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寮までの道程でバッチイマン先生は何度も振り返りました。
ついてきているかどうか確認するくらいなら初めからゆっくり歩いてほしいと思いました。
「ここは衣装室です」
先生は一度だけ自分から教室の説明をしました。
何の衣装でしょう。
見上げると、先生はあごに手を当ててどう言おうか考えているようでした。
「簡単に言えば、おれたちの正装のようなものがいっぱい詰まってる教室です。マントが必需品ということは知っていますね?」
はいとお返事します。
ヒーローや悪役になるための試験に合格した者にはマントが支給されます。飛行能力がない者はそれを使って空を飛ぶのです。
さりとてマントはヒーローや悪役の証。
彼らは飛行能力の有無に関わらずそれを身につけることを好みます。マントは彼らの誇りなのです。
「卒業した後いざ飛ぼうとして勝手が分からないということがないように、在学中に飛行の授業があります。その時に使う練習用マントが置いてあります」
隣は更衣室と声が降ってきます。そちらを見ている間にバッチイマン先生は先に行ってしまいました。
先生の背中には大きい羽が生えています。
一生懸命追いかけました。
「せんせい」
「何でしょう」
「この教室の名前は何て読むんですか?」
プレートには『呵責室』と書かれています。
「かしゃくしつです」
中から叫ぶ声が聞こえます。
得体の知れない声は心を泡立たせました。
「こわいです、先生」
「呵責室はそういう部屋です」
先生は何でもないことのように言います。
それが恐ろしくて、自分の体を抱きしめました。
なんて恐ろしい所へ来てしまったのだろう。
きっと、この学校にいる間に呵責室へ入る日も来るのです。先生の態度がそれを物語っています。
逃げるようにその場を後にしつつ、二度とあの声は聞きたくないと思いました。