや……いた、が正しいな。」
オリバーは一呼吸置くとまた喋り出す。
「その人は勇者……セツとかいうヤツに目の前で殺されたよ。思い出しただけで腹が煮えくりかえる……と思うだろ?俺は違ったんだ。」
レッドはその言い回しに不思議に思ったが黙って聞く。
「確かに怒った。そして完全に不意打ちだったんだ……。あの瞬間は今でも忘れられない。でも……一瞬だけ戸惑った、戸惑ってしまったんだ。それが無ければ……。そして愛する人の遺体を……。」
そこから先は言えなかった。
オリバーは自分を悔いているのだろう。
「……俺はもうここで死刑を待つだけの……デク人形だ。アンタもそうなんだろ?」
オリバーの濁った目がこちらを見る。
「……いや、オレはこのままじゃ嫌だ。昨日セツの本性を知ったのさ。そりゃ怒り狂った。ミズキに止められなかったら自殺していたかもしれない。」
レッドは1度言葉を切る。
「でもこのオレが……これから出来る事はオレの様な……バカを量産しない事だ、そのためにアイツを……。」
レッドはその先を口にしたら駄目なような気がして言えなかった。
「そうかい。俺は関係ないね。……もう愛する人は死んでしまっていて、他の誰かがセツに何をされようと、関係無い。ただ……。」
オリバーが顔を上げると濁った目は依然そうだったが少しだけ、マシになっていた。
「アイツの死に顔を踏みつけて晒すのも……面白そうだな?いや、もっとあるか。」
ブツブツとオリバーは呟く。
「いや、何でもない。レイには感謝しないとな。もちろんレッドにも。俺には俺がやるべき事があるんだな。」
オリバーは立ち上がるとドアへと歩く。
「レッド、お前が復讐するなら俺は全力でバックアップする。ただ……1発だけセツを殴らせてくれれば俺は大満足だ。」
そしてオリバーは長く、永くいた部屋を自分の足で出ていった。