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同棲癖。  作者: 濃紺色。
夜と海辺の街。
14/16

水色。

「僕」から見た、海辺の街と「私」。

濃紺色。

君は夜の色をそう表現した。

青色にも黒色にもなり切れない不器用な色をした夜が大好きだ、って。

夜の海を近くの浜辺で眺めながら、よく君と一緒に過ごした。特に、君は泣きたい夜にここへ来た。そして僕にこう言った。


「あなたに似合うのは濃紺色だと思う」


僕にはその言葉の意味を理解することは出来なかったが、多分、悪い意味ではなかったと思う。

東京にはない静かな夜と、嘘偽りもなく真実だけを見つめられる濃紺色に染まった海。

僕は海辺の街で過ごすそんな夜が好きで、日々君が泣くのを少し期待していた。

今、僕の前に広がっているのも間違いなく、あの頃と同じ海だった。君の命を奪った海だった。夜によって静かに濃紺色に染まった海だった。

ただ、あの夜達と違うのは隣にいた涙を流す君が、もう、ここにはいないということ。

君に似合うのは水色だと思う。

昼間に見る海のように、輝いていて、穏やかで、優しくて……儚くて。

君といると、誰もが安心する。胸が水色で満たされる。

あの水色をもう1度娘に、東京で出会った新たな家族に見せたくて。逃げるようにして去ったこの街に、またやって来たんだ。

本当にそれだけだろうか? それなら何故、僕は1人で夜の海を見つめている?


「僕は……」


涙が溢れた。

今まで忘れていた感情が一気に溢れ出した。

そうだ。この感情が嫌で、僕は娘と東京に移ったんだ。


「あなたに似合うのは濃紺色だと思う」


間違いなく君の声だった。

温かい水色に染まった、君の声だった。

心はとても安らいでいた。

涙を拭い、微笑んだ。


「そうだね。ごめん……ありがとう」


明日、東京に帰ろう。僕達がこれからもずっと生きていく街に。もう1度、家族と水色の海を眺めてから。


「……そっか」


僕は、僕はただ、

君の声を、君の存在を、近くに感じたかっただけなんだ。

君に似合うのは水色だと思う。

そう言ったら君は笑うだろうか。

でも、それでもいいと思う。

だって誰が何と言おうと、

君は僕にとっての海辺の街だから。

『夜と海辺の街。』、完結です。

ありがとうございました。


ちなみに『同棲癖。』は終わりましたが、依夜と涼夜にはまだその後の話があります。


依夜のその後を知りたければ、『路地裏セブン』を。


涼夜のその後を知りたければ、『南沢寺での惰性的な日々はエモい。』を。


どちらも知りたければ、両方を。


宜しければ、覗いていってください。


それでは。

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