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ヒーロー  作者: 穏田
第2部
18/28




 入学式を終えて、これから1年間過ごす教室に入ると、職員室と同じ匂いがしました。



 この学校はどこもかしこもこの匂いがします。



 匂いの薄いところや濃い場所の違いはあっても、学校中に染み込んでいるようでした。



 窓を開けるといくらかマシになります。



 前の席のクラスメイトが「さむい……」と苦情を言うまで開け放したままでいました。



 何やら教室の外から話し声がします。



 生徒たちに遅れて来た先生同士が話しているようです。



「バッチイマン先生とフギマン先生だ」



「わたしバッチイマン先生に寮まで連れてってもらった」



「おれも」



 廊下側の生徒たちが口々に言います。



 どうやら寮に案内するのは担任の先生の仕事のようでした。



 ガラッと教室の前のドアが開きます。



 後ろを向いて笑顔で手を振るバッチイマン先生と、その奥で同じように小さく手を振るフギマン先生がいました。



 バッチイマン先生は教壇の真ん中に立つと室内を見回しました。



 みんないますねの呟きを枕詞に「皆さん、はじめまして。今日からA組を受け持つことになったバッチイマンです」と言います。



「入学おめでとうございます。今年も例年通り誰一人として欠けることなく辿り着くことが出来ましたね。よく頑張りました。今年は去年よりちょっと厳しい条件だったかなと先生たちハラハラしていましたが、みなさんが優秀だったおかげで良いスタートを切ることができました」



 リップサービスだと思いました。



 先生たちはちゃんと、甘いくらいにサポートをしていました。



 特に熊のところは、などと言い連ねる声を聞き流して窓の外を見ます。



 運動場に咲き乱れた桜の花びらが舞って綺麗です。



 故郷の桜はもう少し色が薄かった。



 そう思うと古里から旅立った日のことを思い出しました。



 入学許可証をもらった時点でもうこの学校の生徒と見なされるので、そこから第一の試験は始まりました。無事に自分の足で校門をくぐることが合格条件です。



 その道中の課題をクリアしないことには進めず、入学式に間に合わなければ入学取消になります。創立以来取消になった生徒はいません。所詮しょせん少し早目の学校行事に過ぎませんが、前期の成績にも関わってくるとの噂もあり、保護者によっては出発前にあれもこれもと持たせたがるそうです。



 時に入学予定者についてきてしまう保護者もいてその場合は厳重注意を受けるらしい、と前の席の寒がりがこっそり無駄話をしてきます。噂話が好きそうな顔をしていました。



 こういう顔をしているやつにろくなやつがいないと浅い経験の内で判断しつつ、先生のほうを向けばとがめるようにこちらを見ていました。



 みんなの前で注意されないうちにちゃんと先生の話を聞くように前の席の寒がりに言い、自分も背筋を正します。



 バッチイマン先生は特に何も言ってこないまま、ホームルームは終わりました。



 何も言われず目で叱られるほうが恐ろしく、バッチイマン先生は効果的な注意の仕方をよく心得ている先生なのだと思いました。




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