15 魔剣と壊れたスキル
俺はすごくすっきりして目を覚ました。
(よかった。らいむが生きてた。
死んじゃったかと思った)
アンジェがすすり泣いてる。
そうか、俺は助かったんだ。
どのくらい気を失ってた?
(ほんの数分くらいだよ)
そうか。
アンジェのほうはどうなんだ。
ムリをしてどっか壊れてないか?
(今調べてみてたけど、自己強化のLv2の分が壊れて元のレベルに戻っちゃったみたい。
アイテムボックスと鞘は大丈夫みたい。
人化に少しヒビがはいってるけど、やってみないとわからない感じ。
瞬間着脱は剣のままではどうなってるかわからないかな)
そうか。
とりあえず大事なさそうでよかった。
今日はいったん引き返そうか。
(うん、それがいいとおもうー)
アンジェ、ありがとう。
アンジェのおかげで死なずにすんだよ。
(もうこんなに心配かけたら嫌だよ)
あぁ、ムリはしないで行こう。
(うんうん)
俺は用心深く戦闘を避けながら帰宅した。
☆
帰宅すると、アンジェはさっそく人化のスキルを試してみた。
スキルにヒビがはいったという言葉に俺は心配していたが、問題なく可愛いアンジェの姿になった。
でも、何も着ていない。
瞬間着脱のスキルはダメだったのか?
(んと、瞬間着脱も半壊しちゃってるみたい。
脱ぐのは大丈夫そうなんだけど着るほうがまったく機能してないや)
あまり役立たないスキルになっちゃったな。
他はどんな感じなんだ?
(だいじょうぶそうかな)
本当によかった。
俺はアンジェを撫でながらつくづくそう思った。
(えへへ)
アンジェは素敵な笑顔で答えてくれた。
一安心。
そう思った瞬間だった。
アンジェの体がブルブルと震えだした。
(あ、あ、あ、あ、あ、あ)
どうしたアンジェ。
(お願い……ギュっと……捕まえて……おさえ……)
わかった。
俺はアンジェの体をベッドに抑えつける。
アンジェの体が上下にはげしく揺さぶられるが、人間状態でのステータスは俺のほうがはるかに上だ。
そのままアンジェを抑えつける。
アンジェは手刀でまわりのものを切り裂いていくが、あいかわらず俺のことは傷つけられないようだ。
そのままアンジェを抑え続ける。
しばらくするとアンジェの暴れるのは収まってきた。
だいじょうぶか、アンジェ。
(苦しいの……壊れちゃったみたいなの……どうしたらいいか……)
いったん魔剣には戻れないのか?
(戻れないみたい……体がコントロールできない……)
何か俺にできることはないのか?
(もしかしたら……やっぱりダメ……)
何かあるのか? なんでもやってみよう、ダメでもともとだから。
(らいむの……らいむの血を吸えばもしかしたら……)
血か?
俺の血でよければいくらでも吸えよ。
どうすればいい?
刃物は使えなかったっけ、俺が肌でも食いちぎって血を垂らせばいいか?
(ありがとう……吸血スキルが使えるみたい……わたしの口元に首を近づけて……)
言われた通り俺はアンジェの口元に自分の首を近づけた。
アンジェは俺の首元に歯を立てて血を吸い始めた。
その瞬間、ダンジョンの中で魔剣の状態で血を吸われたときの何倍もの感覚で俺の中にいろいろなものが流れ込んできた。
あー、わかる。この流れ込んでくるものはアンジェの感覚なんだ。
俺の血がアンジェの中に溶け込んでいく。それは俺そのものがアンジェに溶け込んでいくように感じる。
俺の魂とアンジェの魂がドロドロに溶け合ってひとつのものになっていくのがわかる。
なんという感覚だ。男女のまぐわいとか、今のこの感覚に比べればすごく幼稚なものに思える。
俺とアンジェはひとつとなっている。アンジェのすべてを感じる。
もう何も聞かなくてもわかる。
これでアンジェは大丈夫そうだ。
もうこのままずっとアンジェとひとつのままでいたい。
俺とアンジェは頭が真っ白になり気を失った。
俺が意識を取り戻すと同時にアンジェも目を覚ましたのがわかる。
俺がアンジェを見つめるとアンジェがすごく恥ずかしそうにしてる。でも目をそらそうとはしない。
(ありがとう、らいむ)
もともと俺の命を助けようとしてのことだから、ありがとうを言うのは俺の方だよ。
(どっちでもいいね)
そうだな、どっちでもいいな。
(なんか変な具合になっちゃったよね)
こんなふうになるとは思わなかったよ。
(えへへ、らいむとひとつになっちゃった)
その言い方、他の人にするなよ。
絶対、誤解されるからな。
(誤解されちゃイヤ?)
アンジェとそうなってるってのはいいんだけど、アンジェの見た目は小さな女の子なんだからな。
俺が酷いことしてるようにしか思えん。
(うふふ、そうだね)
でもまぁ。もうそういうこともどうでもいいな。
(うん、どうでもいいね)
それで、どうなんだ?
人化スキルの壊れ方はどうにかなりそうなのか?
(うーん、今だいじょうぶなのは一時的みたい。
毎日血を吸わないとまたおかしくなっちゃうかも)
毎日こんなことするのか。
(うん、毎日しないといけないみたい)
しかたないな。
(うん、しかたないよね)




