始まりの部屋
血‥‥血血血血血血血血血血‥‥‥
赤黒い血がその部屋の一面を飾っている。
闇に沈んだその部屋で、血に染まったその部屋で、息をしているのはただ2人。
息苦しくなるようなその部屋で、息を乱す様子もなくただ立っている。
手には‥‥凶器。
鈍い光を放っている。
「これで任務完了だ。帰ろう」
人影が言葉を発する。若い男の声だ。
もう片方の人影は、聞いているのかいないのか黙っている。
しかし、その表情に賛同を見たのだろうか、若い男は頷く。
次の瞬間、2人の人間はその場から姿を消していた。
後にはただ闇があるばかりーーー
「っ‥‥こいつはひでぇ」
衛士の男は部屋の惨状を見て呟く。
仕事がら一般人よりは慣れているつもりだが、その現場はその男でさえ吐き気を催す程のものだった。
「おい、コロ。聖騎士に連絡いれとけ」
「はいっ」
立ち去る少年を尻目に、男は再度部屋の中を見る。
血‥‥血だ。
遺体は6体‥‥なのだろうか。
遺体はどれも激しく損傷している。1体として五体満足なものはない。
手足が、バラバラなのだ。
だからこの血の量なのだろう。
男は口を押さえながら遺体を検分していく。
床に転がっている手や足の、あるいは胴体の切断面は恐ろしくきれいだ。
一切の迷いの無い切り口。
普通はこうはいかない。どれほど戦に慣れている戦士でも、こうきれいには切れないだろう。
まるで、殺すために切ったのではなく、切るために切ったようなーーーそんな印象をうける。
その印象と、部屋の惨状はちぐはぐだ。
切り口は冷静、そうであるのに、部屋の中は野獣が暴れた跡のよう。
この現場に一体何が起こったのだろう。
平凡な下級貴族の家に、一体何が訪れたというのだ?
男はそこまで考え、そこで我に返って頭を振る。
こうも異常な事件だ。
加えて被害者は貴族。
聖騎士がこの事件を調べることになるだろう。
街を守る衛士‥‥ただの衛士である自分が関わるものではないと。
そう考えて男はーー少し、ほっとした。
ともあれ、遺体の検分である。
遺体の腐敗の度合いと硬直の度合いから考えて、昨夜に殺られたのだろう。
血も、まだ全て乾いていない。
絨毯はたっぷりと血を吸い、いまだじゅくじゅくと音を鳴らしている。
もっとも、状況を見ずとも、死亡推定時刻など知れているのだが。
昨夜はこの屋敷でパーティーがあったらしい。
パーティーの終了時刻から、今朝、通いの家政婦に発見されるまでの間。それが死亡推定時刻だ。
まあ、それを割り出すのは聖騎士の仕事だろうが。
男は聖騎士が好きでなかった。
ーーーはっきり言えば、嫌いだ。
その最大の理由は、魔術が使えるというただそれだけの理由で、自らを特権階級だと勘違いしているところにある。
聖騎士は、民を守らない。
聖騎士が守るのは貴族と王。
腐った果実、腐臭漂う甘い蜜のみーーー
男はため息をつくと、聖騎士の到着を待つことにした。




