こんな幼なじみと初詣に行きたい人生だった
あけましておめでとうございます。
今、僕は神社の初詣の列に並んでいるのですが、ちょっとおかしなところがあります。
新年早々、幼なじみに正面から抱きつかれているのです。別に、特に恋愛関係にあるとかそういうわけではないんですが。
いったい、どうしてこうなったんでしょう。
順を追って振り返ってみましょうか。
除夜の鐘が鳴り響く大晦日の夜、「さむーい」と言いながら家を出て歩くこと五分。私と幼なじみの家は隣同士ですから、LINEで連絡を取って同時に家を出れば、自然と合流することができます。昨年のまとめや反省点、新年の抱負を話しつつ、無事、年が変わる前に近所の神社に到着することができました。
参拝の列の最後尾について待っていると、甘酒の振る舞いがあったのです。毎年この神社には来ているのですが、昨年はそんなのありませんでしたから、今年から始めることにしたのでしょう。
当然、寒風吹きすさぶ屋外です。いくらコートを着て手袋やマフラーを装備していても、身に堪えるものがありますから、ありがたくいただくことにしました。
熱いくらいの甘酒で、体の芯から暖まったところで、新年まであと5分になりました。
そんな時でした。彼女の様子がおかしくなったのは。
「まーくん……」
いつもは元気な彼女の声が、ちょっとしおらしく、そして熱っぽく聞こえました。
思わず彼女の方を向くと、ちょうど街灯で照らされた顔を見つめる格好になりました。頬と耳が真っ赤になって、瞳が潤んでいるのです。
こちらも息を呑んでしまいます。なにせ、彼女は美人なのです。
「美人は三日で慣れる」などと言いますが、あくまでも「慣れ」なんですよ。普段は目にしないような顔を目にしてしまうと、やっぱりぐっと来てしまうのです。
それにしても、彼女はどうしていきなりこうなってしまったのでしょう。そう、まるでお酒にでも酔ったような――
彼女の家系は、確かに代々お酒に弱いと聞いています。一緒にパーティーをする時も、僕の両親が飲んでいても、彼女の両親が飲んでいるところは見たことがありません。
でも、いくらなんでも、甘酒で? アルコールはほとんど入っていないはずですよ?
私が考えにふけっていると、彼女は頬を膨らませて、こんなことを始めます。
「ねえ、まーくん……なんか、体があついの……」
そう言って、彼女は私の手を掴みました。それまで私の手を包んでいた手袋を強引に外すと、そのままぐっと引っ張って、自分の頬に当てました。
手の甲の側が外気に晒されて冷えていきますが、手の平の方はまるでカイロでも握っているかのように暖かさを感じます。
「まーくんの手、冷たくなっちゃってるね。きもちいいけど」
あいにく私は両親ともうわばみなので、甘酒くらいでは血管が拡張しないのです。
そんなことより、この酔っ払いはどうしましょう。家に連れ帰るのも、苦労しそうです。はあ。
気に病むことがあるときは、空を見るに限ります。冬は空気が澄んでいますから、星も良く見えます。あれがシリウスで、あの赤いのはベテルギウスでしょうか。
現実逃避をしていると、幼なじみの両手が、今度は私の両方の頬を包み込んでいました。
無理やりキスをする三秒前のような、そんなポーズになっています。
そして、知らないうちに、新しい年を迎えるカウントダウンが始まっていました。
『5!』
「えへへー、まーくん、顔まで冷たいよ?」
『4!』
何が楽しいのかわかりませんが、彼女は笑顔で、こんなことを言いました。
『3!』
「私はあつくて、まーくんは冷たい」
『2!』
「なら、私がまーくんのことを、温めてあげる」
『1!』
この瞬間、彼女が何をするつもりかはわかったのですが。
『あけましておめでとう!』
後ろにも横にもたくさん人がいますから、避けられるわけもなく。
背中に回された小さな手の感触と、胸に当たった柔らかい塊の感触と、顔に触れたさらさらの髪の毛の感触に包まれて、僕は新年を迎えることと相成ったわけです。
続きは後日