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茜雲  作者: フル
第一話『うざデレ少女は喝采を浴びてイケメンを喰す』
7/14

ペチャパイの抱擁

主人公:狐木 修輔(こぎ しゅうすけ)

パイセン:愛唯(めい)

「なんだよ愛唯パイセン。いつの間にそっちに行っちまったんだよ、さびしいじゃねーか俺も混ぜろよ!」

 目を潤ませ、心からの声で訴える。

「コーギー……しょうがない奴だ。ちょっと待っていろ」

 堅物そうな口調に似あわず、先輩は意外とちょろいことを俺は知っている。

 チワワのような愛くるしい瞳で見つめ続けるだけで、大抵のことは聞き入れてくれるのだ。

「君はリア充という楽しげな輪の中には絶対に入れない。残念だがね」

 先輩は俺の目の前まで来ると、そっと俺の背中に腕を回した。

「ちょ、先輩!」

「しかし、私の腕の輪でいいのなら、君はいつでも入ってこれる」

 柔らかな感触が俺のほほに押し付けられて、およそ音楽の授業には似つかわしくない邪な感情が萌え始める。

 清涼な匂いと人のぬくもりにやられてしまい、この後の言葉が出てこない。

 シンプルに責められると、俺は弱いのだ。

「ふむ、ワイシャツが湿っているぞ。何かあったのか」

「いや……別に」

「頭にチョークの粉がついているぞ。何かあったのか」

「いや……別に」

「私のブラウスが少し濡れているぞ。何かあったのか」

「いや……別に」

 何もない。いつも通りの日常だった。

 なのに、なぜ俺は涙で先輩のブラウスを濡らしてしまっているのだろうか。

 こんなに俺は弱くない。兄貴は強くあらねばならない。

 俺は先輩の抱擁をそっと解いて、目をがしがしと腕で擦った。

「愛唯パイセン、ありがとうございます。おかげでリア充の一員なんかにならず、俺の道を貫いて歩めそうです」

「そうか。ふむ、それは私が勇気を出して抱きしめた価値があった、ということだな」

「その通りです。メガ気持ちよかったです。これが天国というのなら、今から俺は神様に奉仕するためだけの存在になるでしょう」

「それはよかった。しかし、君が言うほど……その……私の胸は、さほど大きくないから、抱き心地に関しては自信がないのだよ。残念だがね」

「かまわんですたい! 愛唯パイセンの気持ちが籠ったホールドであれば、俺はどこでもやれルンバ!」

 気合を入れなおし、さぁ授業でも始めちゃおうかと意気込んだその時、

「うおおおおおおおおお!」

みー様たちの集団が驚異的な盛り上がりを見せた。

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