動き出す聖騎士2
「‥‥ひでぇ‥‥」
ロロクは目の前の光景に顔をしかめる。
今日一日は何も口に出来ないだろうと思うぐらいのひどさだ。
とてもーーとても人間業だとは思えない。
「第一発見者は?」
「ハンナという通いの家政婦です」
ロロクのすぐ隣で遺体の説明をし始めるのは衛士の男だ。
「遺体の切断面はとてもきれいです。異常なまでに‥‥どれもすっぱりいってますので、強盗の線は薄いと‥‥あ、聖騎士様には余計な言葉でしたかね」
男は媚びへつらうでもなくそう言った。
「あんたは、これを検分した‥‥のか?」
「あ、安心して下さい。遺体は動かしてませんので。そりゃちょっとは触れましたが」
触れた‥‥?
衛士はこの状況で遺体検分の義務をもたないはずだ。
衛士にもはや感嘆の念すら覚えるロロクだったが、表情には出さず頷く。
「そうか、ご苦労だった」
ロロクは風を操り遺体の様子を探る。
触れての検分などごめんこうむる。
遺体は全部で6体。
衛士の男の言うように切り口はきれいだ。
きれいすぎる。
ーーおそらくこれは魔術によるものだ。
他の部屋に血の跡はなかった。
犯行現場はここで間違いないだろう。
この6人は一体何の用でこの部屋に集まったのだろう。
家主の部屋はここではない。手頃な大きさの部屋だったからだろうか。
「マゴール邸では昨夜、パーティーが行われていたようです。10時に終了し、一部の親しい人間だけが屋敷に残ったそうです」
「では、身元は判明してるのか?」
衛士の男は首を横に振る。
「この短時間では無理ですよ。まあ、遣いは走らせてますんで‥‥じきに」
「名簿が見つかったのか」
今度は男は首を縦に振り、ロロクに紙の束をわたす。
ロロクは黙って受け取った。
少年ーーコロは走っていた。
揚げリンゴを頬張る女や黒いコートの男にぶつかりながらも足を止めない。
コローーなどと呼ばれてはいるが、本名では勿論ない。
いうならばコードネーム。
犬のような名だが文句はない。
本名を知っている者は、今や少年1人だ。
コロは6体の遺体の身元を調べるために走っている。パーティーの参加者の中で、まだ家に戻っていない人物を見付けるのだ。
幸いにして、名簿の人々の家はどれもそう遠くない。
ポチやミケも動いているので夕暮れ時までにはマゴール邸に戻れるだろう。
暗い路地を走り抜けようとしたコロに声がかかった。
「悪いけど君、マゴール邸はこの近くかい?」
いつの間にか、コロのすぐ隣に若い男が立っていた。
美しい青年だ。
その顔立ちに見蕩れていたコロは、ハッと我にかえる。
「そ、そうですっ。レーミング通りを名無しの森方面に曲がったところです!」
「‥‥そうか。邪魔をしたね」
立ち去ろうとする青年に、コロはあわてて声をかける。
「あ、でも‥あの、マゴール邸で事件が起きまして!だから行かない方が!」
青年はわずかに表情を曇らす。
「困ったな‥‥マゴール子爵家に忘れ物をしたのだけれど、難しそうだ」
「ええと‥‥屋敷の中の物は押収される可能性が高いですね」
「そう、だろうね。‥‥面倒だな」
聖騎士に問い合わせをするのが面倒だということだろう。
マゴール邸に忘れ物をしたということは、この青年は貴族。貴族も聖騎士に苦手意識を持つのか、とコロは1つ学んだ思いだった。
「あの、聖騎士様にお伝えしましょうか?」
青年は、いや、と笑った。
「それには及ばない。悪かったね。仕事中なのだろう?」
そこでコロは仕事を思い出す。なぜ忘れていたのか、といえば、この青年の魅力のせいに他ならない。
コロは青年に頭を下げると、勢いよく路地を飛び出していった。




