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雲を見下ろす険しい岩山の頂上付近
不自然に開けた草木のない空間がある
ひとつの人影が見える
着流しに一本の日本刀を鞘に納め
右手は柄を握り、今にも抜きそうな形で静止している
首辺りでざっくばらんに切られた赤毛が風に揺れ
中性的な顔立ちは市井に下りれば、10人中10は振り返るだろう
凛とした瞳は一点を見つめている
刀が抜かれている
音は無かった
まるで過程をそっくりそのまま無視したかのように
刀は一瞬でそこに移動していた
剣士はおもむろに抜いた刀を鞘に納め、無意識にため息をつく
まただめだったと
両親が死んだのはいつだったか、まだ物心つく前だった気がする。
死因は父親は病、母親はその薬の材料を森に取りに行ったきり、帰ってこなかったそうだ、大方獣に食われでもしたのだろう。
幸いなことに私の住む村は、土地が肥えていて、蓄えが十分にあった。身寄りのない小娘ひとりを村全体で養って行く事も許された。
私が住まわせてもらっていたのは村長の屋敷(屋敷といっても他の家より2,3部屋が多いだけであったが)で何不自由なく暮らしていたと言えるだろう。
そのまま暮らしていれば、年頃になって領主のところへ奉公に出されていたか。村の男と結婚して平和に人生を終えていただろう。
しかしそうなることはなかった。
私は人生を変える男に出会うこととなったのだ。
なるべく続けます