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夕闇の傾国  作者: 檸檬
2/8

動き出す聖騎士


聖騎士ーーではあるが、自分はどちらかといえば衛士に近い、とその男は思っている。

スラム街で生まれ育ったからだろうか。

王や貴族などどうでもいい。

魔術の才さえ無ければ、男は衛士になっただろう。

だが、幸か不幸かーーー

男には魔術が使えた。


暮らしは確かに楽になった。

だが、男はもう生家には帰れない。聖騎士など、スラムの人間と相入れるものではないのだ。


「ロロク様、急いで下さい。」


衛士の使いの者ーーコロだったかーーが、急かしてくる。


「住所はどこだ?」

「レーミング通りを東に入ったマゴール邸です」

「ああ、あそこか」


下級貴族がらみの事件であるなら、確かに聖騎士が受け持つべきだろう。


「俺は先に行ってるぞ」

「え?あの、ロロク様?」


ロロクは風の魔術を使う。

住所さえ分かれば空を飛んで行けるのだ。

あっという間に視界から消えていったロロクを少年は見送る。


「あれ、あの人魔方陣使ってたっけ‥‥」


わずかに首をかしげながら。






「ふうん‥‥」

「覗きは趣味悪いぞ」


男の声に、千里眼を使って街を見ていた女は振り返らずに手だけを振る。


「結構面白いんだよ、コレ。カザハヤにも昨日言ったでしょ‥‥」


男はわずかに顔をしかめ、そしてうなずく。


「聖騎士の誰でもない魔力ーーだったか」

「そ。はは‥ロロクのあの様子だと誰かが殺されでもしたかな?いや、あの魔力の高まり具合はむしろ暴走‥‥」

「どうだか。お前の予想はよく外れる」


物憂げに去ろうとする男のコートの裾を、後ろ手に女がつかむ。


「どこいくの?」

「見回りだ」


女は窓からはなれ、くるっと男へ向き直った。

ウェーブのかかった金髪が翻る。


「散歩ならワタシも連れてってよ」

「‥‥見回りだと言ってるだろ‥‥」


男はため息をついた。

街へ出た2人は、マゴール邸の方へと歩き出す。

元より見回りでも散歩でもない。

ロロクが向かった以上、何か貴族、あるいは魔術がらみの事件が起きた事は確実。

このあたりは2人が主に担当する地域。

現場に回される可能性は高い。

であれば初動捜査は早目に済ませた方が良いだろうとの考えだ。


街の人々は、2人を畏敬と恐怖の目で遠巻きながら見送る。


「あ、あれおいしそう。カザハヤ、買って!」

「揚げリンゴくらい自分で買え」

「お金持ってないんだよ」


2人はこの調子だが。

女はまるで少女の様に無邪気な笑顔を見せる。カザハヤはため息をついた。


「おい店主、揚げリンゴ1つ」

「チーズ味で~」


店主は手先をブルブル震わせながら揚げリンゴチーズ味を串に刺す。

顔面蒼白な店主の顔を見て女は楽しそうだ。


「ねえ、オジさん。今日このあたりで何か事件おきなかった?」

「事件‥‥いや、知らねぇですね」

「ふうん‥‥ま、いっか」


女は揚げリンゴを頬張りながら歩き出す。

どうやら事件はまだ明るみに出ていないらしい。


ぶらぶらと歩いているうちに2人はマゴール邸につく。下級とはいえ貴族の邸宅、家は広く、庭も広い。

外側からは何の異常も見受けられない。


「おいセレナ、見えるか」

「ん‥‥うん、やっぱり事件が起きたのはココだね。まだ魔力の残滓が残ってる。けど‥‥」


セレナは肩をすくめる。


「属性が風ってことくらいしか言えない」

「形は見えないのか?」


セレナは庭を囲む昨柵にもたれ、カザハヤの顔を見上げる。


「現場は間違いなくあの部屋。でも形はぐちゃぐちゃでさ。形に意味は求められなさそうだよ」


そうか、とだけカザハヤは言った。

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