9 魔剣と買い物
さて、女の子の服ってどんな店で売ってるんだ?
確か雑貨屋の通りにそれっぽい店があったような気がする。
その店に入ったこととか当然ないんだけどさ。
記憶通りのところに女性服の店はあった。高級そうな店だ。
店に入ってすぐに後悔した。
場違い感がひどい。
冴えない男がひとりで女性服の店で買い物とかすごくつらい……
キョロキョロまわりを見るとかムリっす。
(あっちのほうに可愛いのがあるよー)
こっちか?
適当な指示でもなんとなく通じてしまうのが、いいところではある。
(うんうん、そこの右側。
その花柄のワンピースとってみて)
ん、ワンピースってこれ?
(それそれ。
あ、待って。こっちの水玉のやつのが可愛いかな)
これ?
(それじゃない、その手前の。
うん、それ。
どっちのが可愛いと思う?)
んー、どっちも可愛いんじゃない?
(もう、適当に言ってるでしょ。
しっかり見てよ)
だって服だけ見てもわかんないよ。
両方とも買っちゃう?
(え、いいの? やったー)
しっかり選ぶのは本人を人間の姿で連れてきてからにしよう。
今もなんか店員がじっとこっち見てるし……すごく、つらい。
じゃ、両方とも買うぞ。
さっさと行こう。
(待ってよ、下着は?)
え、下着も……そりゃいるだろうけどさ。
俺が買うの?
(下着なしでワンピース着て自分で買いに来いって言うの?)
そうですね、しかたないから買いましょうね。
下着売り場は……あっちか。
そして大人物の下着とすぐ隣で売ってるんですね。
お願いだからすぐに選んで。
(さすがにかわいそうだから、シャツは手前のやつでいいよ。
うん、それをニつで。
で、パンツはどんなのにしよう?
セクシーなやつがいいよね)
ごめん、セクシーなパンツ選んで買うとかいう拷問だけは勘弁してください。
(しかたないなぁ、じゃもうなんでもいいよ。
うん、それでもいい)
俺が適当に指差したやつでいいことにしてもらった。
(ブラもほしいよ)
ブラとか要らないだろ、もうちょっとお胸が膨らんでからだろ。
(そういうものなの? 人間の女性はブラ着ける風習だと思ってた)
たぶん、そういうものです。
詳しくは知りませんが。
猛ダッシュで会計してもらった。
もう変質者を見る目で見られてるんだろうなぁ。
すごくつらい。
世の中の母親亡くしたお父さんとか、どうやって買い物してるんだろう。
よし帰るぞ。
とりあえず帰って、それ着てからちゃんとした買い物しよう。
(待って。靴とかどうしよう?)
あー靴か。ないと外出できないよな。
でも靴ってサイズが服より大事だろ思うんだが。
本人なしじゃ難しいぞ。
んー、そうだ。
確か雑貨屋にサンダル売ってたから、適当なサイズでサンダル買って帰ろう。
それからまた改めて買いにくればいいんじゃね。
(うん、いいアイデアだね)
急いでサンダルを買って帰宅した。
☆
魔剣は帰宅するとすぐに人化して服を着始めた。
すごく嬉しそうだ。
服を着るのは初めてだと思うが、過去にしっかり魔王に奉仕する女性たちの様子をそっと見ていたせいで知識としては知っているようだ。
そういえば、また魔剣に戻ると服はどうなるんだろう?
(脱げちゃうと思うの)
不便だな。
毎回着ないといけないのか。
アイテムボックスの中にある服に一瞬で着替えるとかできないのか?
(うーん、できないと思う)
そっか。
(ねぇどう? 似合う?)
服を着終わったようで、くるりとまわってポーズを決めてくれた。
ちょっと服のサイズが微妙に大きいような気がするがすっごく可愛い。
(えへへ)
俺は思わず頭を撫でた。
(ほわぁぁ。
あのね、らいむに頭撫でられるの好きー)
満面の笑みを浮かべてくれた。
なんだ、この可愛い生き物は!
俺は思わず抱きしめた。
もう成長とかしなくていいよ。このままずっと可愛いままでいてくれればいい。
(むぎゅー。苦しいよー)
あ、ごめんごめん。
(離しちゃだめなのー。苦しいけどギュッとされてるのがいいのー)
そのまま俺は強く抱きしめるのだった。