婚約破棄???いえいえ令嬢は惰眠を貪りたいのである。
別タイトル「天下に轟くボンクラ皇太子」でした。
ただ、弟との絡みを書きたくて最終的には現在の形に。
婚約破棄に悪役令嬢、大好物です。
これで聖女様が絡めば完璧!?
私の拙い文章にお付き合いいただければ幸いです。
誤字脱字報告よろしくお願いいたします。
さて、皆様。ボンクラと聞いて、真っ先に誰の顔を思い浮かべるでしょう?
あら、ご紹介が遅れていたようですわね。
私、アルテミス皇国の筆頭貴族であり皇弟アレス・グランフィールドが長女シエル・グランフィールドと申します。
本日、私の従兄弟であり我が皇国のラウル皇太子が学園を卒業なさるということで、卒業パーティーに出席しております。
アイスブルーの人によっては冷たい印象を与える瞳を、無性に擦りたい衝動に駆られつつプラチナブロンドの髪を軽く弄る。
扇で口元を隠しつつ、従兄弟に挨拶したあたりから父上や陛下の危惧していたとおりの展開に眠気をこらえながら、それでも今まで培ってきた鋼の精神で苦行に付き合っていたりしますわね。
ちなみに私は学園を卒業しないのかといいますと・・・それは後程ご説明致しましょう。
なお、私の真ん前で先程から勝ち誇った顔をして、ありもしない茶番劇を繰り返している方。
これ…といっても、今は未だ皇太子ですが、これこそ私の中のザ・ボンクラでしたりして。
「あぁ、眠いですわ。」
ボソッと呟くと、パチンと扇を閉じて目の前のラウル皇太子に向き直ります。
さて、私は皇帝であるラッセン陛下の顔を思い浮かべつつ、先程からの雑音に耳を傾けることにしましたが、これと付き合うのが今日で最後と思えば、まだ我慢が出来るレベルです。
目の前にいるのは、ラウル皇太子とラウル皇太子の後ろに隠れるようにしている何故か怯える素振りのピンクブロンドの令嬢。そして、宰相の跡取り息子に加え、卒業後は騎士団に入隊予定の騎士団長の息子。
そして、何故か我が弟レックスまで居たりしますわね。
「おい、聞いているのか!?シエル・グランフィールド。貴様のこれまでの悪事の数々、既に皆の知るところである。」
「この僕の婚約者という地位を振りかざして、我が愛しのミラ嬢を虐めていたことは、分かっている。しかも、先日はとうとう階段から突き落としたそうだな。」
「もしミラ嬢に何かあったら、一体どうするつもりだ!」
「全く反省の色が見えない。何て性根の腐った奴だ。」
「貴様の様な奴は偉大な僕に相応しくない。従ってシエル・グランフィールド。貴様との婚約をこの場で破棄する!」
あぁ、やっと婚約破棄の下りまできましたか。長かったですわね。
では、口を開くと致しましょう。
「ラウル様、そしてレックス。あなた達は本日がどのような場であるか、無論覚えておいでですわね?学園を卒業なさる皆様にとって最後の輝かしい思い出となる場でごさいます。いかに天下に轟くボンクラ皇太子と馬鹿といえども許される事と許されない事の区別もつかないのですか…。」
「なっ、何!?今、何と言った!貴様、僕に捨てられて気でも触れたか?」
まるっと無視して先を進めることにしましょう。
「ラッセン陛下から伝言です。本日は私は陛下の名代としてパーティーに出席させて頂いております。」
ラッセン陛下の名前を出した途端に顔色を変えるラウル皇太子。
「ち、父上の名代だと?どういう事だ!そんな話は聞いていないぞ。」
陛下譲りの金髪と皇家に伝わるアイスブルーの瞳を持つラウル皇太子は武勲の誉れ高い陛下が苦手だ。
瞳をしきりに瞬かせて、挙動不審な動きでこちらを見ている。
「ちなみに学業を優先するなどという理由で、隣国との戦に出陣せず、其ればかりか戦後処理の公務もサボって国内でトラブルばかり起こして、近隣各国にまで轟くようになったというのが、ボンクラ皇太子の由来です。」
「ハァ~!?」
一体どこから声が出ているのか、素っ頓狂な悲鳴を上げる人物が、実の従兄弟だと思いたくない私なのですわ。
「ラウル様、貴方は本日をもって皇太子の任を解き、皇位継承権剥奪の上で身分を平民に落とし、ミラ・クレール元男爵令嬢と共に国外追放とするとの陛下よりの御言葉でごさいます。」
「なっ、なななななぁ~!!!」
つい先ほどの間抜けな悲鳴を上回る声を冷たい視線で制する私。
「ちょ!ちょっと、待って下さい!何故、私達が国外追放になどなるのですか!?私を散々虐めただけでは足りないと言うのですかぁ?」
ラウル様の後ろに隠れていたピンクブロンドが、先程までの怯えていたふりをかなぐり捨て詰め寄ってくる。
「ミラさんでしたか?あなたは男爵家から勘当されました。だから、今はただの平民のミラさんでしてよ。更に言うなら私たちは初対面でしてよ。」
そう、正真正銘このミラとかいう女とは初対面である。
「嘘よ!今まで教科書を破り捨てたり、そ、それに階段から突き落としたり!どこまで私を目の敵にすれば気が済む…うぐっ?」
ベラベラ喋りはじめたミラが、突然の出来事に目をむく。
いきなり物陰から出てきた熊のような私の側近が、ミラの首を締め上げる。主人を蔑まれたばかりか、ありもしない断罪劇に我慢の限界を超えたのか首をもいでしまいそうな様子である。
しかし、この私にありもない罪をなすりつけようとした女に微塵も同情の余地はない。
大男に首を絞められ宙にぶら下げられている女と、今頃になって止めようと飛び出してきた騎士団長の息子。
どうやら、余程このミラとかいう女がよいらしい。
片手で側近に合図を送り下がらせる。すると宙に浮いていた体がドサリと落ちる。
「ミラ嬢、大丈夫ですか?!」
ゴホゴホ咳き込むミラとやらを介抱しながら、反抗的な目で私を睨み付けてくる宰相と騎士団長の息子。
「何か勘違いしているようだけれど、私は学園に在籍もしていなければ、通っている事実もないから、ミラさんとやらと接点があるわけないでしょう。」
因みに弟のレックスは青ざめたまま立ち尽くしている。
「は…?」
乾いた声がレックスの口からこぼれる。
「そもそも筆頭貴族グランフィールド公爵家の跡取りとして戦に出ていた私が呑気に学園になど通っているわけないでしょう?」
ざっとパーティー会場を見渡し、思ったよりも周囲が落ち着いていることを確認してからラウル様の側近と、まだ呆けたままのラウル元皇太子に視線を向ける。
「私が学園に通ったのは戦が始まる前までですわ。ラウル様が戦に行きたくないと駄々をこね、仮病を使うわ。ワザと怪我までしてきた為に、当時婚約者だった私が剣を取り前線に赴くことになりましたの。」
「何だって!」
目を白黒させているラウル様達を氷よりも冷たく鋼よりも鋭い視線で突き刺す私。
「当然、ご存知ですわよね?ラウル様。何しろ、自分の身代わりに出陣式で私が鎧甲冑に身を包み剣を掲げている姿を貴方は陰に隠れて見ていたのですから。」
「いや、いや!確か皇家の縁者から特に勇ましい者を戦に出すと…。」
「だから仮病に怪我まで装うボンクラ皇太子と、病弱な弟のレックスの代わりに『皇家の縁者』である私が戦に出ることになったのですわ」
「「「あぁっ?!」」」
一同の声が一斉に重なる。
追い討ちをかけるように言葉を続けることにします。
「ラッセン陛下にはラウル様しか子供がおりません。また皇族といっても陛下の他には皇弟である父上くらいしか近親者はおりません。父上は、昔、大病を患い日常生活は不自由なく送れるものの、戦になど出られるような身体ではなくなりました。そしてレックスも自称病弱です。」
私以外に他に戦に出れるものは、陛下だけですが国のトップであるラッセン陛下が出陣する事は、我が国の政を滞らせるだけでなく近隣諸国に隙を与えるキッカケとなりかねません。
「未来の皇太子妃だから、武勲の誉れ高い陛下の姪だからとあっという間に支度が整いまして、我が国の勝利で戦が終わるまで最前線のトロイア砦で剣を振るい、アルテミスの戦女神といえば知らぬ者なしと言われるまでになりましたわ。」
そうなのである。話せば長くなりますが、私は学園に通っていなかったのでしてよ。なのに、ミラとかいう女に嫌がらせ?何よりも、このような情けない男の為に、嫉妬?嫌がらせ?
「一体、何を言っているのやら。」
「あ、姉上は皇太子妃教育の為に王宮に上がって帰って来なかったんじゃ…!」
ガタガタ震え出したレックスが、どうやら自分の立場に気づいたようで声をかけてくる。
「父上からの伝言を貴方には伝えるわ。」
ゆっくりと弟であるレックスと目を合わせる。
「本来ならば我がグランフィールド公爵家の跡取り息子として厳しく育てるべきが、病弱であったばかりに育て方を間違った。これよりレックス・グランフィールドを勘当処分として、我が家とは一切の縁を切るものとする。」
「そ、そんな!」
「安心しなさい。貴方のお友達である宰相の息子さんたちも、同じく勘当処分になったようだから。」
「ば、馬鹿なことを…!」
「そうだ!嘘をつくな。父上には俺しか子供がいないのだぞ。跡取りを失うことをよしとするはずがない!」
バッタリと倒れそうなレックスと違い、往生際の悪い宰相と騎士団長の息子達である。
「陛下が皇太子の世話も満足にこなせぬ、しかもどこの骨ともしらぬ女にうつつをぬかす側近では、将来国の為にならぬと発言なさったのですわ。」
「陛下が!?」
「宰相も騎士団長もお家の存続と引き換えに親類から養子を貰って、あなた達を切り捨てる事にしたのですわ。」
ここへきて、ようやく勘当の話が事実と分かったのか、サァーと青くなる二人。
「シ…シエル嬢。何とか陛下にとりなして頂く事は!わ、ワァ~!!!」
「ギャア~!!!た、助けてくれ~!」
私の側近達も相当腹が立っていたうえに、図々しくも恥知らずな発言に背後から何人かが、すかさず蹴りを二人にお見舞いする。
「「ぐぇ~~~!!」」
騎士団長の息子は何とか反撃しようとしたが、多勢に無勢で、コテンパンにやられた。
ミラとかいう女はコソコソ逃げようとしているところを、私の側近の一人に気づかれて両頬を盛大にひっぱたかれ、あえなく気絶。
あの熊のような大男ガイウスの仕業であった。
こういってはなんだが、アルテミスの戦女神といえば騎士や兵士たちの間では人気なのだ。
どうやら、今回の断罪劇を事前に学園関係者から聞き及んだ父上と陛下が多めに側近や学園の衛兵たちを配備していたようである。
また戦後処理の為、王宮に詰めて戦を仕掛けてきた隣国への賠償請求を始め、本来なら元皇太子のラウル様がするべき公務を一手に引き受ける羽目になったため、陛下や家臣たちの私の評価は鰻登りで今に至っていたりする。
「では、パーティーにお集まりの皆様へ、ある重要な事項を伝えさせて頂きますわ。」
扇をパサリと広げて、軽く口元に持っていきながら、パーティー会場に響くように言葉を紡ぐ。
「ラッセン陛下から、此度の戦の立役者としての功績を称えて、正式に皇太女の指名を本日されました。」
ザワザワとパーティー会場の出席者たちの驚きが、場を満たしていく。
当然だろう。この学園に通う貴族子女達は将来国の中枢を担っていく若者達である。また卒業パーティーということもあり、その両親達も多くが出席している。
そんな場で立太子の話題を振れば、今夜中に国の隅々まで広く知れ渡ることとなることとなるでしょう。
「既に帝王学を始めとする勉学や学園で学ぶべき事柄は戦場で睡眠を削って身につけましたわ。」
側近達の動きを視界の片隅に留めつつ、ラウル元皇太子へ向き直ります。
「よいですか、学業は何処ででも学べます。私は夜も明けないうちから敵襲に備えつつ、勉学を積み重ね国の高等科の卒業試験に合格致しました。では、貴方にお聞き致します。貴方はこの学園に入学してからの3年間で何を学びましたか?」
「・・・・・」
「だから、貴方は天下に轟くボンクラ皇太子と呼ばれ、陛下に見捨てられたのですよ。」
「ボンクラ皇太子・・・」
ガックリと肩を落とす従兄弟の姿をみるのは、これが最後でしょう。
「私は今でも朝5時前には起きて、夜遅くまで王宮で公務をこなしております。その多くは本来ならば、学園に通っている貴方がするべき仕事でしたわ。私は戦後処理など他の仕事が山積みだったので、何度もラウル様に手紙と要望書をお送りしましたわよね?」
もう何も言うべき言葉が見つからないのだろう。黙ったまま俯いている。
「私が通うことの叶わなかった学園生活で、私という婚約者がありながら他の女を侍らせ、挙げ句の果てに学園に存在しなかった私がミラさんとやらを階段から突き落とした?一体、何を考えてありもしない断罪など思いついたのかしら?」
「ミラ嬢が…シエルにされたと言ったから。婚約者として嫉妬にかられて色々と嫌がらせをされたと!まさか戦に出ているだなんて…。」
もごもごと言い訳がましい言葉が聞こえてきます。
「では、貴方は戦に出る条件として、陛下に対して私とラウル様との婚約白紙を挙げていた事も知らなかったと?」
「!?」
扇で隠した口元から溜め息がこぼれる。
どうやら、さすがボンクラ皇太子。自分の婚約が撤回されて白紙状態に戻ったことすら頭から抜けて落ちていたらしいですわ。
「戦が始まったのが、およそ2年半前。そして終戦が1年前。およそ1年半、婚約者だと思っていた従姉妹の姿が見えず、学園にも通った痕跡がない…としたら、普通は心配しますわよね?」
「だから、それは!皇太子妃教育で王宮に上がっているとばかり」「嘘ですわね。」
かぶせ気味に従兄弟の言葉を遮ることにします。
「同じ王宮に居て婚約者同士が会わない方がもっと不自然でしょう。貴方は私が王宮に上がってないことをご存知だったはず。ただ、自分の身代わりを私に押し付けたことが後ろめたかったので、都合よく婚約が白紙撤回されたことも忘れただけですわ。」
チラリとレックスの方へ視線を移しつつ、
「レックスに私が屋敷にいないのは王宮に上がっているからだと嘘を吹き込んだのも、ラウル様ですわね?」
「レックスが…姉の姿が見えないと言っていたから、安心させようと」「嘘をついた訳ですわね。」
バッサリ切り捨てるように言い捨てる。
「お陰で私は次代の女皇としてアルテミス皇家の世継ぎを産むだけでなく、グランフィールド公爵家の跡取りまで産まなければならなくなりましたわ。」
レックスがいれば、最悪私が戦死してもグランフィールド公爵家の方を任せることが可能だったはず。そう思って戦陣に立ったというのに。
それを血を分けた弟を勘当処分にまでさせる羽目になったのは、間違いなくボンクラのせい。
「私はとうの昔に婚約など白紙に戻して、グランフィールド公爵家の総領娘として戦に立った筈なのに、戦時中も戦後もボンクラはボンクラ。だから、私に全ての責が負わされることになりましたのよ。」
ここに剣があったなら間違いなく切り捨てていたことでしょう。まさしく命拾いしましたわね。
「それでも、身分剥奪の上で国外追放をなんて軽い刑で済んだのは親心なのでしょうね。しかも貴方が私にありもしない罪をなすりつけようとしたミラさんと一緒になんて、ずいぶん甘いこと。」
顔面を腫れさせて、青あざだらけの姿になったミラを指差す。
「貴方はさぞかし学業に勤しみ、平民になっても生きていけるだけの能力を身につけたのでしょう。まさか、女1人食わしていく力もないとか言わないで下さいね。」
「ミ、ミラ?」
顔が通常の倍近い大きさになったミラの姿に、やや引き気味になっているラウル様。
「これから、隣国バリエスの国境まで移動していただきます。貴方もご存知の通り、ついこの間まで我がアルテミス皇国と戦争を繰り広げていた国です。まだまだ国境は無法地帯といっても過言ではありません。」
「ま、待て!」
「待ちません。もし、卒業パーティーの最中に問題を起こしたら、その場で身ぐるみ剥いで国境へ連行してよいと陛下から許可を頂いておりますわ。」
「そんな馬鹿な!いくら何でも実の息子にそこまでするはずが」「ありますわね!」
間髪入れず反論に入らせて頂きますわ!
「ミラさんに一体いくら貢いだんですの?宝物殿から国宝であり今は亡き皇后様の形見の指輪に首飾りを盗んだのはラウル様ですわね?さらには国庫にも勝手に手をつけたとか…戦後保障などで山のように資金が必要なときに元皇太子が民の血税をくすねて女に貢いでいたなんて世も末ですわ。」
既に顔色が青を通り越して土気色である。まさか不正を私の口から暴かれるとは思ってもみなかったのでしょう。
「な、何故それを・・・。」
「影からの報告で、全て貴方の不正は明らかになっていますわ」
さて後ろに控えていた衛兵たちの出番である。
テキパキ指示を出して、パーティー会場の外に待機していたもの達を呼び寄せ、国境までの護送ルートを書いた紙を渡し、身ぐるみ剥いで馬車へと押し込める。
途中、目を覚ましたミラがギャンギャン騒いだが猿ぐつわをはめられ、そのまま馬車は走り出す。
全てが終わったかに見えるが、ここにはまだ現実を受け入れられないボンクラーズが3人。
「姉上、これから僕はどうしたら…。」
「レックス、貴方もミラさんに随分貢いでましたわね?」
「ち、違っ!僕は騙されて…。」
「そうね。そうかもしれない。でも、貴方がミラさんに貢ぐ為に私は朝5時前から深夜0時過ぎまで働いていた訳ではないのよ。」
「っ!」
「戦場にいたときから、私は眠る間もなく働き続けてきたの。でも、そう・・・貴方は屋敷に居た頃からの私の口癖を忘れてしまったのね。」
そろそろ私も限界が近いかもしれませんわね。
「あぁ、眠い。もし、神様が許して下さるなら1日20時間眠りたいのに。」
「へ?20時間!?」
「そうですわ。毎日眠い、眠いと叫んでいたのを忘れたとは言わせないですわ。」
「そ、そういわれてみれば?」
若干引き気味に頷いたレックス。
「私、護身術や剣術は得意でしたけれど、物心つく前から勉強は大の苦手でしたの。だから、幼い頃から英才教育と称して父上は私に複数の家庭教師とマナーの先生に加え、万が一にも勉強中寝ないようにメイドたちにも厳しく私の監視係をつけて、勉強漬けにしたんですわ。その勉強時間、なんと朝6時から夜20時まで!14時間でしてよ。お陰で皇太子妃教育は学園入学前には終わってましたのよ。」
「え、えぇ?」
話の展開についてこれないレックス。それはそうだろう。
「学園に入学して間もなく戦が始まり、そこから、またもや寝不足の生活に逆戻り。いつ敵襲が来るか分からない極限状態で、トロイア砦の最高指令室に寝袋を持ち込み剣を抱えながら、指揮をとることなんて真似。レックスには、例え健康になっても出来ないでしょうね。」
「それは…」
「私は例え病弱でもいいから、眠りたかった。ベッドで横たわるレックスをみる度に、私が羨ましがっていたのを知らなかったでしょう?それくらい睡眠がとれない生活を続けて、もう早18年だわ。」
ふぅ~と溜め息が出てくるとともに、眠気が押し寄せてくる。やはり限界らしい。
「皇太子妃や皇后になんてなったら、あのボンクラのことだもの。私に政務を押し付けて好き放題にやるに違いない。皇族には戦役の義務があるのに放棄して、腕を骨折してくる奴よ?だから、私の愛する未来の安眠の為に戦へ行ってでも婚約を白紙撤回させたというのに、国の金を使い込んで陛下にも見放され、私に皇太女の座が回って来るなんて、いい加減にしてほしいですわ!」
一体いつになったら惰眠を貪れる日が来るのか!?
それでも一縷の望みを胸にワクワクドキドキしながら、ここ最近を過ごしていたら、本日陛下から拝命を下された皇太女の話は寝耳に水でしたわ。
まさしく厄日ですわね。
誰もが喜んで権力に飛びつくと思ったら大間違いでしてよ。
「レックス。貴方は確かに病弱ではあったけれど、喘息持ちというだけで日常生活を送る分には父上と同じく問題ないじゃないの。なのに、ロクに勉強もせず、かといって健康になろうと努力すらせず、最後は私を陥れる為にミラさんと冤罪の辻褄合わせまでしたようね?」
「辻褄合わせなんてしてない!信じて、姉上!」
「皇族には常に影が着くことは分かっているはずよ。彼等がミラさんとレックスが密会して、階段から落とす、落とさないの話をしていたのを陛下と父上に報告してきたのよ。」
「チッ!」
どうやら本性を表してきたようである。
「私がレックスを嫌うことはあっても、何の努力もせずにのうのうと生きてきた貴方に嫌われる覚えはないのだけれどね?」
「ふざけるな!いつだって僕の前を余裕綽々で歩いて来たくせに!」
「じゃあ、貴方も朝5時から夜0時までコースでいきましょう。」
「何言って・・・」
「実は貴方達3人の勘当後の身柄は私に陛下から一任されているの。特にレックス。私が血反吐はきながら手に入れた金に手を着けた貴方が悪いのよ?」
ゾッとするような殺気を少しばかり放っただけで、ビクッと固まる3人。
「兵士達から聞いたのだけど、花街には男性も働いているんですって。男娼といったかしら?」
チラリと側近たちの方へ視線を向けつつ、それはそれは渾身の笑みを浮かべて見せれば、側近たちはニカッと白い歯を見せて笑い返す。
この主人にして、この側近たちありと言ったところか。
「次期女皇帝となる私を敵に回した時点で、もう破滅しかないと分からなかったのでしょうね。残念だわ。」
パクパクと口を開けたまま、何も言い返せない3人に衛兵たちが近づいていく。
そして今度こそ本当の終幕を迎える。
花街へ売られた3人はミラさんに貢いだ金を稼ぐまで年期は明けない。
朝から晩までコースで、私と同じ睡眠時間にしたから、今頃睡眠の大切さを思い知っているでしょう。
国境で放逐された2人は、隣国の国境の町で案の定惨殺死体となって発見される。
さすが天下に轟くボンクラ元皇太子。わざわざ国境の町にて元の身分を明かしたそうだ。
どうせ火に油を注ぐ真似をしたのでしょう。
戦で家族を虐殺され、家を焼かれ町を壊滅状態にされた隣国の者達は、戦が終わってもまだ気持ちの整理がつかない者が沢山いたのである。
我先にと町の住民たちは刃物を持ち出し、2人を切り刻んで町の入り口に吊して晒し者にしたそうだ。
ちなみにミラさんの実家であるクレール男爵家だが、ただでさえミラさんの浪費癖で家が傾きかけていたところを、皇家への莫大な慰謝料と国宝の窃盗の容疑で事業が上手くいかなくなり、最終的に男爵夫妻は一家心中を選んだ。
そして私はというと・・・。
「眠~い・・・」
今日も惰眠を貪る夢を胸に睡眠を削って、公務に励む姿が王宮にあった。
私、シエル・グランフィールドが睡眠より愛する筋肉ベッド?こと、伴侶となる運命のお相手に出会うのは、もう少し先のお話し。
~お終い~
全く甘い展開にならず…これは恋愛カテゴリーなのでしょうか?とツッコミたくなる皆さん、その気持ち、よ~く分かります。
旦那様は筋肉ベッド・・・是非書きたい続編ですが、需要はあるのでしょうか???
誤字脱字報告ありがとうございました。
なろうさんに初投稿してよかったです。
ありがたやありがたや・・・。
自分の文章の拙さにしょんぼりしつつ、やはり
自分では気づかなかったので嬉しい~!!と
思わず目が潤んだ私です。