レイの過去
「さて、何を私から聞きたいのか……教えて頂けますか?」
レイは真剣にミズキに言うとゆっくりと頷く。
「レイには悪いんだけど、勇者の事について教え欲しいんだ。」
「え?何でレイに?」
レッドは予想外の言葉に驚きミズキを見る。
「それはーー。」
「いえ、私から話しましょう。そうですね……。何から話しましょうか。あれはだいぶ昔の事です。」
レイは目を閉じながら過去を話してくれた。
「この子供が勇者だと言うのですか!!お言葉ですが正気ですか!皇帝よ!」
「暴言を許そう。俺は至って正気だ。女神様が遣わした言うなれば使者にも等しい存在。正真正銘女神様の力がこの者へ入っている。」
「くっ……。」
レイは皇帝の前にいる年端も行かない子供を見る。
髪は黒く、眼も黒い。
そしてこれまで戦闘をしてこなかったのだろう。
筋力も弱そうに見える。
「そなたに……〈剣聖〉のそなたにしか頼めない仕事だ。受けてくれるな?」
「くっ……ですが皇帝よこの子共はーー。」
「勅命である。」
皇帝が下す命令。
「……分かりました。私が責任を持って育てましょう。この国随一の戦士へと。」
「うむ、期待する。」
素っ気なく皇帝は言うと玉座を離れる。
レイは残された勇者に近寄る。
「お見苦しいところを。お名前は何とお呼びすれば?」
「セツ。呼び捨てでいい。」
「了解しました。セツ。着いてきてください。」
「最初は疑いましたが本当に勇者らしい。とても強くなりましたね。」
レイの剣が宙に飛ばされ、離れた場所へと突き刺さる。
「ああ、これも……レイのおかげだな。」
「私が教える事はもう無いでしょう。自己鍛錬に励んで下さい。」
「ええ、これまでありがとうございました!」
この時セツにレイという枷が外れた事をまだ知る由もなかった。
「皇帝よ!最近の勇者は身に余るものがございます!どうか!どうか私に行かせてください!」
「ならぬ。勇者は勇者の行いをしているまで。止めるな。」
「しかし!」
「執拗いぞ!……下がれ。」
レイは俯き、下がる。
その顔には悔しさが浮かんでいた。
「セツ!やめろ!そんな事をしていいと思ってるのか!」
「ああ、レイ。俺はこの世の真理というものにやっと気がついたんだ。俺は……この世界で、魔王よりも強い。ならば俺を止めるものはいないさ。」
セツの左手には首だけとなった娼婦がいる。
「こんな事を繰り返して……。」
レイは少し目を伏せる。
「これは私の失態だ。私が……ケリを付けよう。」
「お?レイとの真剣勝負は何年前だろうな?ちょっと楽しみだ。」
セツは左手のソレを投げ捨て、剣を構える。
「ゆくぞ……勇者!」
「皇帝サマよ?これ、俺を殺そうとしたんだけどどうするんだ?」
返り血を浴び、皇帝のいる場所へと入る。
セツに傷は……無い。
「これ……とな?」
「ああ、コレだ。」
右手には瀕死のレイが引きづられていた。
「…………勇者と、皇帝の命に背いたとして監獄へと収監する。連れて行け。」
「皇……帝……。」
「連れて行け。」
「という訳で私はここにいるんですよ。」
「やっぱ勇者ってセツだよね?ボクの予想は当たってたか。」
「それにしてもまた何でこんな事を?」
「いや、それがねーー。」
近くから物凄い音が鳴り響きミズキは話を辞める。
「オレは……何をしていた……?」
「あぁ、噂は本当でしたか。勇者には身代わり人がいるという。私は信じたくありませんでしたが。」
レイは頭を横に振ると改めてレッドを見る。
「それで。貴方はどうするのです?」
「どうする……?オレは……どうしたいんだろうな。」
信じていた。
心酔していた勇者を。
しかしオレは裏切られた。
まだ心の中では「コイツらが嘘を言ってるんじゃないか」とか「勇者の印象を下げようとしている」
と何処かで思っているのだろう。
しかし……レッドの別の所では違う結果を導き出していた。
普通、人間が人間を初めて殺してあんなに言葉を紡げるのか?
普通は……パニックになるだろう。
だからこそ、おかしい、と。
「今日は休んで、頭を冷やした方がいいだろう。そう言えばソウジ達はどうしたのです?」
「ああ……また『どっかほっつき歩いてるんじゃないですか』?」
「……なるほど。」
「ほら、部屋に帰るよ。」
レッドは頭をあげると手を伸ばすミズキの姿があった。
その手を掴み部屋へと帰ることにした。