四者の会話
「何故、あ奴が出た?」
立派な髭を持った年配の男が問う。
「思うところがあったのでは?」
こちらは、眼鏡をかけた長身の男。
尤も今は椅子に腰掛けているせいか、そう目立たない。
「不穏の芽を摘もうとしているのやもしれん」
白髭をなでながら老人も言う。
「あるいは、引きずり出そうとしているのかも?」
明るい声を出すのは、黒いドレスの女。
「不穏‥‥先の?」
「いや、聖騎士殺害だけじゃのうてその前。子爵殺害の件もじゃよ」
老人の言葉に髭の男は首をかしげる。
たかが子爵が殺されたというだけの話。社会に与えるダメージは、聖騎士殺害のそれよりずっと小さいはず。
女がくすっと笑った。
「あら。まだ知らなかったかしら?」
「無理もなかろう。儂らと違って生身の人間しか使えんのだから」
女と老人は意味ありげな視線を交わす。
「何を、だ?」
対して、髭の男の顔は不機嫌。
長身の男は、目を閉じ、無表情にやり取りに耳をすましている。
「あの事件は異常じゃ」
老人が、マゴール邸の事件について語り始めた。
全てを聞いて、髭の男は絶句する。
だが、すぐに我を取り戻し、ゆっくりと頷く。
程度こそあれ、このような事件は今までに無数に存在している。その中の一件が今、目の前にあるにすぎない。
尋常では無いが、異常とも言えない。
しかしまた、この老人が言い違えをするはずもない。
「それにしてもあなた、見てきたように言うわね‥‥ムルファスタス?」
「街には儂の目耳が転がっとるでな」
「お待ちを。確かに妙な事件。しかし、妙でこそあれ、それ以外の脅威は無いように思われるのですが」
長身の男が口を開いた。
もっともだ、と髭の男も頷く。
「マゴール子爵は賢者の庵の協力者じゃった」
それならば。
「庵を目標とした攻撃‥‥ですか」
「そう単純なら、良かったんじゃがの」
「どういうことだ?」
「考えても見なさいよ。いくら庵の協力者といっても、知名度の低い下級貴族を数人殺したところで何だっていうの?庵にダメージを与えるなら、せめて賢者を殺さないと。ねぇ?」
老人は苦笑いするしかない。
「セツェには、ある魔道具を預けとった。そして現場には、それが使用された跡が見えた」
「つまり、何だ」
「魔道具が子爵らを殺した‥‥やもしれんと言っておる」
髭の男が、机を叩いた。
「魔道具の暴走か!それは、責任問題になるぞ?」
一瞬、髭の男と老人の視線が火花を散らす。
「待ちなさいよ。まだそうと決まったわけじゃないわ」
「うむ。魔道具の使用が可能なのは、賢者を除けばセツェのみ。そして使用者は等しくその生命を輪環へ流すこととなる。例え命を盾に脅されようと、セツェが使用するとは考えにくい」
「だから!魔道具の暴走なのだろう!?」
「ただの暴走なら聖騎士殺害が起きるはずが無いとは思わんか」
「しかし、これははっきりさせねばならぬ問題だ!」
女はすっと息を吸い、立ち上がった。
「一番の問題は!」
女はゆっくりと続ける。
「魔道具が、消えていることなのよ」
重い沈黙が、その場を支配した。




