じゅういち
「まぁ、捕虜を殺すわけがないんだよね」
牢に閉じ込められたオニギリマンは呟きます。
手錠と足枷が邪魔くさい。
天井を見上げると黒くて小さな虫が蠢いています。
なあお前、とどこからか呼ぶ声がしました。
オニギリマンは寝転がって独房をぐるりと見回しながら「なんだい、イケナイマン」と答えます。
牢の前で見張り役をしている男がオニギリマンに背中を向けたまま言いました。「これからどうするの?」
「きみたちの仲間になるよ」
「嘘をつけ」
そう一刀両断にして、彼は振り向きました。
旧友の顔は強張っていました。養成学校時代のクラスメイトです。
肩を並べて学んだ者同士が、今や敵同士。彼らの間ではよくあることです。
「俺はお前をよく知っている。オニギリマンはヒーローにしかなれない。昔からそうだ。どんなことをしていても必ず最後にはお前が勝つ。だから正義の味方なんだ」
「買いかぶりすぎってもんさ。そんないいものじゃないよ」
言いつつ、足枷を手の指先でちまちまと千切っていきます。鉄のそれをまるで紙を扱うかのように。
後ろ手になっているのでイケナイマンはまだ気づいていません。
「バッチイマン先生は元気か?」
「えっ? バッチイマン? 元気だよ。子どもたちも元気だよ。元気どころか超強い。ぼくより強いんじゃないかな。先生、自分の子どもに英才教育してるから。サラリーマン辞めてまた教職に復帰すればいいのにね」
「先生が辞めたのはお前のせいだろ。だいたい、問題児のお前が真っ当にヒーローなんかできるはずがないんだ」
「さっきと言ってることが矛盾してるよ」
苦笑して、タイミングを窺います。両足は完全に自由になりました。
あとは脱出するだけです。
「本当にヒーローに向いてると思う?」
「ああ、まぁ……それは本心だ」
イケナイマンが少し目を逸らした瞬間です。外した足枷を、手首の力だけで彼に向かって投げました。
「……っ!!」
見事額にクリーンヒットです。あっという間もなく静かにイケナイマンは倒れました。
オニギリマンは悠々と手錠も引きちぎると、気絶した見張りのポケットから牢の鍵を奪います。
やっていることがまるで悪党です。
「ぼくは何物にも縛られない」
さて、と錠前を閉め直し、ビー玉大の灰色の塊を取り出します。
それをコロコロと投げ入れ、両手を2回叩きました。
すると、どうでしょう。
灰色の球体は光りながらどんどん大きくなっていきます。天井の虫たちや床を這いまわっていたネズミたちは眩しさを嫌って逃げ出しました。
それはしばらくすると人型に形状を留め、細部を忠実に再現しました。2人目のオニギリマン完成です。
「じゃ、あとはよろしくね」
「いってらっしゃい、オニギリマン」
「ただいまは言わないからね」
「はい」
ニコニコと手を振る自分と同じ顔をした風船人形を残し、オニギリマンは地下牢探索を開始しました。
つづく




