ろく
オニギリマンはいつものように空を飛んでパトロールをしていました。
当然ですね。ヒーローですから。
「あれはなんだろう……」
町で騒いでる集団がいます。どうやら町の子どもたちが変な格好をしたやつらに襲われているようです。
「うわぁ……痛そう。あ、足もげた」
オニギリマンは遠くから一部始終を眺めます。
「あーあ」
しばらく見ていると、変な格好をしたやつらに何人か連れ去られてしまいました。
「ありゃりゃ……ドンマイ」そう言って彼が何事もなかったかのようにパトロールを再開しようとしたときでした。
おいお前、と声をかける者がいました。
振り返るとそこに真っ黒いやつがオニギリマンを睨みつけています。さっきの変な格好をしたやつらの仲間でしょう。見た目がそっくりです。
「どうしたんだい」
「どうしたもこうしたもない! おまえはここのヒーローだろう!」
「よくわかったね」
「マントをつけているやつはヒーローだと決まっている!」
「うんうん。そうだったね。ぼくの名前はオニギリマンだよ」
「どうしてお前は自分の町を救わないんだ!」
「え?」
オニギリマンは首を傾げます。「救ってるよ。何かあったらね」
「今お前の目の前で子どもが殺された! 何人かは連れ去られた! なのにどうしてお前は何もしないんだ! 何を企んでいる!」
ヒーローは怪訝な顔をして眉をひそめます。
「いちいち怒鳴らないでくれよ。耳が痛いよ、まったく。あれに何の『悪事』があったんだい? きみも空を飛べるところを見ると『ヒーロー』か『悪役』のどっちかだと思うけど、少なくともこの町に来るのは初めてだろう」
「そうだ。オレはいつもだったら一つ山向こうの町にいる」
「じゃあ、いいじゃないか。ぼくもう行くよ。約束があるから」
「おい!」
オニギリマンは面倒くさそうでした。
「邪魔が入らなくてよかったじゃないか。――まぁ、機会があったら他の町のヒーローに聞いてごらん。ぼくはヒーローとしてはひどく模範的なんだ」
真っ黒いやつは口をぱくぱくさせています。怒りで言葉が出ないのでしょう。
「狂ってる!」
「狂ってないよ。規則通りさ」
と言って、彼は飛び去ります。真っ黒いやつは追いかけてきませんでした。
オニギリマンは一軒の民家の前に着地します。
ドアをノックしますが、何の反応もありませんでした。
「おっかしいなぁ。約束、忘れちゃったのかなぁ」
しばらく周辺をうろうろしていましたが、家の中に人のいる気配はありません。
待たせてもらうか。
オニギリマンは仕方なく、玄関の前に座り込んでバッチイマンの帰りを待つことにしました。
つづく