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ヒーロー  作者: 穏田
第2部
23/28

きゅう


 放課後、モコくんと彼が呼びかけてきた時点で嫌な予感がありました。


 彼はモコの親友だったので、気のせいだと思い込もうとしました。しかし、どうにもそれがうまくいかないのです。


 にこにこと笑う彼のどこに不満があるのだろうと自分の心に聞いてみたところで、いっこうに返事は返ってきません。


 このもやもやの正体は何でしょうか。


 タロウに手を引かれながら、焦りのような気持ちだけが募ります。彼の行く先に着いてしまったらもう、引き返せないと直感が知らせるのです。


 ですが、そうなってもモコのタロウに対する信頼は揺るぎません。


 だって彼は、ずっとモコの隣にいてくれたのです。


 一人ぼっちのモコの隣で本当に楽しそうに笑うのです。


 それを疑うことなどできませんでした。


 疑って、もしタロウがモコの思っているような人物ではなかったとき、立ち直れないような気もしました。


 だからモコは「どこに行くの?」とは聞きましたが、「教えてくれないなら帰る」とは言わなかったのです。



「モコくん、疲れた?」



 校門を出てから、ずっとまっすぐ続く道を進みます。


 そうは言ってもその一本道は獣の道。踏みならされていない道を歩くのは入学試験以来でした。


 先生たちは学校から遠くへ行くとき、必ず空を飛びます。


 だからここにある足跡は全部、獣か子どものものなのです。



「ごめんね。もうちょっとだから」



 彼は一体モコをどこへ連れて行くつもりなのでしょう。


 タロウは汗一つかいていませんでしたが、モコは疲れ果てていました。


 これが優等生と劣等生の違いなのでしょうか。


 だとしたら彼はとんでもないなぁと、ぼんやりとする頭で考えました。


 頭上で緑の葉っぱがゆらゆら揺れます。


 これは確か広葉樹だったかな、と授業で習ったことを思い返しました。きっと季節になったら紅葉が綺麗でしょう。


 それまで僕は学校に残っていることができるのだろうかと暗澹あんたんとした気持ちになりました。



「あのね、モコくん」



 疲れ切った様子のモコに気付いていたのでしょうか。


 歩みを留めることはしませんが、彼は持っていた水筒を差し出します。



「ぼくはあれを見つけたとき、絶対にモコくんにも見て欲しいと思ったんだ。モコくんに一番に見せたかった。すっごくわくわくしたよ。それを共有したかったんだ。でも、やっぱり先に入学した生徒の中には僕と同じように見つけちゃうやつもいて、なんだかとっても悔しかった。おまけにモコくんは最近追試とか補講ばっかりでろくに遊ぶ時間も取れなかっただろ? 仕方ないって分かってるけど、どうにも我慢できなくて今のうちに仲間を増やしといたんだ」


 モコにはタロウが何を言っているのかいまいち分かりません。


 ただ一心不乱にぐびぐびと水を飲んでいると「それぼくの分も入ってるからね」と制されました。


 口の端を飲みきれなかった水が垂れます。皺だらけのTシャツに染みを作りました。


 モコにはタロウが同級生たちを裏山で遊んでいたわけではなかったということだけ分かりました。よく考えたら裏山に虫も動物も住んでいません。


 何年か前に先生のうちの、生き物嫌いの誰かが駆除してしまったといつだったか聞いたことがあります。


――タロウくんって意外と嘘吐きだ。


 そういえば、初めて会ったときも彼は嘘をついていたことを思い出しました。


 タロウはきょろきょろと辺りを見回します。何か探しているのでしょうか。


 モコはもう立つこともつらいので、適当なところに座って、地面を這いずり始めたタロウを眺めます。


 湿った土がタロウの手を汚します。


 そんな泥だらけになって、後で洗濯するの大変だろうとのんきに思いました。


 太陽の日差しがポカポカと暖かく、うとうとしながら、寝そべります。


――寝ちゃいそう。


「モコくん、モコくん!」


 彼の呼ぶ声がしましたが、眠気には勝てません。


 なんとか返事はしたものの、そこから記憶は途絶えました。

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