深夜のコンビニ散歩。
夜の散歩は好きだった。
毎週金曜日、映画を観終わった後。ぐだぐだと2人でコンビニへ向かう。この無意味な深夜のコンビニ散歩が好きだった。
今夜は、私の我儘で少し早めのコンビニ散歩。閑静な住宅街に2人分の足音が響き渡る。
「もうちゃんと荷物まとめた?」
「いや、それがさ、殆ど必要だなって思うのなくてさ」
涼夜は「まだ少し寒いから」とTシャツの上に藍色のパーカーを羽織って来た。
「ちゃんと捨ててってよ」
涼夜には暗い青系の色がよく似合う。本人もそれを自覚してか、こういった傾向の色の服を好んで着ている。
「りょーかいりょーかい」
彼の変わらない笑み。ずっと変わらない。適当に笑っているだけなのに、見ているだけで何でこんなに呼吸をするのが難しくなるんだろう。
「……何かさー」
「んー……?」
と、涼夜は気の抜けた返事をした。
「こうやって、2人で歩くのも最後かーって」
言ってから後悔した。じわじわと切なさみたいなものが喉の奥を締め付けた。
「ははは」
涼夜が何でもないように笑った。
「そんな、大袈裟な」
そうかな、大袈裟かな。死ぬわけでもなく、今生の別れでもない。それでも、毎週のようにやってきた、金曜日の夜はもう2度と体験出来なくなるんだ。
いいんだろうな、きっと。涼夜はそれでも。だって、彼女さんとの新しい生活が待ってるから。いいんだろうなぁ、きっと。私とは違うから。
いつからだろう。涼夜といる時、夜の散歩をしている時、嫉妬のような感情が私を襲うようになったのは。
「思い出すわ。今みたいにコンビニ向かってたらさ、涼夜が恥ずかしそうに……」