止まらない。
気が付いたら、再び映画に集中していた。
それを断ち切ったのは、バイブ音だった。涼夜のスウェットズボンのポケットに入っているスマホが震え出した。
「誰だろ」と言いながら、涼夜はスマホを取り出し、画面を見た。
「ん……明日香」
涼夜はスマホの画面をタップし、左耳に当てた。
私は黙って映画を観続ける。観続ける演技をする。
「おーお疲れ。どうした? ……え、いいの? ……はは、うるせーなー。……11時かなー。……さんきゅー。お休み」
涼夜は電話を切り、再びテレビに視線を戻した。
「彼女がさー明日、車でここまで来てくれるって」
嬉しそうだった。楽しそうだった。
「へーよかったじゃん。免許なしは使えないね」
「うわ、さっき同じこと彼女にも言われた」
……何が、彼女よ。
彼が幸せそうであればある程、何故か私の胸は締め付けられた。
「何それ。ウケる」
「ウケないでよ。泣きそうだわ」
と言いながらも、涼夜はヘラヘラと笑っていた。
あぁ……イライラするなぁ。
「あーもう!!!!!」
私は勢いよくソファから立ち上がった。
「……びっくりしたぁ。何? どうした」
涼夜が驚きの目をこちらに向けた。涼夜のまん丸な目、本日2回目。
「コンビニ行かない?」
何故、コンビニなのか。何故、今なのか。理由は簡単。逃げ出したかったから。部屋に立ち込めたどうしようもない憂鬱から。
「いいけど……まだ映画終わってないよ」
映画なんてどうでもいい。今、必要なのは映画なんかじゃない。
「どっかの誰かさんが惚気る所為で全っ然、集中出来ない」
私の中で蠢く負の感情を、映画が終わるまで黙って留めておける自信なんてない。
「そんな惚気てなくない?」
「あぁ!? ……何か言いました?」
「いいえ。何も」
分かってる。私が理不尽で、頭のおかしいことばかり言っていることは。涼夜が優しいから、付き合ってくれていることは。
涼夜はやれやれと言うように溜め息を吐くと、「宵宵」を一気に飲み干した。
「はい、俺が悪かったです。2人で楽しくコンビニ行こう」
でも、あと少し、もう少しだけだから、私の我儘に振り回されて欲しい。
「賢明な判断ね」
止まらない。
金曜日の夜は、確実に進んでいる。
金曜日の夜は止まらない。