捜査
「‥そうか。引き続き捜査を」
「はい」
去って行くロロクを見、聖騎士クリエラはため息をつく。
あってはならぬ事だ。
聖騎士が殺されるなど。
しかもそれがあのカザハヤとはーー
ロロクと並んで疾風迅雷と称されたあのカザハヤとはーーー
信じられない、というのがクリエラの正直な思いだ。聖騎士の中に彼より強い者はいくらでもいるとはいえ、クリエラ隊で1、2を争う戦闘力を持っていたというのに。
セレナは、大丈夫だろうか。
彼女とカザハヤの関係は周知の事実。
早く目を覚ましてもらわなければ。
カザハヤ殺しの捜査の為に、セレナの魔術は必要なのだ。
クリエラは下唇を噛む。
このままでは。
このままでは、せっかく手にしたこの地位を失うことになってしまう。
だから女に隊長を任せてはいけなかったのだと、アキ様まで非難の対象にしてしまう。
いや、それ以上に問題なのは。
聖騎士は殺せると世に知らしめてしまったこと。
勿論今までに殺された聖騎士は数知れない。
しかしそれは、犯罪組織との大規模な争いや戦争において。
誰に殺されたのか、どのように殺されたのかさえ分からないなど前代未聞。
この国は平和だが、それは聖騎士という圧倒的武力による監視があるからだ。
皆が笑っているこの国も、一皮剥けば不満や暴力が現れる。
それが分かっているクリエラは、もう一度唇を強く噛んだ。
「セト、セレナの様子はどうだ?」
「変化無し。見ていて退屈だ」
メガネをかけた少年が薄ら笑いで答える。
いやな顔だ、とクリエラは思った。
上層部から送られてきた者なので、無下にできないのが苦しい。
線の細い、神経質そうな少年。
だが、その魔術は侮れない。
「なら、ロロクの補佐についてくれ。それなら退屈しないだろ?」
「配慮、感謝するけど。どこに行っても退屈なのは変わらない」
少年は、また笑った。
暗い笑みだった。
なぜこうなってしまったのだろう、とロロクは考える。
風魔術を使いマゴール邸に飛んだ時には思いもしなかった。
眼前のカザハヤの死体が、責めているような気さえする。
本当に、なぜ。
せめて自分が居れば。
カザハヤと2人で敵と対峙できていれば。
結果は違ったに違いない。
それとも、それでも敵わない程の強敵だったのだろうか。
ロロクは部屋の窓から外を見る。
また聖騎士が殺されるのを防ぐためだろう、多くの衛士の姿がある。
赤髪の衛士の姿もあった。
ロロクは切断遺体に向き直る。
風魔術で切断面を探り、1人頷く。
やはり、そうだ。
1箇所だけ、風魔術以外のもので切断されたらしき傷がある。
切断面が、粗い。
恐らくは人の手によるもの。
が、そうだとすると余程の手練れだ。
「ロロク、何か分かったのか?」
かけられた声に、ロロクは顔をしかめた。
セトだ。
高慢な、しかし能力のある少年。
「いや‥‥」
「へえ。今までに解ってることがあるのか?」
「殺された6人の身元‥‥‥のみだ」
少年はロロクに手を差し出す。
首をかしげるロロクに、少年はため息をついた。
「名簿」
「っ‥‥そこの衛士、名簿を頼む」
衛士から渡された名簿を見て、少年は嘲笑った。
「聖騎士は脳筋バカの集団か。見るだけで分かるだろ」
「‥‥?」
「被害者6人の中に、マゴール家当主、セツェ・マゴールが存在しない」
「っ!」
それは、つまり。
マゴール家当主が犯人だったということか?
しかし、セツェ・マゴールは魔術が使えなかったはず。
加えて、自宅で殺す意味が分からない。
そう反駁するロロクに、少年は苛立った面持ちを見せる。
それを見て、少年の態度に怒りを覚えていたロロクは冷静になった。
この少年の能力は高いが、こう素直に感情を見せるようではいけない。
現場をそう知らないのだろう。
「セト、クリエラから帰還命令が出ています。それから、あまりロロクを困らせないであげて下さいね?」
聴こえてきた優しい、柔らかな声に、ロロクは一瞬呆然とする。
次の一瞬、その場に膝をついた。
頭を垂れる。
セトも立ったまま頭を下げた。
「おやおや、ひどい現場ですね」
現れた男は、にこにこと笑いながらそう言った。




