ソーダ味のアイス。
別にいつこんな日が来てもおかしくはない。私達は付き合っていないのだから。付き合ってはいないけれど……。
「まずは、アイスだよな」
私達は、高校生の時からずっと一緒だった。涼夜が彼女に別れを告げられた時だって、私が最初に慰めてあげた。
「依夜もソーダ味でいいよね? ……無視かよ」
いや、そんなことが出来るのは私だけだったと思う。社会人になって、お互い恋人もいないし、節約も出来そうだし、小さなアパートを借りて、同棲をした。
「他、何かいる? あ、飲み直すか。酎ハイ買っとこ」
夜のコンビニ、金曜ロードショー、夏祭り、クリスマス……色んな思い出が詰まった街。
明日、彼はこの街から、あの部屋から去って行く。
「今日は俺の奢りだよ。感謝しろよ? 涼夜様にな」
今夜は、2人で過ごす最後の夜。
「依夜? 依夜。なぁ、依夜」
気が付くと、コンビニの出入り口に立っていた。
「大丈夫? 依夜」
涼夜の心配そうな顔が目の前にあった。
「え? 何?」
「いや、だからさ、アイス。依夜のもソーダ味でよかったよね?」
「あ、うん、ありがと」
涼夜から水色の袋に入った棒アイスを1つ、受け取った。袋を破り、コンビニ前に置かれた塵箱に捨てた。
アイスを食べながら、家に向かって夜道を歩く。
何かが終わる。
漠然だけど、確かに、そう感じていた。
涼夜が水色のアイスに、美味しそうに齧り付いた。
「やっぱ、ソーダ味だよな、アイスは。まぁ、実際、これがソーダの味なのかって聞かれたら迷うところだけど……何だろう。この味がいいんだよなぁ、どうしても」
好きだもんね、涼夜は、ずっと。ソーダ味のアイス。
「思い出すよね、あの日」
涼夜は季節なんか関係なく、ソーダ味のアイスを食べる。暑い日は勿論、寒い日も楽しい日も、切ない日も、悲しい日も……。
「高3の時さ、教室で」
涼夜は何か思い出したような顔をすると、
「あー、もう、止めろよぉー。忘れてたのにさー」
恥ずかしそうな笑みを夜色に染めた。