茜色の記憶
母ちゃんに駄々をこねて買ってもらったまんじゅうを、一つ違いの妹と一緒に食べるのが小さい頃の楽しみだった。
山道を横にそれ、茂みをかき分けて少し行ったところにある丘の上で、妹の夕海と一緒に立って並んだ。
夕日が街並みに沈んでいく様を見ながら、口いっぱいに粉っぽいまんじゅうをほおばって餡子のほんのりとした甘みを堪能する。
「うめぇなぁ、夕海。兄ちゃん泣けてきたよ」
俺たちだけが知っている景色がここにあると思うだけでも、得も言われぬ支配欲を刺激されるというものだ。
「兄ちゃん、兄ちゃん。ゆうみのもあげるー」
視線を横に移すと、背の小さい妹が自分のまんじゅうを俺に掲げていた。
優しい妹の心遣いに目尻が下がる。きっとこいつは将来いいお嫁さんになって、優しい旦那と幸せに暮らすのだろう。
しかし、兄貴が妹から物を恵んでもらうわけにはいくまい。本音を言うともう少し食べたかったけど、ここはぐっと我慢する。
「兄ちゃんはいいから、夕海が食べろよ」
顔では笑って背中で泣く。これが兄貴の正しい姿だ。
「ゆうみは可愛いからいつでもこんなのもらえるもん。でも兄ちゃんはぶさちゃんだから四日に一回しかもらえないでしょ」
かわいそうな者を見る目で、夕海は俺の掌に無理やりまんじゅうを渡してきた。
「夕海……」
兄貴は耐えなくてはならない。
「ぶさちゃんはかわいそう。もしゆうみがぶさちゃんだったらここから飛び降りてるね」
握り拳に力を入れてこめかみをぷるぷると震わせてでも、ここは耐えなくてはならないのだ。
「いいんだよ、夕海。お兄ちゃんはさっきのでもう満足だから、ほら食べなさい」
「いやー。兄ちゃんが触ったまんじゅうなんてばっちいからいやー」
きゃーきゃーとわめき散らして山を下っていく我が妹。
その小さな背中を見つめながらまんじゅうを一口かじる。
「……うんめぇなぁ」
日が本格的に暮れた頃。俺は密かに肩を震わせた。