三色 この休日の世界で
目が覚めベッドから身を起こす。今日は休日で漫画の新刊の発売日だ。漫画は良い、好きだ。
色が見えない俺にとっては漫画は相性がいいからだ。それでいて自分が経験もしないような事を見させてくれる。
俺は漫画を買いに服を着替えて出発する。斗弥は今日は用事で来れないため一人で行く。徒歩7分程度で着つその本屋は結構広い、また本のみにとどまらず中古品からゲーム機など沢山の商品が売っており、よくお世話になっている。本屋に着くと目当ての本を探しながら他にも面白そうな本は無いか歩き回る。いくらか歩いたとこで残り一冊となっている買う予定の漫画を見つけたので手に取ろうとする。本を取ろうとした瞬間、視界の端からもう一つ、自分以外の手が伸びてきぶつかった。
「「ごめんなさい」」
二人は同時に、手がぶつかった事を謝罪する。相手の事を見ようとしたら先に相手が驚いたような声を出してきた
「和樹君?!」
「えっ津雪さん?!」
意外にも相手は津雪さんだった。自分が津雪さんの手に触れたと思うと少し恥ずかしくなる
「津雪さんもこの本?」
「う、うん」
手がぶつかった事に対する謝罪も含め俺は引き下がる
「津雪さんが買いなよ、俺は別の日に買うから」
「え、いいの?けど、それじゃ悪いし…」
彼女は何か思いついたのか「だったら」と少し恥ずかしそうに提案してきた
「だったら、その、私の、家に来ない?そしたら一緒によ、読めるでしょ?」
「それに、この本について話し合ってみたいし」
彼女は笑顔でそう言うと、断れなくなり提案を了承した
「どうやってこの漫画知ったの?」
「えーと……」
そう談笑して行くうちに津雪さんの家に着いた。
そこは俺が住んでるアパートと道路を挟んだ向かい側だった。
「俺ん家に近い…」
「え?和樹君の家どこ?」
「向かいのアパートだよ」
「知らなかった!こんなに近かったんだね。ま、立ち話もあれだし中に入りなよ」
俺はお邪魔しますと言いながら家の中へ入った、親はどうやらいないらしい
「私の部屋二階だから付いてきて」
階段を登り津雪さんの部屋の前に立つ
「入って良いよ」
そう言われ津雪さんの部屋に入ると良い匂いがしてきた、小学生以来の女子部屋、少しドキドキする
「私、お茶とか持ってくるね」
「ああ、ありがとう」
津雪さんの部屋を見回す、勉強机ととベッド、真ん中には低いテーブルとクッション、他にも色んな本が入っている本棚とクローゼットなど漫画にあるような綺麗に整えられた女子部屋であった。そして勉強机の上には前拾ったポーチとお守りが置かれていた。
あれ、このお守りどこかで…
そう思いお守りを見ようと手を伸ばす
「和樹君?何してるの?」
いつの間にかお茶とお菓子をトレイに載せた津雪さんがドアの前に立っていた
「もーダメだよ、女子の部屋で物なんか漁ったら。何見ようとしてたの?」
「お守りを見ようとしてました。すいません」
今頃あらぬ誤解(誤解ではないが)を招いてもおかしく無いのにそれを許してくれる津雪さんに感謝した
「お守り?ねえこのお守り知ってる?」
そう言いながらお守りを見せてきた
「いや、どこかで見た事あるな程度しか…」
そう言うと彼女はあーやっぱりとか覚えてないかとかボソボソ独り言をベッドに座りながら呟いていた
「ま、良いや。それより漫画を見よう、漫画を」
彼女は「おいで」と言いながらポンポンとベッドを叩いた
「え?なんで?」
「なんでって、じゃないと一緒に漫画読めないでしょ?」
ごく当たり前のように言ってきた
良いのかよと思いながら津雪さんの隣へ座る
22.4センチ、その小さな本は少年と少女の距離を強引に縮める。
彼女はふふっと笑うたび俺の心拍数は格段に上昇する。一緒に漫画を読む時間はそう長くは続かなかった。
「 あー面白かった。次の展開が気になるなー」
「わかるよその気持ち、やっぱり恋愛漫画は面白いな」
「私もああいう恋、したいなー」
彼女はうっとりした顔で言う。時計を見ると既に結構な時間が経っていた。
「もう時間だし俺は帰るね、今日はありがとう」
「うん、私も楽しかったよ。今度は和樹君の家に行かせてね」
彼女は笑ってそう言ってきた。機会があればねと答え、家を出て自分の家に帰りベッドに寝転ぶ。
まるで夢みたいだった。今日はいつもと違ってすごい楽しかったな、またあるといいな思いながら俺はベッドに身を委ね、深い眠りに落ちて行った
第三話です。気に入って頂けたら幸いです。投稿が遅くならないように頑張ります。