14 魔剣と毒
それから2日は特に何も変化なし。
俺の方もレベルが上がりにくくなってきた感じだな。
昔のことを思えばここ最近のレベルアップしまくってたのが異常なんだよな。
何も慌てる必要はない。
アンジェといっしょに戦って着実に稼いで、そして家に帰れば人間の姿になったアンジェに癒やされる。
満ち足りた生活だろう。文句をつけるところはまったくない……
いや、ひとつあったか。
いつもアンジェが一緒にいるから、いろいろと貯まってるんだが、これどう処理すればいいんだよ。
アンジェが寝静まってからひとりでそっとするしかないのか……
(ぐっすり寝てるからだいじょうぶだよ、きっと!)
いや、絶対だいじょうぶじゃないだろ。
そしてその翌日、俺のレベルがひさびさに上がった。
【 名 前 】 ライム・パースロン
【 職 業 】 戦士
【 レベル 】 26
【 体 力 】 600+300
【 魔 力 】 160+80
【 攻撃力 】 410+210
【 防御力 】 320+160
【 俊敏性 】 320+160
【 スキル 】 剣術 初級回復魔法 初級一般魔法
【 状 態 】 呪い
ステータスの伸びはまぁこんなこのか。毎回アランダムの最高を引くとかいうことはムリだろうからな。
運の偏りはどうしてもあるが、俺のステータス運は普通くらいだろ。
着実にレベルは上がってるんだから、焦らなければいつかは強くなる。
年齢による衰えを気にするのはまだ先だからな。
よし、前に決めた通りレベルが上がったことだから次の階層を目指すことにするか。
(がんばろー!)
アンジェも張り切ってるようだ。
新しい階層に降りたって気づいたのは、やたらと天井が高いことだ。
そしてその天井の高さに比例するように、大型のモンスターが多そうだ。
モンスターが大きいと急所に届きにくいので注意が必要だ。
一撃で倒すのが難しくなるから、その分状況判断に気をつけないとな。
俺は剣こそ超一級品だが、防具は安物だから、なおさら気をつけないといけない。
慎重に敵を選んで、単独でいたジャイアントオーガに挑んだ。
上の階層にもいたオーガを一回り大きくしたような敵だ。
ジャイアントオーガの心臓には剣がやっと届くくらいな感じなので、俺はムリをせずにジャイアントオーガの膝を切り裂く。そして体勢を崩したところを狙って首や心臓を攻撃する作戦を取った。
敵の行動は鈍いためよく見て行動すれば危険は少ない。
とはいえ、一撃で倒せない敵と複数で戦うのは危険だ。慎重に単独の敵を選ばなければならないのは時間がかかってあまり効率がいいとは言えないな。
これは失敗したかな? あまり美味しい階層とは言えないな、戻るかどうか、もう少し狩ってから考えよう。
そう思いつつも戦っていたオーガへ一撃目の攻撃をしたところ、バランスを崩して俺のほうに倒れ掛かってきた。
俺は後ろへ大きく飛んで避けたんだが、そこにいたのはジャイアントスコルピオンだった。
ジャイアントスコルピオンの毒針に俺は左腕を刺されちまった。
(らいむ!)
アンジェは勝手にジャイアントオーガとジャイアントスコルピオンにとどめを刺した。
左腕にくらった毒針からの毒が強烈に俺の生命力を奪う。
俺は咄嗟に解毒魔法を唱えたが、俺の初級回復魔法ではその毒を解除できなかった。
とりあえず、回復魔法で生命力を維持するが、俺の魔力の量からしてどれだけの時間稼ぎができるか心もとない。その間にこの毒が自然回復してくれるとは思いにくいな。
いっそ、この腕を切り落せば毒がまわるのを防げるか。
(ムリだよ。前も言ったけど、らいむの体を傷つけることができないようになってる)
そうだったか。何か手はないか。
くそ!
この階層に対する知識のないまま、舐めてた俺のミスが命取りかよ。
(あきらめないで)
なんか手があるのか?
(進化すればなにかいいスキルが手に入るかも)
そういえばしばらく進化してないな。
だが、いつ進化するかわからないのはつらいな。
動けば毒の回るのも早まるし。
だが、それにかけるしかないか。
(待って、ムチャだよ。今動いたら死んじゃうよ)
そんなこと言ったってそれに賭けてみるしかなさそうだ。
(今のままでやってみる。強引に進化できるかもしれない)
できるのか? そんなことが。
(わからないけど、できる気がする。
……でもなんかいろいろ壊れちゃうかも)
そんなムチャするな。
(今ムチャしないでどうするのさ。
らいむが死んじゃいやだよ。
もうひとりぼっちになるのはいやだよ)
……ごめん。頼むよ。
(うん、待ってて!)
アンジェがブルブルと震えたと思ったら、大きく輝いた。
でも、いつもの光り方となんか違う感じだ。
(やったよ、ピカーって光ったよ。
今度のスキルは吸血。
うん、これならいける)
吸血? 今までも血とかモンスターから吸ってたんじゃ?
(これは違うんだ。
らいむの体から血を吸って悪い状態を回復することが……
あ、解説はあとにするよ)
アンジェは俺の傷口へ刃を当てて、毒ごと血を吸い取っていった。
アンジェと俺が溶け合うような感覚に見舞われ、俺の頭の中は真っ白になってそのまま気を失った。