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茜雲  作者: フル
第一話『うざデレ少女は喝采を浴びてイケメンを喰す』
11/14

幼き日の約束

主人公:狐木 修輔(こぎ しゅうすけ)

イケメンの彼女:羽山 水月(はやま みづき)

イケメン:田辺(たなべ)

「えーと……名前なんだっけ。まぁいいや、イケメンせんぱーい! 一緒に帰りましょー!」

「ん、ああ! 羽山さん! いやぁ、待ちわびたよこの時を。幸せな一時を共に楽しもうじゃあないか! さ、お手をどうぞ」

「んもう、まだ初日ですよ先輩。私、こういうのは段階を踏んでいきたいなー」

「そうか、そうだな! 俺たちは付き合っている。この事実は変わらないんだから、俺たちのペースでゆっくり進んでいけばいいよな!」

「ですですぅ」

「嬉しさうなぎ登り! あのさ、なんか可愛いこと言ってみて」

「まにゅふぇすと」

「さすが羽山! 俺の彼女! かーわーいーいー!」

「ですですぅ」

 イケメン先輩(名を田辺という)と羽山は放課後待ち合わせでもしていたのか、二人並んで帰って行った。

「なんだあいつ。彼氏には羽山って呼ばれてもいいのかよ……」

 俺にはあんだけ喰らいついてきたくせして、よくわからない奴だ。

 下駄箱から靴を取り出し、帰路を辿る。

 時期は十月。肌寒い風を感じながら、空を見上げた。

 流れる雲は、最終的にどこに辿り着くのだろうか。それは、人間が死んだら魂はどこにいくのかという問いに似ている。

 追ってみなければ、死んでみなければわからない。

 俺は一つの雲の行方を追うため走り出した。

 風の勢いは強まって、雲の速度もぐんぐんと上がっていく。

 待ってくれ、置いていかないでくれ!

 俺の願いもむなしく、十分ほど走ったところで、雲は視認できないほど彼方へと流れて行った。

「ひぃ……ふぅ……」

 膝に手を置き、中腰になって酸素を補充する。

 我ながら意味のないことをしたと思う。雲の行方なんて、決してわからないのはわかっている。

『兄ちゃん。雲って、どこから来てどこへ行くのかな』

 ふと、夕海が昔よく呟いていた声がした。幻聴なんだと脳内では理解していても、俺の体は勝手に声の発生源を探してしまう。

 何もない。誰もいない。埃舞う静かな路地裏に、俺はいる。

「何度も追いかけたんだ」

 誰に言うでもなく、空に向かって語りかけた。

「無理だと思っても、諦めたいと思っても、何度も何度も追いかけたんだ」

 天を這うように地を蹴って、膝を擦ったってものともせず、空想を抱いて雲を追った。

 しかし、俺は一回も雲の行方をつかむことができなかった。

「ちっくしょう! ……ごめん、ごめんな夕海」

 二人で、いつもの丘で約束した言葉を思い出す。

『待ってろ。兄ちゃんが必ず教えてやるかんな!』

 あの日あの時交わした約束は、未だ果たせそうにない。

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