ただ、ただいたんだ
音が聞こえてくる。
あの子かな。やっぱり中学校が一緒だったあの子の足音だ。
いつもと比べてだいぶ軽いような気がするが、気にしない。
僕は今日、あの子に告白するんだ。
3年間、思い続けてきたのだ。
顔が熱くなるのがわかる。
心拍数だって上がっている。
心臓の音がはっきりと聞こえる。
息が荒い。
それもそうだ。
ここ最近部活に行けなくてまともに動いていないからね。
食欲だって湧いてこない。
それでも彼女に会えば全てが変わる。
そう、思ったんだ。
彼女が教室の中に入ってきた。
足が地面を踏みしめる音。
久々に聞いたような気がする。
彼女と目があった。
彼女の大きくて漆黒な目に私が映った。
唾を飲み込む。
「....僕のこと、覚えていますか...」
まともに目を合わせられない。
「田城くん...だよね。隣のクラスの」
「覚えていてくれたんだ、......」
少年の声が教室一面に響く。
「実は僕、ずっとあなたのこと、す...好きだったんだ。」
「...知ってるよ。私も...ずっと田城君のこと、みてたから。」
少年の瞳からとめどなく涙が溢れてくる。
こんなに嬉しかったことなんてなかったはずなのに、どうしようもなく悲しい。
冷たい風が二人の間を通り抜けた。
「好きだよ。本当だ。」
彼女が少年に詰め寄る。
教室の角にいる少年は彼女の接近を待つ。
少しして、少年の首から赤い雫が零れ落ちた。
パシャッっと大きな音を立てて、すでに割れていた窓が強風によって地面に叩きつけられる。
少年は急激に冷めていく自分の体など気にもかけずに、ただただ目の前の愛しい彼女を見つめた。
地面を広範囲に赤く染める少年の血。
すでに喉を噛みちぎられて、息が漏れる音しか出ない。
それでも少年は少女の頭を優しく抱きかかえて笑っていた。
......
とある教室の片隅に二つの死体が寄り添って座っていた。
大き目の死体にはほとんど肉が付いておらず、囓られた形跡のある白骨がかろうじて人の形をしていた。
太陽が沈む。
少女の死体らしきものがよろよろと動き出す。
もうこの世にいるはずがない、生きている者を探して食らうために。