なな
タロウくんは非常に優秀でした。
彼はまるでヒーローになるために生まれてきたかの如く品行方正で、誰に対しても平等に接することのできる少年でした。
対するモコはというと、学科も実技も全然振るいませんでしたし、そのストレスも相俟って増々心を閉ざしていきました。
タロウくんと常に一緒にいるせいもあったのでしょう。
両極な2人は比べられることが多くなっていきました。
しかし、タロウくんはそんな些細なことを気にしたりはしません。
なんたってモコは彼の1番の友だちなのです。
今日も彼はあの手この手でモコを授業へと引っ張り出します。
「モコくん、今日はね!」
「給食カレーなんだって、モコくん!」
「デザートはゼリーだよ! モコくんの大好きなゼリー!」
主に話題は給食のことでしたが、それでも朝に弱いと言う彼がわざわざ迎えに来るというのはモコにとって、とても重大なことに感じられたのでした。
うるさい彼を押しのけて起き上がると、タロウくんは満足げな顔をします。
「放課後、ケッセーとシュートと遊ぶ約束してるから、モコくんも来いよ」
「ケッセー?」
顔を洗いながら耳に入ってきた聞き慣れない名前を繰り返すと、彼は「隣の隣のクラスのやつ」と説明します。
「この前、裏山でセミ取りしたときにオギが連れてきたやつら」
「ふーん」
おそらくモコが補習授業を受けていたときに出来た友だちなのでしょう。
僕パスと言う前に、先回りするようにタロウくんは言います。
「まだぼくもあんまり遊んだことないやつらだから、モコくんがいれば安心だなぁ」
こいつ絶対末っ子だと思いながら、苦々しい気持ちで濡れた顔を拭きます。
ずるいのです。
そういう言い方をされれば文句を言いながらもモコが思い通りに動いてくれることを知っている口ぶりでした。
わざとらしく溜め息を吐いてタロウくんの要求に頷きます。
「いいよ、今日はちょうど補習もないしね」
「珍しいね」
取り入れてからろくに畳んでいない洗濯物の中から適当なTシャツを引っ張り出してモコに投げつけながら、タロウくんはへらへら言いました。
「知ってて誘ったんだろ」
模範的な彼が、補習サボって遊ぼうぜなんて提案することはありません。そういったことで友だちを不快にさせることも彼は嫌います。
しわくちゃのTシャツに腕を通しながらじろりと睨めば、タロウくんはやめろよと言わんばかりに手を振りました。
「1時間目は『基礎飛行』だよ、モコくん」
あからさまに話を逸らして、彼は洗濯物の山から揃いの靴下を見つけてきます。
「ぼくにも羽があったらなぁ」
そう言って、タロウくんは少し寂しそうな顔をしました。




