万華鏡の思い出
主人公:狐木 修輔(こぎ しゅうすけ)
妹:夕海(ゆうみ)
「兄ちゃん。いらないからこれあげるー」
鮮やかに染まった和紙にくるまれた万華鏡を、俺に向かって掲げた。
小さい頃の夕海は、よく物を貰う子だった。
色とりどりのお菓子をはじめ、おもちゃ、ゲーム、果てはお小遣いまで、欲しいと思えば誰かが彼女に用意した。
だが夕海は極度の飽き性でもあったので、一通り遊んだり、かじったり、眺めたりすると、大抵は俺に渡してくるのだった。
「いらんって。こんなん夕海が使えばいいだろー」
本当は万華鏡には興味があった。
くるくると回して形が変わるなんて、なんとも神秘的じゃないか。
俺は、当時から常に変化するものが好きだったのだ。
夕海は無理やり俺に万華鏡を握らせて、上目遣いのドヤ顔決めながら言った。
「兄ちゃんって、嘘が下手だよねー」
「いや、ほんと、別に興味なんて」
ない。と言いかけ、夕海に万華鏡を返そうとした時だった。
「うわー、兄ちゃんの触ったものだー! ばっちぃ、にげろ―!」
一目散に道の先に走っていき、俺は返そうとするタイミングを逸してしまう。
「……っくそ。夕海の方こそ、嘘が下手じゃねぇかよ」
いつの頃からか、素直に物を受け取らない俺に対してとるようになった夕海の行動。
頭がおかしいからと、俺は人に恵まれることが少なかった。
だから、恵まれることに慣れていなかったんだ。
万華鏡を覗き込みながら、くるくると回してみる。
「ははっ、綺麗だなー」
この後俺は日が暮れるまで延々と回し続けて二日間ぐらい目がちかちかしていたのだが、なんだかんだ言いながらも夕海は俺のことを看病してくれた。
夕海は他の誰よりも優しい子だったのだ。