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オニギリマンは、『オニギリマン』になる前からバッチイマンのことを知っていました。
今でこそバッチイマンは悪役ですが、昔は違ったのです。
彼はとっても優しい人でした。ヒールではなくヒーローになるべき男でした。
悪役になることを望んだのはバッチイマン自身でしたが、「似合わない」とオニギリマンは思います。
ふさわしくない。
悪役にふさわしくなく、そして最も悪役から遠いと思っています。
ヒーローと悪役の立ち位置を交換したほうがまだしっくりきます。
しかし、そんなわがままは通りません。
オニギリマンはヒーローになってしまいましたし、バッチイマンは相反する敵になってしまいました。
彼はそれをこの期に至ってなお、とても残念だと思っています。
「やい、バッチイマンめ。成敗してくれよう」
「普通の正義の味方は、まだ何も悪いことをしていない悪を懲らしめに来たらいけないと思うんだ」
「悪事を未然に防ぐのだ」
「そうですかそうですか」
バッチイマンはまるで意に介さず、自分の子どもの髪を結っています。
あら、かわいらしい三つ編み。
ちゃんとお父さんしてる。
「お昼にまた来てよ。今忙しいから」
「そのようだな」
「オニギリマンって暇なんだねぇ」子どもたちがわらわらと群がってきます。
「きみらのお父さんと戦うのが仕事なんで」
「わたしたちのお父さんはちゃんとサラリーマンと悪者を両立しているわ」
「ぼくはバッチイマンみたいに器用じゃないんですぅー。一点集中なんですぅー」
まるで子どもです。
自分よりもだいぶ年下の子どもに笑われています。
つらい。心が折れる。
バッチイマンにも相手にしてもらえないので、オニギリマンは「覚えてろよ!」と言って、少し泣きながら帰りました。
おわり