幼き日の約束
主人公:狐木 修輔(こぎ しゅうすけ)
イケメンの彼女:羽山 水月(はやま みづき)
イケメン:田辺(たなべ)
「えーと……名前なんだっけ。まぁいいや、イケメンせんぱーい! 一緒に帰りましょー!」
「ん、ああ! 羽山さん! いやぁ、待ちわびたよこの時を。幸せな一時を共に楽しもうじゃあないか! さ、お手をどうぞ」
「んもう、まだ初日ですよ先輩。私、こういうのは段階を踏んでいきたいなー」
「そうか、そうだな! 俺たちは付き合っている。この事実は変わらないんだから、俺たちのペースでゆっくり進んでいけばいいよな!」
「ですですぅ」
「嬉しさうなぎ登り! あのさ、なんか可愛いこと言ってみて」
「まにゅふぇすと」
「さすが羽山! 俺の彼女! かーわーいーいー!」
「ですですぅ」
イケメン先輩(名を田辺という)と羽山は放課後待ち合わせでもしていたのか、二人並んで帰って行った。
「なんだあいつ。彼氏には羽山って呼ばれてもいいのかよ……」
俺にはあんだけ喰らいついてきたくせして、よくわからない奴だ。
下駄箱から靴を取り出し、帰路を辿る。
時期は十月。肌寒い風を感じながら、空を見上げた。
流れる雲は、最終的にどこに辿り着くのだろうか。それは、人間が死んだら魂はどこにいくのかという問いに似ている。
追ってみなければ、死んでみなければわからない。
俺は一つの雲の行方を追うため走り出した。
風の勢いは強まって、雲の速度もぐんぐんと上がっていく。
待ってくれ、置いていかないでくれ!
俺の願いもむなしく、十分ほど走ったところで、雲は視認できないほど彼方へと流れて行った。
「ひぃ……ふぅ……」
膝に手を置き、中腰になって酸素を補充する。
我ながら意味のないことをしたと思う。雲の行方なんて、決してわからないのはわかっている。
『兄ちゃん。雲って、どこから来てどこへ行くのかな』
ふと、夕海が昔よく呟いていた声がした。幻聴なんだと脳内では理解していても、俺の体は勝手に声の発生源を探してしまう。
何もない。誰もいない。埃舞う静かな路地裏に、俺はいる。
「何度も追いかけたんだ」
誰に言うでもなく、空に向かって語りかけた。
「無理だと思っても、諦めたいと思っても、何度も何度も追いかけたんだ」
天を這うように地を蹴って、膝を擦ったってものともせず、空想を抱いて雲を追った。
しかし、俺は一回も雲の行方をつかむことができなかった。
「ちっくしょう! ……ごめん、ごめんな夕海」
二人で、いつもの丘で約束した言葉を思い出す。
『待ってろ。兄ちゃんが必ず教えてやるかんな!』
あの日あの時交わした約束は、未だ果たせそうにない。