重いよ。
涼夜の高校生時代。
まだ、高校3年生の時。夕日が沈み始めた、淡い青色とオレンジ色の空。俺達以外、誰もいない教室。
「……話って何?」
期待と不安。
様々な感情が身体中を駆け巡り、少し気持ち悪くなってきた。
オレンジ色に染まった明日香はとても綺麗だった。
「別れよ」
「……は?」
僅か2、3メートル先に立つ、明日香の言葉が信じられなかった。
「私達、別れよ」
2度目。背中が冷たくなるのが分かった。喉が締め付けらるように苦しくなり、動悸が激しくなった。
「いやいやいやいや……何で、そんな急に」
「ごめん。私が悪いの」
違う。俺が欲しいのは謝罪じゃない。
「私の頭がおかしいから」
理由でもない。
「涼夜じゃ、駄目だって。そう思ったの。理由は、ないの」
俺が欲しいのは……。
「理由はないって……じゃ、じゃあ、いいよ。俺待つよ」
そうだ。時間だ。こういうのはきっと、時間が解決してくれる。
「また、明日香が俺のこと好きになってくれるまで。だからさ、別れるのは」
「ごめん」
謝るなよ。お願いだからさ。
「ごめんって……。意味分からないよ」
「気持ちって、分からないことだらけなの。矛盾してることが正常なの。だから、私はあなたと」
「別れたくないよ」
あぁ、女々しいな、俺。
「今までだって楽しかったじゃん。告白してくれたのだって、これからもずっと一緒にいようって言ってくれたのだって、明日香だよ?」
分かってる。そんなの分かってるけど。
「明日香といた時間は無駄になるの? ただの思い出になって終わるの?」
頭がごちゃごちゃになる。明日香が誰かの彼女に、誰かの奥さんになるところを想像しただけで、俺は……俺は、
「ずっと一緒に……結婚だって、俺、考えてたんだよ? なぁ、明日香」
「ねぇ、涼夜」
明日香が、俺の言葉に被せるように口を開いた。
「……何?」
とても冷たく、鋭い目だった。
「涼夜……重いよ」