19 魔剣と酒
冒険者ギルドでは無事に魔法袋を使ってDropアイテムの買取をすませられた。
運良くダンジョンでレアモンスターのゴールデンホーンに出会って魔法袋をゲットできたという嘘でない設定が問題なく受け入れられた。
嘘じゃないからな。
容量が極めて小さいものだったということを言わなかっただけだ。
早めに狩りを終えてしまったので1日の稼ぎとしては少なかったが、超レアなアイテムを手に入れられたのでいい一日だったと言っていいんだろうな。
俺は冒険者ギルドの帰りに酒場に寄った。
俺がカウンターに座ると無愛想そうなマスターが注文を聞いた。
「高くてもいいから、美味くて思いっきり酔えそうな酒と、腹が膨れそうなつまみを適当に頼む」
俺は金貨を一枚渡すと、
「先に払っておくから足らなくなったら適当に追い出してくれ」
と注文した。
マスターは真っ赤な酒の入ったボトルとグラスを俺の前においた。
俺はグラスに酒を注ぐと一気に飲み干した。
美味いとは思うが、めちゃきつい酒だな。
ちょうどいいや。おもいっきり酔えそうだ。
(らいむー、お酒飲むの初めてみたよー)
若い時にムチャな飲み方していろいろ痛い目にあったから、酒は辞めてたんだよな。
ダンジョンで狩りしてる間はいいんだが、さっき少し家に帰って思ったんだ。
一人で家にいると耐えられなくなってくる。
かといって、人付き合いも苦手な俺だから、酒でも飲むしかないんだよ。
肉を中心とした皿が出されたので、それをつまみながら、酒を飲み続ける。
(あまりムチャな飲み方したら、体にわるいよ)
わかってるって。
だから、ちゃんと食べてるだろ。
酒で体を壊したら、なんのためにアンジェが……
俺が来た頃はまだ客もまばらだったが、いつのまにか酒場も満席に。
テーブル席には狩りを終えた冒険者たちのパーティーが騒がしく今日の成果を語っているのが聞こえる。
ああやってパーティー組んでダンジョンに行ったのって、本当に駆け出しの頃だけだったよな。
四人パーティーでダンジョンに潜って、ついついムチャして仲間を一人死なせちまって、そのままあのパーティーは解散になっちまった。
あのときいっしょだった魔法使いの子は可愛かったよな。
あのまま仲良くなって、いつか俺のっていう妄想をよくしてたもんだ。
(ふーん、そうなんだ)
別にそういう妄想って俺だけのものじゃなく、よくあるもんなんだぜ。
ほとんど上手くいくこととかないけどな。
っていうか、酔っぱらいのつまらない思い出に相づちうってるんじゃねぇよ。
(だってー)
うそうそ。
たぶん一人で黙って飲んでるとどんどん落ち込んでくるから、くだらないこと言ってくれてたほうがずいぶん救われてるんだと思うんだって。
なんとかギリギリのところで救われてると思うんだ。
たとえ、人としての姿がなくなっても、アンジェがここにこうして居てくれてるってことで……
アンジェ……
(おーい、寝ちゃダメだぞー、おーい……)
☆
「お客さん、閉店ですよ」
マスターに揺すられて俺は目を覚ました。
(やっと、起きたね)
酔っ払って寝ちゃったようだな。
俺が帰ろうとすると、
「お釣りだよ」
マスターはそう言って何枚かの銀貨と銅貨をくれた。
俺は無造作にアイテムボックスに放り込んで酒場を出た。
家に帰ると俺はそのままベッドに倒れ込んだ。
これだけ酔っ払ってれば、よく眠れそうだ。
☆
朝、目を覚ますとひどい頭痛だ。
完全に二日酔いだな。
(おはよー)
おはよー。
なぁ、二日酔いとか例の吸血でなんとかなるか?
(なんとかなると思うよー。
でもムリせずにもう少し寝ててもいいんじゃ?)
いや、頼む。
俺は魔剣を抜くと刃を左腕に当てた。
魔剣はわずかに俺の腕を切ると流れる血を吸った。
人化での吸血のときほどの感覚はないが、一瞬アンジェと溶け合う感覚が俺を襲った。
その感覚に慣れてしまったせいか、ダンジョンでのときのように気を失うことはもうないようだ。
(終わったよー)
ありがとう。すっきりした。
二日酔いのままダンジョンとかはダメだからな。
ダンジョンではしっかり狩りして魔剣に進化してもらわないと。
そうすれば、もしかしたら……




