闇を動く者達
「さて‥‥どうする?」
青年は、暗がりへと声をかける。
直後、誰もいないはずのその場所から人影が現れた。
小柄な人物だ。黒いフードからわずかに黒髪が見えている。
「ヤオに一度」
声からすると少女だろうか。
少女は一度黙り、そして続ける。
「いや、取り戻した方が良い‥かも知れない」
「俺も、同意件だけど。今は難しいだろうから‥面倒だな」
青年は苦笑する。
惹き付けられるような、美しい笑みだ。
「‥‥私1人で十分。シキは帰っても」
少女は感情のこもらない声で呟くように言う。
「それは、いけない。あそこには聖騎士がいる。カザハヤとセレナも関わるだろうからね」
少女は、レーミング通り周辺がカザハヤ達の担当地域であったことを思い出す。
確かに2人は厄介だ。
万が一にそなえるのならば、1人では少々危ういか。
ーーーしかし。
「シキは、邪魔だ。‥‥1人で十分」
「っ‥‥スール、君はーー」
少女はシキの前から消えていた。
コロがマゴール邸に戻った時に、屋敷の中には6人の人間がいた。
コロの雇い主である衛士の男。
コロの同僚であるポチとミケ。
コロが呼んだ聖騎士、ロロク。
そして、聖騎士セレナとカザハヤだ。
「コロ、遅かったな」
衛士の男からかけられた言葉にコロは頷く。
「はい。途中であの‥声をかけられたんです。マゴール邸の場所を聞かれてそれで‥」
「そいつはどこにいる?」
コロはあわてて首を横に振る。
「あの、事件が起きてると言ったので帰られたと思います。いや、あの、怪しい方ではなくて!昨日のパーティーで忘れ物をされたとかで」
「名前は?」
「聞いてーーいません」
「‥‥容貌を、覚えているだろうな?」
はい、と頷こうとして、コロは、自分が青年の姿を思い出せないことに気付く。
首をひねるコロに、カザハヤが尋ねる。
「思い出せないか?」
「も、申し訳ありませんっ!麗しい方だったのは覚えてるんですけどっ‥‥」
聖騎士に目をつけられれば最悪死罪もあり得る。
青ざめたコロに構わず、カザハヤはセレナの方を振り返る。
セレナは首を横に振った。
「ココからじゃ、見えないよ。‥‥けど、確かにそれは魔術である可能性が高いね」
勘だけどね、とセレナは笑う。
「でも経験を元にしてる。その女はーーあれ、女であってる?」
「いえ、男の方でした。大変麗しい方で!」
「それはさっき聞いたよ。ーーキロイ」
はい、と衛士の男が答える。赤い馬という名前からしてなるほど、キロイは見事な赤髪だ。
「近くを見張ってて。ワタシくらいきれいな男はつれてくること。ロロクは街を探して」
「了解しました」
「行ってくる」
ココは、キロイの顔が面倒そうにゆがんだことに気付く。聖騎士の前でこの表情を見せるとは、さすがは雇い主だ。
「そいつが犯人だと思うのか?」
カザハヤの問いに、セレナは首を横に振る。
「まさか。犯人なら屋敷の場所なんか聞く必要ないし。‥‥ただ、パーティーのこと知ってるみたいだから聞こうと思ってさ」
「ー俺も同意件だ。ーーが、そいつは魔術を使うのだろう?」
「うーん‥まあ、そうだけど。でも貴族ならあり得るんじゃない?従者が1人もいなかったってことは、忘れ物は恋文とか?それともよっぽどの落ちぶれ貴族‥‥?」
どっちでもいい、とコロは思った。
あの青年が疑われていないのなら、それでいい、と。




