じゅうに
テレビの山の向こうには何があるんだろう。
ふと周りを見回すと、タロウくんがいなくなっていました。目の前のアニメどころではありません。彼がいないとモコは帰れません。学校までの帰り道を正確に把握しているのは彼だけなのです。
ドクドクとうるさく鳴り始めた心臓に気がつかないふりをして、モコはズボンの埃をはたきながら立ち上がります。タロウくんは一体どこに行ってしまったのでしょう。
まさか、置いていったなんてこともないはずです。タロウくんはそういう人間ではありません。良いやつなのです。
ただちょっと、悪戯好きな一面もあることをモコは知っています。きっと、驚かせようとどこかに隠れているのでしょう。そのはずです。
背伸びをするようにテレビの上を意味もなく覗き込んだり、這ってみたり、タロウくんを探し歩きます。足はどんどんと奥の方まで進んでいきました。
タロウくんはここが宝の山の麓と言いました。
ということは、この奥にまだ何か宝が埋まっていることを知っているということです。モコがテレビに夢中になっているから嫌になって、先に行ってしまったのかもしれません。そうに違いありません。
思い込もうとしても、心臓が早くなっていくのは止められませんし、足も次第に早足になっていきます。そんなはずはないのに、この世界で一人ぼっちになってしまったかのような錯覚に陥ります。
影も形も見当たりません。
もう、泣きそうです。視界が涙に埋もれました。
早足から、ついに走り出してしまいます。息遣いが嗚咽に紛れて苦しくて仕方がありませんでした。
ですが、足を止めるわけにはいかないのです。
「――っつ」
何もないところですっ転びます。足がもつれてしまいました。
「ううう……」
もう恥も外聞もありません。ここにはタロウくんどころか誰も見当たらないのですから咎める人はいないはずです。
わんわんと泣き出す一歩手前でした。
「何してんの、モコくん」
ちょっとからかうような声がしたのは、そのときでした。
モコは声がしたほうを振り仰ぎます。テレビの山の天辺に立って、色彩鮮やかなコードの束を持ったタロウくんがいました。
モコを見下ろして、苦笑いしています。「もう、モコくん。すぐ泣くんだから」
「なっ、泣いてない!」
慌てて目元を拭うと、彼はくすくすと笑いました。
「嘘がヘタだね」
「泣いてないったら!」
「情緒豊かなところも、嘘がつけないところも、モコくんの良いところだよ」
「うるさい!」
足音荒くタロウくんの足下まで行くと、彼は手に持ったコードを何の未練もなく放り投げて降りてきました。そんな乱暴に扱っていいのでしょうか。何種類ものコードは見るからに重要な線のように見えるのですが。
「いいの、いいの」
「そうなの?」
「もういらないものだからね」
「ふうん」
タロウくんがそう言うのなら、そうなのでしょう。彼の嘘吐きは今に始まったことではありません。
彼はモコの隣に並ぶと、嬉しそうに笑顔を作りました。
「テレビはもういいの?」
「飽きた」
「そっか。じゃあ、この中を案内するよ」
「まだ何かあるの?」
「もちろん。テレビなんか目じゃないんだから」
タロウくんはモコの手を引きます。それにつられて、なんだかワクワクしてきました。
彼らは奥へ、奥へと進んでいきます。
モコはふと、得体の知れない不安に胸を押し潰されそうになりました。ぎゅうぎゅうと主張してくるそれは、最後の警告だったのかもしれません。
しかしながら、それが頭の中を過ぎるたびに、タロウくんの握る手の力が弱くなるのです。それは、絶妙なタイミングでした。今のモコは彼の手に縋ることでしか、行く先さえ分からないのです。一生懸命に握ると、またしっかりと握り返してくれることに安堵しました。
やがて目の前に簡素な鉄の扉が立ちはだかります。かけられたプレートは文字がかすれていて読めません。
「ねえ、どこに続いてるの」
「………」
タロウくんは答えません。
どこからか鍵を取り出すと、彼は迷うことなくそのドアを開けました。