闇を動く者達2
カザハヤは改めて現場の状況を確認する。
遺体は6体。
先程の衛士の手足の報告によると、パーティーに呼ばれ、帰っていない貴族は6名。
数はぴったりと合う。
そろそろ上役に報告した方が良いだろうか。
ロロクに頼むべきだったかもしれない。
セレナによると、遺体の傷は1つを除いて風魔術でつけられたようだ。
傷、というか切断面だが。
さて。
部屋の中の人間は会話をしていたらしい。
シシム(カードゲームの一種)やアタック(盤を使った遊戯)の跡がないことからも分かる。
いや、1つ。
いつから落ちていたのだろう、鈍色の金属製の駒が血だまりに沈んでいるのが見えた。
あまり見ない形の駒だが、地方の物だろうか。アタックは地域によって駒の形に特色が出る。
カザハヤは、そのひしゃげたような形の駒を指でつまみ上げる。
騎士だろうか‥‥あるいは神官?
どちらにしろさほど重要ではなさそうだが、一応は押収しておくべきだろう。
「ーーーセ」
セレナ、と呼ぼうとして、カザハヤは言葉を止める。
考えるよりも先に体が反応していた。
踏み込む。
チリッという空気が焦げる音と共に、カザハヤの剣は人影を両断していた。
ーーーが。
手応えは、ない。
「ーー何者だ?セレナは、どうした」
闇を纏うようにカザハヤの前に現れたのは、黒服の人影。貌はフードの陰になっており、見ることが出来ない。
その手には、先程の駒。
「シッ!」
カザハヤの振り抜いた剣は、空を切る。
人影は、消えていた。
カザハヤは、しかし、剣を握りなおす。
いや。
消えてはいるが、まだ居る。
「疾き猛き 原始よりの神よ 長き鋭きその槍で 彼の者に裁きを与えん 逃がすな!」
魔方陣が組み上がり、一瞬の後、雷が室内に発生する。カザハヤの頭上の魔方陣から現れた雷は、室内を包み込んだ。
室内の、陰が消える。
ーー直後。
燻されたかのように、先程の人影が現れた。
「お前は、何者だ?」
「‥‥」
人影は答えず、動きさえもしない。
「ーーならば、力ずくで答えさせる」
カザハヤは、言うが早いか、剣を構えて駆ける。
いや、駆けるという表現は妥当ではない。
消えるかのようなスピードで、人影に峰打ちを食らわす。
剣はーー当たった。
しかし、手応えは、皆無。
「なっ‥‥」
ぞわりと、カザハヤの首筋が総毛立つ。
カザハヤの全身は、動かない。
動かせない。
ただ、冷えた闇がせまってくるのを感じているだけ。
闇への、恐怖。
トン、とカザハヤの胸に手が触れた。
手甲に包まれた手の、指先だけが白い。
雷などとうに消えている。
カザハヤを守るものは、何もない。
人影のフードがはずれる。
現れたのは、黒髪。
その者は、カザハヤの顔を見上げた。
そこにあったのは。
そこにあった瞳は。
ーーーー闇
闇、そのもの。
「〈速やかなる死を〉」
倒れるカザハヤの瞼に、セレナの姿が明滅しー
やがては、消えた。




