ペチャパイの抱擁
主人公:狐木 修輔(こぎ しゅうすけ)
パイセン:愛唯(めい)
「なんだよ愛唯パイセン。いつの間にそっちに行っちまったんだよ、さびしいじゃねーか俺も混ぜろよ!」
目を潤ませ、心からの声で訴える。
「コーギー……しょうがない奴だ。ちょっと待っていろ」
堅物そうな口調に似あわず、先輩は意外とちょろいことを俺は知っている。
チワワのような愛くるしい瞳で見つめ続けるだけで、大抵のことは聞き入れてくれるのだ。
「君はリア充という楽しげな輪の中には絶対に入れない。残念だがね」
先輩は俺の目の前まで来ると、そっと俺の背中に腕を回した。
「ちょ、先輩!」
「しかし、私の腕の輪でいいのなら、君はいつでも入ってこれる」
柔らかな感触が俺のほほに押し付けられて、およそ音楽の授業には似つかわしくない邪な感情が萌え始める。
清涼な匂いと人のぬくもりにやられてしまい、この後の言葉が出てこない。
シンプルに責められると、俺は弱いのだ。
「ふむ、ワイシャツが湿っているぞ。何かあったのか」
「いや……別に」
「頭にチョークの粉がついているぞ。何かあったのか」
「いや……別に」
「私のブラウスが少し濡れているぞ。何かあったのか」
「いや……別に」
何もない。いつも通りの日常だった。
なのに、なぜ俺は涙で先輩のブラウスを濡らしてしまっているのだろうか。
こんなに俺は弱くない。兄貴は強くあらねばならない。
俺は先輩の抱擁をそっと解いて、目をがしがしと腕で擦った。
「愛唯パイセン、ありがとうございます。おかげでリア充の一員なんかにならず、俺の道を貫いて歩めそうです」
「そうか。ふむ、それは私が勇気を出して抱きしめた価値があった、ということだな」
「その通りです。メガ気持ちよかったです。これが天国というのなら、今から俺は神様に奉仕するためだけの存在になるでしょう」
「それはよかった。しかし、君が言うほど……その……私の胸は、さほど大きくないから、抱き心地に関しては自信がないのだよ。残念だがね」
「かまわんですたい! 愛唯パイセンの気持ちが籠ったホールドであれば、俺はどこでもやれルンバ!」
気合を入れなおし、さぁ授業でも始めちゃおうかと意気込んだその時、
「うおおおおおおおおお!」
みー様たちの集団が驚異的な盛り上がりを見せた。




