初めて。
話は少し遡り……。
それはいつもと変わらぬ金曜日の夜。映画を観終えて、深夜のコンビニに向かっている道中だった。
涼夜が突然、立ち止まった。
「彼女、出来た」
私も思わず、立ち止まる。
「……え?」
ふざけて、嘘を吐いている雰囲気ではないと一瞬で分かった。
「いや……え? じゃなくてさ」
涼夜は首の後ろを掻き、それから両手をスウェットパンツのポケットに突っ込むと、
「俺さ、彼女出来たんだ」
まるで自白する容疑者のような顔で言った。
「精神科行く?」
「いや、嘘とかそんなんじゃなく……彼女、出来たんだよ、俺」
分かっていた。いずれ、こんな日が来るかもしれないって。そうなったら、お互い別々に暮らそうって。
「ふーん、そーなんだ」
「すっごい、興味なさそうじゃん」
でも、何でだろう。笑顔が作れない。胸が苦しい。
「いつから?」
「んーと、3ヶ月ぐらい前から」
「そんな前!?」
信じられなかった。今の今まで涼夜から一切、彼女がいる素振りは見られなかった。
「そんでさ、俺さ」
嫌だ。これ以上何も聞きたくない。
「ここ出てさ、彼女と新しい部屋借りて同棲しようかな、って」
次から次へと繰り出される涼夜の言葉に、どうしてこんなにも拒絶反応が出てしまうんだろう。
「……場所とか、決まってんの?」
「うん。駅からちょっとだけ遠いんだけどさ、南沢寺に安い部屋見付けてさ」
初めてだった。
「ふーん、そっか。いいじゃん。おめでと」
涼夜に対して、こんな得体の知れない感情が湧き上がるのは。
この時が、初めてだった。