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彼女は嘘と共に  作者: 市ノ川梓
第二章 再会は彼女のために
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第八話 彼は伝説で出来ている

花咲グループと言えば業界屈指の大企業であり、ホビー・ゲームに興味のない人でも必ず耳にする名前である。今やホビーだけでなくスポーツや電化製品にまでその名を轟かせているのだから。

 花咲グループ会長、花咲昌三はなさきしょうぞうは業界でも腕よりのプロデューサーだった。彼のチームが作ったタイトルは必ずミリオンセラーを達成し、一時期は他会社が花咲の新タイトルを出す前後二週間全く商品を出さないなんて時期もあったらしい。簡単に言えば完全無欠、伝説の男。

 ……なんて言う自慢話を本人から聞きながら、それはもう巨大なリビングで食事をしていた。目の前にあるのは最高級料理の数々。

こんな料理、僕のところのシェフでも多分作れない。英会話が苦手で外国人の料理人は雇えないからね。

「しっかし、今回は本当にうちの娘が世話になったねぇ……。改めて、お礼を言わせてもらうよ」

 といろんな意味で大きな体をした男が僕に向かって感謝の意を説いた。正直、あんまりうれしくない。

「いえ、僕がたまたま可奈子さんと一緒にいた時に彼女が倒れただけですので、僕は実質なにもしておりません」

 と謙遜の意を伝えながら、厚さ五センチ以上あるステーキを頬張った。

「でも君が可奈子と一緒にいてくれなければ今頃可奈子は独りどこかで寂しく倒れ、死んでしまっていたかもしれない……本当に助かった」

 いつも思うがこの男の娘への愛は気持ち悪いを超えて、一種の狂気だ。これほどまで彼女への愛が熱いから他の男がよってこないんじゃないかとも思う。まぁ、僕にとっては全く好都合の限りだが。

「もう、お父さん。悪い冗談はやめてよー」

 と笑いあう仲睦まじい親子。しかしこの二人の間に入っていくのは本当に大変だった。初めてこの男にあった日は僕の人生の中で最悪の日として永遠に記憶されていくだろう。

「……なに今回のお礼だ。好きな額を書きなさい」

 そう男が言うと一見若そうな執事が近づいてきて、立派な羽ペンと小切手を僕の前に差し出した。

鼓動が一気に高鳴る。……しかし震える手を抑えて僕は言った。

「お義父さん、お気持ちは有り難いのですが可奈子さんを守るのは僕の当然の責務であり、お礼を頂く程の行いではありません。お気持ちだけ受け取っておきます」

 と言って震える手で持ってきた執事に返した。

「ほほう……やはり可奈子が君みたいな誠実で謙虚な青年に貰われて私はこの上ない幸せを感じているぞ。さすがは比企の社長だ!」

 その言葉に一瞬どきりとしたが平然と振る舞った。当然ここで多額の金を受け取るのも悪くないが、実は熟したとき食べるのが一番おいしい。僕はそれを知っている。

「雄大……」

 すっかり彼女の心も僕のものだ。……いや、彼女は僕の物といっても過言ではない。すでに彼女は僕の忠実な財布として機能しているのだから。

「さて……今日は雄大君も泊まっていきなさい。明日は休みだし、その方が可奈子も喜ぶ。……いいかね?」

「……もちろんです」

 しかし言葉とは裏腹に内心では小さく舌打ちする。

「……で本題だが、そちらの女性はどなたかな、雄大君」

 そして今夜の一番の問題がきた。

 男のギラリと現役の頃の力はまだ衰えていない事をひしひしと感じさせる視線が僕の右隣で食事をとっているエリに刺さった。エリはそれには目もくれずに目の前の食事を次々と平らげている。昨晩と同じでこの屋敷のスタッフが慌ただしくテーブルとキッチンを行き来している。すでに彼女だけで五人前は平らげたであろう。

「えと……その、えと……」

 僕が上手い言い訳を考えている間もその気まずい空気は続いた。エリもエリでそれが全く感じ取れないらしい。

「この子は私の友達よ、お父さん? 心配しないで、ね?」

 とその異様な空気に気を利かせて花咲が説明しても、男は一向にその鋭い視線をエリから逸らさなかった。

「私は、雄大君に訊いている……」

 次はその鋭い視線が僕に向けられた。目があうと僕の身体は完全に動かなくなっていた。どうしよう、うまい言い訳が思いつかん……。

「私は彼のボディーガード……」

 といつの間にか口の周りを拭いて食事を済ましたエリが小さく呟いた。

「ボディーガード……つまり雄大君の護衛をしていると。そういう解釈でいいのかい?」

 と険悪なムードの中、男は少し落ち着いた口調で僕に尋ねた。

「は、はい……まぁ、そんな感じですかね……」

 エリの言う事は強ち間違いではない。確かに彼女の立場からしたら、彼女は僕のボディーガードなのだから。

「そうか……ならよいのだが。このことを可奈子は知っていたのか?」

急に柔らかな口調になって男は花咲に尋ねた。

「いえ、私は比企さんが雄大君のボディーガードとは知りませんでした……」

 そういうと花咲は申し訳なさそうに僕と目を合わせた。

「比企さん? 失礼、貴女の名前を窺ってもよろしいかな?」

 またきつい口調になって男はエリを見る。

「比企絵理。彼の従妹にあたる」

「ほう……」

 とエリの話を聞くと男はなぜか肩を下した。

「雄大君の従妹にこんな可愛い娘がいるとは。しかもそれが雄大君のボディーガード……。なぁに、何か複雑な事情があるのだろう。深入りはしないさ……」

 と男は不敵な笑みを浮かべた。

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