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ヒーロー  作者: 穏田
第2部
27/28

じゅうさん


 良いものを見つけたぞと思ったのが最初の感想でした。


 男子たるもの、山で虫取りをせずに何を遊びとすると言わんばかりに飛び出していった先で、タロウは扉を見つけました。


 入り口は巧妙に隠されていて、そうそう見つけられるようなものではないのでしょう。完全に風景に同化していました。それでもタロウには分かりました。真上を走れば音の違いに気付きます。


 そもそもの話、タロウは疑問を感じていたのです。


 生き物がいないとはどういうことなのでしょう。山に生き物がいなければ生態系は通常のものとは異なっているはずです。それなのに山には平然と緑が溢れている。違和感を覚えました。


 きっとこの山は人工物なのでしょう。生き物も棲み着かないような場所なのです。地中50メートル以下は造られた空間がある。


 タロウはそう推測をしていました。実際に地面を掘って、確かめてもみました。スコップは使いませんでした。あくまで誰にも知られないように事を進めました。


 生徒は勿論、学校側にもバレないように細心の注意を払いました。鈍色の鉄の壁にぶち当たり、推測を実証してみました。それでもタロウを止めるに至りません。


 1度疑問を持ってしまえば、立ち止まれない質なのです。


 泥に汚れてしまった両手を、鉄壁の上で眺めます。素手で地面をちょっと掘ったくらいでは自身の限界を測ることができなかったようです。


 強靱な肉体と強い探究心が今の彼を動かしていました。


 とりあえず足下の壁を殴ってみます。


 全くビクともしませんでした。ちょっと悔しいとタロウは思いました。鍛えたらここに穴を開けることもできるかもしれません。最終手段としては、それでいいでしょう。しかしその手はあまり使いたくありません。筋力任せの解決方法は短絡的かつスマートではありません。仮に実行に移したとして、鉄壁の下に何があるか分かりません。タロウは羽がないのです。足場がなくなる恐怖は経験したことがなくとも想像できます。


 少なくともこの山は人工物、その確証を得ました。


 人工物ということは、中に何かを閉じ込めているわけでもない限り、入り口があるに違いありません。多少時間がかかっても探してみる価値はあります。それに、宝探しの始まりみたいでタロウはわくわくしてきました。


 一瞬、モコくんも一緒に探してくれたら、と思いましたが、彼は今補習真っ只中のはずです。タロウにはどうしてあんな簡単なテストで赤点を取ることができるのか分かりません。しかし人には得手不得手があるのです。勉強ができないことをとやかく言うつもりはありませんし、問題にもなりませんでした。


 つまんないな、と思いましたがそれも今のうちだけでしょう。むしろ、先にお宝を見つけておいて、モコくんをビックリさせるほうが面白いかもしれません。


 毎日のように山に遊びに行くと見せかけて、入り口を探していました。虫かごと虫取りアミも忘れません。そういうところも用意周到なのです。くだらないところでミスは犯しません。タロウは完璧主義です。やるからには徹底的にやらなくては意味がないと思っています。


 おかげで補習ばかりのモコくんと一緒に遊ぶ時間は減りましたが、それもこれも最終的には良い方向に転がるはずです。タロウはそう思っています。


 朝はモコくんを迎えに行っていますし、クラスも同じです。たまに授業をサボって空き教室でずっと空想のような取り留めのない話をしています。その時間がまた格別なのです。着実にモコくんとタロウは仲良くなっていました。タロウ自身もモコくんに対する興味が尽きることはありません。彼は劣等生と呼ばれる割に頭の回転が速く、心が優しいのです。能力に対しての評価が妥当でないと常々タロウは感じていました。


 おかげでモコくんの自己評価も相対的に下がっていってしまっています。能力に対しての評価の落差、そのアンバランスさがツボです。


 やっぱりモコくんって面白いなあ。


 いざ、宝物の山を目にしたときもそうですし、その奥の奥、本当に見せたかったものを見せた今この瞬間も、タロウはおかしくておかしくて仕方がありませんでした。


 驚きすぎて気絶してしまったモコくんを背負い、タロウは宝物の山を下っていきます。


 今日のは最高に面白かったぞ。


 そればかりが胸を占めます。


 モコくんといると退屈しません。これまでの、この学校に来る前の生活とは大違いです。ハハハとタロウは人知れず笑うと、上機嫌で帰路につきました。


おわり

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