12 魔剣と試着室
目的を達したらさっさと帰ることにする。
夜更かしは成長によくないからな。
帰宅したらすぐに就寝。
朝までぐっすり寝た。少し寝坊したのはまぁ大目に見て欲しい。
あたりを見渡すと、アンジェはベッドの横でお食事中だったようだ。
女の子の姿で生肉をかじってる姿はちょっとシュールだ。
俺が目を覚ましたのを見て、にこりと微笑んでくれたんだけど……
口の周りが血で真っ赤に染まってて、ちょっと怖いぞ。
(おはよー)
おはよう。
アンジェは、人間の姿でも生肉とかのほうがいいのか?
(焼いたりしたお肉も美味しいけど、生肉も美味しいよ。
どうも、植物は食べてる気がしないのー)
そうか。
まぁ、嗜好とか人それぞれだから、いいや。
俺も朝食に買い置きのパンをかじることにする。
朝から肉とかちょいと重いから。
(今日もダンジョン行く?)
ちょっと疲れたから今日はパスしよっかな。
後でまた買い物行くか?
服とかもう少し買っておいたほうがいいだろうし。
(わーい。行く行く)
アンジェと手を繋いで街を歩く。
アンジェがとても楽しそうに微笑んでるので、俺もなんだか浮かれてくる。
たぶん、周りから見たら親子か?
こんな大きい子持ちとか思われるのは俺としては思いっきり不本意なんだけどな。
(そう言えば、らいむって何歳なの?)
俺はまだ26歳だ。
まだまだ若いんだぞ。
(微妙な年齢だね)
うっせーわ。
昨日の婦人服の店へ再度。
今日はアンジェといっしょだから、周りの目を気にしなくてすみそうだ。
「いらっしゃいませ。
お嬢ちゃんの服ですか?」
昨日は店員とか近づいて来なかったのに……
まぁ不審者に話しかけるとか危険な真似はしないんだよな、普通。
「はーい」
アンジェがかわいく返事する。
そう言えば、アンジェの声って始めて聞いた気がする。
声も可愛いじゃないか。
「いいお返事ね。
娘さんですか?」
店員が俺に話しを振ってくる。
そう言えばアンジェとの設定とか考えてなかったな。
「はい、養女でして」「嫁です」
「え?」
おいおい、と俺はアンジェのほうを見るが、アンジェも俺の方をじっと。
どうすんだよ。
「あ、大きくなったらお嫁さんになるのってことですね。
お嬢ちゃんならすっごく美人さんになりそうで楽しみですね」
すっごくいいふうに解釈してくれた。
できる店員だな。
「あ、はい」
そういうことにしておこう。
それでいいよな。
(それでいいことにするのー)
後でいろいろ設定を決めておかないとな。
アンジェはあれでもない。これでもないと服をいろいろ選んでる。
「どっちが可愛い?」
「んー、どっちも可愛い」
「いつでも、それだもん。ぷんぷん」
「そんなこと言ったって……。一度試着させてもらえば?」
「うん、着てみるー」
試着室に俺もいっしょに入るのはどうかと思ったので、カーテンの前で背中を向けて待つことに。
くっついていないとダメなのっていろいろ生活には不便だよな。
アンジェがカーテンを開けて、試着した服を着てポーズをとってくれる。
「どう?」
天使かよ!
やっぱアンジェリーナって名前にしてよかったよ。
俺って名付けのセンスあるな。
「すっごく可愛い。よし、買うぞ」
「ふぇぇ。
待ってよー。もう1つのほうも着てみたいのー」
すっごく嬉しそうにそう言う。
「いいぞ。待ってるから」
再びカーテンを閉めてゴソゴソと着替え始める。
こうして待ってる間ってなんか照れくさいよな。
店員さんはこっちをニコニコして見てるし……
そうやって思ってるうちに、アンジェが再びカーテンを開けてポーズをとってくれた。
「こっちはどうかな?」
「こっちもすっごく可愛い。両方とも買おう」
(はぅぅぅ……いいの? それなりの値段してるみたいだよ)
(だいじょうぶ、アンジェのおかげで稼げてるからこのくらいは問題ない)
アンジェは元の服に着替え終わって試着室から出てきた。
「どっちもいただいていきます」
「ありがとうございます。
他にご必要なものはありませんか?」
「下着とか見せていただきますね」
「では、こちらは預からせていただきますね」
店員さんはニコニコと服を預かっていく。
きっと、俺のことをちょろいって思ってるんだろうな。
そしてアンジェとともに下着売り場へ。
こっちはアンジェといっしょでも割りとつらい。
今日はきっと変態扱いとかされてないと思うけど、それでもつらい。
アンジェはパンツをじっくり選んでるようだ。
じっと見てるのはどうかと思うので、俺が目をそらしてると、
「こういうのはどう?」
と、とっても布面積の少なそうなパンツを選んでいた。
「そういうセクシーなのは、もう少し大きくなってからのほうがいいと思うんだが」
「ぬぅ……」
アンジェはガッカリした感じで、ちょっと可愛い感じのパンツを手に取った。
「こんなのかな?」
「うん、そのほうがいいかなって」
「じゃ、これを……いくつくらいあればいいかな?」
んー、アンジェはもうお漏らしとかしない年だから、そんなにいらないよな。
俺と同じくらいあれば足りるものか?
「ニ着あるから、下着ももう三着ずつ買おうか」
「はーい」
シャツや靴下も選び終えて、まとめて精算してもらった。
「全部で24,600ゴールドになります」
(洋服ってそんなにするものなんだ)
この街で一番高級そうなお店だからしかたないかな?
(え……わたしの服なんてもっと安そうなお店でよかったのに)
ダメだよ。アンジェの服なんだからできるだけ、いいものじゃないと。
(そういう主義なんだ。らいむの服もそうなの?)
俺のは一番安い店だな。
どんな服を着たってあまリ変わらないし。
(そうなんだ……)
以前の稼ぎだと結構きつい金額だ。
でも、今ではちょっとした時間の狩りで、このくらいは稼げるくらいになってるし、気にするような金額じゃないな。
俺はポケットからお金を出すフリをしつつ、アイテムボックスから出して払った。
アイテムボックスって便利だよな。思っただけでちょうどの金額が出せるから。
アンジェの要望で今買ったばかりの服に着替えさせてもらって、今まで来てた服を袋にいれてもらった。
まぁアイテムボックスにぶち込めばいいんだから、本当は袋とか要らないんだけどな。
(ありがとう。
でも、あまり無駄遣いしないでね)
いや、全く問題ないって。
アンジェが可愛くなるのは無駄遣いじゃない。
(どうせ何も考えてないでしょ)
まぁそうだな。
新しい服を着て、すっごくご機嫌なアンジェと手を繋いで帰宅した。