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夕闇の傾国  作者: 檸檬
3/8

動き出す聖騎士2


「‥‥ひでぇ‥‥」


ロロクは目の前の光景に顔をしかめる。

今日一日は何も口に出来ないだろうと思うぐらいのひどさだ。

とてもーーとても人間業だとは思えない。


「第一発見者は?」

「ハンナという通いの家政婦です」


ロロクのすぐ隣で遺体の説明をし始めるのは衛士の男だ。


「遺体の切断面はとてもきれいです。異常なまでに‥‥どれもすっぱりいってますので、強盗の線は薄いと‥‥あ、聖騎士様には余計な言葉でしたかね」


男は媚びへつらうでもなくそう言った。


「あんたは、これを検分した‥‥のか?」

「あ、安心して下さい。遺体は動かしてませんので。そりゃちょっとは触れましたが」


触れた‥‥?

衛士はこの状況で遺体検分の義務をもたないはずだ。

衛士にもはや感嘆の念すら覚えるロロクだったが、表情には出さず頷く。


「そうか、ご苦労だった」


ロロクは風を操り遺体の様子を探る。

触れての検分などごめんこうむる。

遺体は全部で6体。

衛士の男の言うように切り口はきれいだ。


きれいすぎる。

ーーおそらくこれは魔術によるものだ。


他の部屋に血の跡はなかった。

犯行現場はここで間違いないだろう。

この6人は一体何の用でこの部屋に集まったのだろう。

家主の部屋はここではない。手頃な大きさの部屋だったからだろうか。


「マゴール邸では昨夜、パーティーが行われていたようです。10時に終了し、一部の親しい人間だけが屋敷に残ったそうです」

「では、身元は判明してるのか?」


衛士の男は首を横に振る。


「この短時間では無理ですよ。まあ、遣いは走らせてますんで‥‥じきに」

「名簿が見つかったのか」


今度は男は首を縦に振り、ロロクに紙の束をわたす。

ロロクは黙って受け取った。






少年ーーコロは走っていた。

揚げリンゴを頬張る女や黒いコートの男にぶつかりながらも足を止めない。


コローーなどと呼ばれてはいるが、本名では勿論ない。

いうならばコードネーム。

犬のような名だが文句はない。

本名を知っている者は、今や少年1人だ。


コロは6体の遺体の身元を調べるために走っている。パーティーの参加者の中で、まだ家に戻っていない人物を見付けるのだ。

幸いにして、名簿の人々の家はどれもそう遠くない。

ポチやミケも動いているので夕暮れ時までにはマゴール邸に戻れるだろう。

暗い路地を走り抜けようとしたコロに声がかかった。


「悪いけど君、マゴール邸はこの近くかい?」


いつの間にか、コロのすぐ隣に若い男が立っていた。

美しい青年だ。

その顔立ちに見蕩れていたコロは、ハッと我にかえる。


「そ、そうですっ。レーミング通りを名無しの森方面に曲がったところです!」

「‥‥そうか。邪魔をしたね」


立ち去ろうとする青年に、コロはあわてて声をかける。


「あ、でも‥あの、マゴール邸で事件が起きまして!だから行かない方が!」


青年はわずかに表情を曇らす。


「困ったな‥‥マゴール子爵家に忘れ物をしたのだけれど、難しそうだ」

「ええと‥‥屋敷の中の物は押収される可能性が高いですね」

「そう、だろうね。‥‥面倒だな」


聖騎士に問い合わせをするのが面倒だということだろう。

マゴール邸に忘れ物をしたということは、この青年は貴族。貴族も聖騎士に苦手意識を持つのか、とコロは1つ学んだ思いだった。


「あの、聖騎士様にお伝えしましょうか?」


青年は、いや、と笑った。


「それには及ばない。悪かったね。仕事中なのだろう?」


そこでコロは仕事を思い出す。なぜ忘れていたのか、といえば、この青年の魅力のせいに他ならない。

コロは青年に頭を下げると、勢いよく路地を飛び出していった。

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