ろく
モコはヒーロー役に、タロウは悪役になりました。
『拷問』の授業では、生徒たちはヒーロー役と悪役のどちらかに振り分けられます。
モコくんは安心したのと同時に、新しく出来た友だちの顔を気づかわしげに見やりました。
「なに?」
彼は少し首を傾げます。何でもない、と答えると、「へんなのー」と彼は笑いました。
正直なところ、どの役になるかは問題ではありません。新しい友だちと役が分かれてしまったことが彼の不安を煽りました。
しかし、それを顔に出すわけにはいきません。
とんだ腰抜けだと思われたらエンガチョされてしまいます。
――それだけは避けたい。
全寮制の小さな社会で生きる彼らにとって、孤立とは死を意味します。
ヒーローとは孤独なものだと言われてはいても、そんな時代遅れなことを言っていては仕事になりません。悪役はいつの時代だって徒党を組んでやってくるのです。
孤高のヒーローと気取っていても、彼らは所詮職業ヒーロー。他人と関わらずして成り立っていくことはできません。
もう僕誰と関わらないで生きていける方法を探す旅に出たいと言う彼の言葉を、右から左に聞きながらタロウは苦笑いを浮かべました。
「旅に出たら、どうやっても人に会うと思うんだけどね」
適当に返した返事に、うめきながらうずくまる友人を彼は面白い生き物でも見るように眺めます。
「ぼくね、この間スイカを食べてて思ったんだけど」
モコくんはタロウを見上げます。
存外、真面目そうな顔をしていました。
声は笑っているのに器用だなぁという呟きを、彼は無視します。
「スイカに塩かけるじゃん。そうするとスイカが甘く感じられるのと同じように、人生も多少しょっぱいことがあったほうが楽しいんじゃないかなって」
「スイカって元々甘いと思う」
「そうかもね」
そう言って困ったように笑顔を作る彼を見て、モコは何か言いたそうに口を開きました。
しかし、その声はチャイムの音に遮られてしまいます。
「次の授業なんだっけ」
「『遠隔操作』」
「あれ苦手なんだよなあ」
唇を歪めて、しかし彼は平然と言います。
「そろそろ授業出ないと落第するよな」
前の時間の授業も、その前の前の授業も「モコくんがサボるなら、ぼくも」と言ってくっついてきた彼の言動に違和感を覚えながら、モコくんは朝のホームルームで配られた『配役表』をぐしゃぐしゃに丸めて捨てました。