1 魔剣と冒険者
新連載よろしくお願いします。
とりあえず、タイトル詐欺の間は毎日更新。
タイトルどおりになったら週2回程度の更新って感じにしたいと思ってます。
(本日はもう1話更新予定です)
「やっちまった……」
まさか隠し部屋の隅に落とし穴まであるなんて。
落ちた先が柔らかい土の上だったからよかったものの、ここにもう一つ危険な罠があったら完全にオダブツだった。
一安心したのも束の間、少し通路を先に進んで俺は愕然とした。
なんだこの階層は。
レベルの高いモンスターばかりじゃないか。
このダンジョンにこんな階層があるなんて聞いたことがないぞ。
……どうやら、普通の手段では来ることができない隠し階層らしいな。
きっと未探索だから、未発見のお宝もあるかもしれない。
だけどなぁ。
落ち着いて考えるとそういう探索より生きてここから脱出するのが先決。
生きていてこそのお宝だ。
俺こと、ライム・パースロンは冒険者。
人付き合いがあまり得意でないこともあり、ひとりでダンジョンを探索している。
基本的には戦士だけど、初級ながら回復魔法が使えることもあり、ひとりでもあまり困らない。
今日もこのダンジョンで低レベルのモンスターを倒して日々の糧を稼いでいたところ、隠し部屋を発見して喜んだものだ。
残念ながら、その部屋自体はすでに探索済みでがっかりしたんだが、諦めきれずに隅をうろちょろしていたら、落とし穴にはまってしまったのだ。
それがこんな階層に繋がっていたなんて。
俺のレベルではとても攻略はムリながら、これを報告すれば冒険者ギルドから結構な報酬を期待してもよさそうだ。
とはいっても、生還できなければ意味がない。
帰還魔法が使えるような高レベルの賢者とかいればともかく、ここから脱出する手段を見つけないとそれまでだ。
とにかく俺のレベルでは、あのモンスターたちを突破するとか絶対ムリ。
落ち着いてまずこの部屋から調べてみよう。
狭い通路でダンジョンと繋がったこの部屋は行き止まりで何もない。
通路が狭いおかげか、モンスターたちはこちらへやってくる気配がないのが救いではある。
天井を見ると俺が落ちてきた穴があるが、天井は高くてとても届かない。
穴と言っても一直線に落ちてきたわけでなく、急な下り坂を時間をかけて転がり落ちてきた感じだったから、たとえ天井の穴に手が届いたとしても、あの穴を逆によじ登っていくとかムリそうな気がする。
部屋は特になにもなくここで行き止まりっていうのはなんとなく不自然な気がする。
無意味な通路、しかも罠もなければ宝箱もない。
いくつかのダンジョンを経験してきた俺の勘は、壁の何処かに隠し通路があると睨んだ。
通路の壁を丁寧に調べていくと、俺は仕掛けを見つけることができた。
巧妙に隠されてはいたが、仕掛けは単純だ。
散々探したがその仕掛け以外には他に何もなさそうだ。一か八かの気持ちで仕掛けを作動させてみると通路の奥が開いた。
隠し通路があったようだ。
俺が隠し通路に入ると、自然と再び壁が動き通路は塞がった。
こちら側にも同様の仕掛けが隠されずにあるので、たぶんこれで再び開くだろう。
隠し通路を進むと、そこは大きく開かれた空間だった。
モンスターの気配はなさそうだ。
よく見ると朽ち果てているものの、立派な造りの遺跡のようだ。
正面にあるのは椅子?
自信はないが、俺がこの部屋からイメージしたのは王座の間、と言っても実際に王座の間とか見たことはないんだけどな。
そして椅子の上に一振りの剣があるのを見つけた。
その剣は見るからに恐ろしげなオーラを漂わせている。
これ、どう見ても呪われてるよな。
話にしか聞いたことがないが、呪われた剣というものがあるそうだ。
そういう剣は極めて強いことも多いが、反面呪いの効果として狂戦士になったり、命をすり減らしたりして、剣を手放そうとしても死ぬまで手放せないというのが定番だ。
これ手に取ったら俺の人生終わりそうだよな。
それでもなんか近くに行っただけで手に取りたくなる誘惑にかられる。
「ダメだ、ダメだ」
あのドス黒いオーラを見てみろよ。
呪われてますよーって自己主張しまくってるじゃないか。
でも、なんか見るからに強そうな剣なんだよな。
あの剣なら、この階層のモンスターとだって戦えそうな。
そんな気がしてくる。
手に取りたくなる誘惑を抑えて俺は他を探索することにした。
しかし、剣以外は何も見つけることはできなかった。
強いて言うならこの部屋にある彫刻の像が高そうな気がするが、とても持ち出せそうな気がしない。
っていうか、さっきの通路よりでかいし、どうやって搬入したんだよってくらいの大きさだ。
何時間もかけて広間の壁という壁を調べたが、ここから脱出できそうな仕掛けは見つからない。
あやしいものは一つだけある。椅子の後ろにある魔法陣の跡だ。
この魔方陣に何か仕掛けがありそうな気がするんだが、物理的な何かではなさそうだ。
もしかしてと思って俺の使える魔法を一通り唱えてみたが何の反応もしなかった。
「完全に詰んだ」
持っている非常食は一食分、水は節約すればもう少し保つが、餓死までのカウントダウンを待つだけ。
それまでに帰還魔法を使えるような高レベルの賢者やあのモンスターたちを倒せるような冒険者パーティーが救援にくる可能性とかゼロと言っていいだろうな。
それとも一か八かであのモンスターたちに向かっていくか。
すっごい嫌な二択だな。
どっちの成功率が高いかとか判断に苦しむ。
あ、もう一つだけ選択肢があったんだっけ?
どう見ても呪われているあの剣。
どうせ死ぬ未来しかないのなら、あの剣に賭けてみるほうがわずかだけ期待できるかもしれないな。
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