イケメンを喰らう
主人公:狐木 修輔|(こぎ しゅうすけ)
みー様:羽山 水月|(はやま みづき)
パイセン:愛唯(めい)
どうやら向こうで何かがあったらしい。
授業そっちのけで騒ぎ立てる集団を遠目に見ながら、俺と先輩は席に着いた。
「そういえば……俺たち、抱き合ってたけど大丈夫かな」
「あの盛り上がりだ。私たちのことなんて、道端の石ころが抱き合っていたぐらいにしか見えないだろう」
道端の石ころが抱き合っていたら逆に気になると思うんだけど、そこのところはどうなのだろう。
よく目を凝らすと、騒ぎの渦中、クラスメイトの集団の真ん中で、みー様が三年生に告白されていた。
「ずっと前から好きでした! 付き合って下さい!」
「えー、ずっと前って、まだ出会ってから十分ぐらいしか経ってないじゃないですか」
「俺にとっては十分も十年も一緒なんだ。出会ったその時から俺と君は結ばれる運命なのさ! それは前世からの約束、永久の契り! 君に会った瞬間にそれを感じたんだ!」
「前世とは、これまたスケールが大きくなりましたねー」
「いいんだ! 理由なんて後でいくらでも、二人で作っていけばいいじゃないか! どのみち君は俺の魅力には抗えないのだから、結ばれるのは早い方がいいだろう!」
イケメンの先輩が頭を下げて手を差し出す。周りは固唾を飲んで見守っている。
美男美女の恋の行方を、胸をときめかせて見たいのだろう。
「多分断るだろうね」
俺と同じく様子を見ていた先輩が口を開いた。
「あの女は只者じゃない。誰が見たってそう思うだろう。誰もが羨む美貌、体、声、仕草、髪の毛の一本から足を踏み出す一歩まで完璧だ」
まじまじとみー様を見て、ため息をつく。
「女として戦ったら、まず私は一瞬にして灰になる。残念だがね」
「それはどうでしょうか。俺だったら、あの女と愛唯パイセンどちらかを選べと言われたら、間違いなくあの女の体を余すところなく堪能した後愛唯パイセンを選びますけどね」
「体を余すところなく堪能された時点で、女として灰になっているんだよ」
最終的には先輩を選んでいるのだから何の問題があるのか、と言おうとしたが、先輩の悲しげな顔を見て下手なことは言うまいと口を固く結んだ。
女心は難しい。
先輩は気を取り直したのか、こほんと息をついて、集団に視線を移す。
「話を戻すが、彼女は女の私から見ても実に魅力的だ。しかし、彼の方はどうだろうか。確かに誰かさんと違って顔面偏差値が高く、気もきいて話題も豊富なのだろう」
「誰かさんって誰ですか」
「だが、それ止まりだ。所詮は凡人止まりのステータス。チートで各パラメーターが振り切っている彼女には釣り合わないさ」
冷静に分析して恋愛を語る先輩だが、実際どうなんだろう。
ステータスだとか、パラメーターだとかで、人は恋する相手を決めるのだろうか?
確かにそういう人たちもいるのだろうが、俺はそうは思いたくなかった。
告白は、あんなに軽くしていいもんじゃない。
「俺も、成功しないとは思いますよ」
先輩とは違う理由だったが、俺も告白は失敗に終わるのだろうと思った。
恋愛って、もっと熱くたぎる何かに押されて、勢いよく流されるものだと思いたかったんだ。
だけど、現実ってやつは思い通りにならないもんで、
「いいですよ。先輩、顔をあげてください」
「っへ?」
「だからー。私、先輩と付き合うって言ってるんです」
彼の告白は、簡単に受け入れられた。
「マジで!」
大いに湧き上がるクラスメイト達。
指笛の音やらリコーダーの音やらが飛び交い、ピアノができる生徒が結婚式のテーマを奏で始める始末である。
教室中がお祭り騒ぎの中、ふと、告白を受けたみー様がこちらを見た。
こういった類は対外勘違いなのだろうが、今回ばかりは確信をもてる。
彼女は、俺に対して、背筋が凍りつくような歪んだ笑みを、向けたのだ。