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サイレントナイト、ホーリーナイト


 12月に入ると、5、6年生はクリスマス会の準備に大わらわになる。

 5、6年生が並ぶとなれば、同学年の子にはご存知の通り、6年生には僕が「姐さん」と呼ぶ実姉がいる。男子はトナカイ、女子はサンタのコスプレをしながら、1~4年生に向けてプレゼント(お菓子)をばらまくイベントなのだが、姉弟揃って進むのだけは願い下げだ。去年の姐さんのサンタコス、アレは下級生に刺激強過ぎだし、見てて風邪引かないか心配になったわ。


 そう、去年のクリスマス会…

「智彦の姉貴、すげぇ衣装だな。俺、一瞬だけ智彦の姉だっての忘れかけそうになったぞ。」

 剛史のさりげない一言に、姐さんの姿に気付き…

「なーにやってんの?姐さん?」

と声を張り上げてしまった。

 もちろん姐さんが僕に気付かない訳が無く、当時4年生の僕のクラスがある3組に来ると…

「お姉さん、頑張っちゃった。どう?この衣装。男共にはたまらないでしょ?」

 まぁー、その背後には、クラスの男子が、姐さんのスカートの中覗こうとするし。そんで僕は気恥ずかしくなるし。

「あのねぇ。それは青少年の教育上、良くないぞ。その格好で1年生のクラスにも行ったんでしょ?」

「もちろん!スカート捲られたけど、今日は見せパン履いてるから、見られたって平気よ。」

「そーゆー問題じゃねんだよなぁ。とにかく自分のクラスに戻ったら、素早く元々着てた衣服に着替えて、暖炉に身を寄せるんだよ。風邪引くから。」

「まぁー、優しいのね。お姉さんに向かって。」

「っさい!仕事に戻って!」

「はーい。」

 参ったもんだよ。腹も背中のラインも丸見えのサンタコス着てくるし。男子は超喜んでるし、まぁ良いさ。女子は若干引き気味だったり、憧れの目を向けたり、悲喜交々だったし、実弟として辛かったね。


「なぁ、智彦。パンツ見れたぞ。」

「はいはい。そりゃ良かったね。」

 なーにやってんだよ。剛史。

「赤だったな。サンタにちなんで。」

「あぁ、アレか。洗濯物にたまにあるから分かるよ。てか、姐さんのパンチラ見れて、そんなに嬉しいか?」

「うーん。そりゃ阪も…もごっ」

「馬鹿野郎。敵が増えるぞ。」

「あぁ、そうだな。Sさんのと比べたら劣るけど、良い物だよ。」

 今確実に「阪本」って言いかけてたな。Sで始まる苗字の子なら、クラスに5人はいるし、うち女子は3人だ。何とか、カムフラージュにはなっただろうかな。近くに女子がいるので、本当にヒヤヒヤした。

 後日、姐さんは風邪引かなかったが、横八小にしては珍しく、注意書きが送られた。曰く「衣服の件は注意しないが、また着るんだったらインナーを着なさい!」とのご通達だった。ごもっとも。


 さて、今年はどうなるのかなぁ。そう思いながら、小山先生が今年のクリスマス会の概要を伝えた。

「今年のクリスマス会、男女共にサンタのコスチュームに身を包む事になった。男子はトナカイ役にならなくたって良いんだぞ。」

 おぉ、良かったぁ。トナカイには、あと、去年トナカイ役やってた先輩には悪いけど、あんまりカッコ良くなかったんだよなぁ。

「あと去年の件、ご存知の通り、松本のお姉さんの一件もあるので、女子は肌の露出が高い衣装を着る時、肌色のインナーを着用するように。風邪引かれちゃ俺も困ります。さほど露出が少ないと学校側から認められれば、インナーは着なくても大丈夫です。」

 姐さんの件で、新しいルールが取り決められちゃったよ。「何か一言あるか?松本。」と言われりゃ「姉がご迷惑をおかけしました。」と言うしかないなぁ。


 大まかな話が終わったあと、早速準備に取り掛かった。配るお菓子は男子が、女子はサンタコスのデザインを決める事になった。

 予算の割り当て、配るお菓子の種類など、いろいろ話し合ったが、思ったよりもすんなりとまとまった。

 1学年に1万円分のお菓子を用意し、お菓子はビスケットに大方決まった。「いなかのママ」というソフトビスケットをどっさりと購入する予定になった。僕もだけど、クラス全員このお菓子大好きだからなぁ。


 ところで、女子の様子はどうなってるんだろう?御手洗いに行くついでに、チラッと見てみたかったが…

「ダメよ、まだ見ちゃ。」

と、いきなりかなちゃんが通せんぼのポーズをして立ち塞がった。

「チラ見でもダメなの?」

「だーめ。あきらちゃんのカレシさんでも見ちゃダメ。」

「んっ!」

 またツッコミ入れようと思ったが、脳裏には、あきらちゃんの誕生日会の帰りの、あの出来事を思い出した。ここで「カレシじゃねーって!」と言うと、あきらちゃん、悲しむだろうなぁ。

「わ、分かったよ。そんなに秘密にしたいなら、見ないようにするから。」

「さすがはトモくんね!私ら女子を良く分かってる!」

「何でも分かってる訳じゃないけどね。仕事の邪魔しちゃ悪うござんしょ?」

「うん。そうね。」

 まぁ、何事も無い、普通のやり取りだ。25日、どうなる事やら。



「絶対肌着着たくないねぇ。」

「でもそこのデザインじゃ、露出高くない?」

「スカートは絶対に外せない…。」

「ボクはズボンじゃないと落ち着かないなぁ。」

 わっ、わぁー。皆、大胆な衣装、考え付くわねぇ。どの衣装にしたって、私着られないわよ。恥ずかしいから。

 私が考えたのだと、こう、オーソドックスに、ズボンと上に羽織るタイプの物にしたんだけど、可愛げが無いとの事で即刻ボツに。でも、男子に着せるコスチュームとして案の一つにノミネートされた。

 それにしても、衣装のデザイン決めるのって、意外と時間がかかるのねぇ。男子陣営みたいに物事をすんなりとは決まらないのね。


「あっ!これいいね!」

 えっ?何?何?何か良いのがあったの?

「それほど露出も少なく、でもセクシーさがある…。」

 せ、せくしー?

「モモちゃん、将来、ウチのグループ会社の衣服関係の企業にご就職なさってくださいな。」

 モモちゃんって、大塚百恵(ももえ)ちゃんだよね?この子がデザインしたの?

「くはーっ!この靴下、けしからんなぁ!」

 どこにキレてるのよ、ナナちゃん。てか、まだ私見てないわ。

「あきらちゃん、とりあえず見てみて。ボクが思うに、トモくんでも発狂しそうなんだ。」

 そんなにすごいのかな?ももちゃんが考えたデザインって。って、トモくんが発狂しそうって、どんなにすごいのよ。


 うわっ!これは、確かにすごい!サンタ帽に、二の腕まで伸びてる手袋に、ソックス、いや、これはブーツね。太ももまであるし。それで、ワンピース型のドレス。これは、見た感じ温かそうね。ただ、肩が出てるのよね。これじゃ、腕を上げた拍子に、脇のしたが見えちゃうなぁ。

 確かに皆が言うように、低露出でセクシーなサンタコスね。

 もし、私がこれ着たら…

 いかんいかん、自分で自分にムラムラしちゃ。


「あきらちゃん、顔真っ赤だよ。どうしたの?」(ナナちゃん)

「あああっ、えっとね。セクシーだなぁと思って、この衣装着てる私をイメージしたら、あまりのセクシーさにやられそうになったのよ。」

「Yes!私、サイショからあきらちゃんが着るのゼンテイで、このドレスデザインしてたの!」

 ももちゃんって、いつも拍子抜けに明るいよね。こんなに元気だと、ついて行くのがしんどくなるわ。それに口調がどこかの、タメ口で話す女性タレントみたいね。

「短い間に、ナナツもアイディア出したんだけど、どれもロシュツ高過ぎて、折角のあきらちゃんのヤワハダが見れなくなっちゃうから、自主規制かけたの!ふふっ。」

 私に肌着を着せまいと、色々考えた!?

「それじゃ、これで仮採用ね!あとは学校と話し合って、インナー着なくても良いか、確認取るだけね!」

「サイショからあきらちゃんを仮想のモデルにミタテながらDesignした甲斐があるわ!」

 勝手に私で遊ばないでよー!想像だけだからまだいいけど!なぜか全員納得してるわね。まぁ、びっくり!


 後日、学校側からの返答がクラスに届いた。曰く「デザイン認可。インナー着なくても良し。」に加えて「下級生にスカート捲られない様な工夫を要求。」と出たわ。

「下着の上にブルマ履いたらどう?」

と私は提案した。直接的な解決になってないけど、一応採用はされた。

「捲られないように、スカートの部分、タイトにしたら、あきらちゃんのボディラインがくっきり見えちゃう!ボディコンみたい!」

 ぼ、ボディコン…。ジュリ扇バタつかせながら踊るお姉さんが着てる、あの衣装かぁ。

「私としてはOKだけど、ももちゃん的にはダメ?」(かなちゃん)

「モモ的には、やっぱり、あきらちゃんにはカレシの目があるから、なるべくボディコンみたいになるのは避けたい!」

「だって、あきらちゃん。あらら、恋人持っちゃ大変だわ、こりゃ。」

「…。」

 何て言い返せば良いのよぉ!「恋人って誰?」とか「カレシいないから!」と言うのも、何だかおかしいし。

「あれっ?どうしたの?いつもならそこで「カレシって誰よ!」って言うはずなのに。」

「えっ?あはは…。だって、ずーっと私とトモくんを恋人として見てるような弄り方してるから、もう慣れちゃった。」

 あらっ?どうしたの?なぜかヒソヒソばなし始めちゃって。

「ねぇ、あきらちゃん。いきなりだけど、トモくんとはどこまで進んだの?A?B?まさかと思うけどC?」

「どういう事?」

「Aはキス。Bはペッティング。手や指で全身を弄られる行為。Cは、その…、保健の教科書に載ってある、赤ちゃんができる為の、あの行為に勤しむやつよ。」

 何となく理解した。聞かなきゃ良かった!恥ずかしかったー!と言うより、Aに反応しちゃったんだもん!誕生日会の帰り…。


「およっ?この3つの中で何かあるみたいね。」

「ちょ、ちょっと待って!トモくんと相談してくる!」

 トモくんは今、クラスで使う予算についての書類を書いてるとこ。お邪魔するのも悪い気がしたけど、助けて欲しかったので、思いっきり近づいた。

「トーモくーん!助けてー!女子らの追求がキツくて!」

「な、なんて聞かれたの?」

「A…。私からじゃ言えないから、ちょっと来て!」

「お、うん。」


「それで、トモくんはあきらちゃんとどこまで進んだの?」

「Cはさすがに無いでしょ?」

「あったら責任取らなきゃならんでしょうが!」

 私もそう思うわよ!と言うより、もうAとかBとか知ってるんだ、トモくん。

「それじゃ、本当の事言うよ。いいよね?あきらちゃん。」

「う…、うん。」

「男子には、内緒だぞ。コレ、やったよ。」

 トモくん、手で何か作ってるみたいだけど、何だろう?

「「コレ」じゃ伝わらないなぁー。ちゃんと口で言ってくれなきゃ…」

「まぁ、小学生にしては、それは大進歩ですよ!」

「モモだってマダだよ!」

「まぁ、うっとり。そんな関係になってるだなんて。」(絵美裡ちゃん)

「これは、校内でも話題になるかもしれない…。」

「何?何?もう分かっちゃったの?」(かなちゃん)

「トモくんの手の形を見るといい…。」

 手の形?えーっと、あっ!よく見たら…

「この形は、Aか。」

 ひっそりと声をあげながらかなちゃんは言った。

「そう。A。」

「そこまで進んでたんだ。トモくんとあきらちゃん。」

「あ、あぁ。これ以上聞かないの?」

「どこまで進んだか聞きたかったから、いいわ。」

「分かった。僕、作業に戻るね。」

「ごめんね。仕事の邪魔しちゃって。」(私)

「いやぁ、いいって。ドンマイ。」

 正直に言うしか無いのは、トモくんの性分なのよねぇ。でも、どんな、き…Aだったか聞かなかったのが幸いだったわ。


 さっ、作業に戻ろう!皆からの「もうAまで行ったんだぁ。」と言いたげな視線が痛いけど。



「分かりました。5年2組、クリスマス会に向けて、78500円の予算請求、学校長の認可を()って、承諾致します。」

「有難う御座います。校長。」

 担任の小山先生と共に、僕は学校長に予算の請求に向かった。サンタコスの金額がまさかこんなに跳ね上がるとは、衝撃でしかないよ。

「高いなぁ。俺、ここに赴任して7年になるけど、この金額は初めて見たぞ。」

「衣服代、思ったよりかかりますね。」

「松本の今着てる服だって、高いだろ?」

「確か7800円でした。」

「だろ?案外衣服って馬鹿にならないくらい高いだろ?でも、松本のそれは高いなぁ。」

 僕は今マクレレーン・ホルティのチームウェアを着てる。レース系の衣服って、何でか高いんだよなぁ。ドライバーがデザインしたバッジでも500円以上するし。


 それとお菓子は、3~4年生にはプチケーキを配る事になった。さすがに全学年に同じお菓子を配るのは良くないと、女子サイドからクレームが来たからだった。

 確か去年、姐さんから渡されたお菓子って…、普通にモンブラン渡されたなぁ。しかも、持って帰れないと誰からも不評だったなぁ。それで、当時の担任の先生がとった措置が

「黙って、こっそりと食べてね。」

と言って、本当は給食の時以外ダメなんだけど、食う事になっちゃった。聞いた話じゃ、これが原因で先生が他校に転任になったとか。


(2週間後)


 そろそろ今日か。このクラスにサンタの衣装が届くの。きっと男子のは、誰もが思いつくであろうサンタさんの衣装で間違いないだろうなぁ。でも、女子のは想像つかないんだよなぁ。

「去年の智彦のお姉さんみたいな衣装ならいいなぁ。」

「あんなの着たら、その下にインナー着る事になって、結局肌見えないぞ。」

「いやぁ、そこは後夜祭のお楽しみでいいの。どんなのが来るか、俺今から楽しみで仕方がないんだよなぁ。」

「いや、肌の露出が多いからと言って、必ずしもセクシーとは言えないぞ。」

剛史と健太と田山が何か話してる。女子が用事で教室にいない今、女子が着るサンタコスの予想をしてる。ただの妄想なのに、なぜか盛り上がってるし。

 どんなのが来たって僕は(性的に)興奮しない自信があるんだがな。


 こんな感じで男子共がワイワイ話してると…

「トモくんだけ来て!」

 モモちゃんがやって来て、僕の袖を掴みながら、廊下に連れ出された。

「なっ、どうしたの?モモちゃん。」

「モモについて来て!きっとスゴイの見れるから!」

 スゴイのが見れる?何だろ?

「まだ、教えられない?」

「ココじゃムリー!」

 そう答えると思ったわ。きっと、サンタコスを見せるとか言いたいんだろうけど、まだ男子の目がある廊下じゃ言えないでしょうね。


 それで連れ出されたのが…

「ここって、女子更衣室じゃん!何で僕だけ?てか、僕入って良いの?」

「モチロンいいよ!それに、女子更衣室の中で着替えてるの、ヒトリだけ!きっと、トモくんワクワクすると思うから、キタイしてて!ふふっ。」

 再三「期待が持てるからね!」みたいな事言うけど、僕に何を期待させたいんだろう?よく、女子更衣室に男子がウロウロしてるのを見る。女子が着替えてるの覗いて、何が面白いんだろう?剛史が言うには

「智彦がF1マシンのカウルを外した時を覗いてるようにドキドキする。」

と表現してた。違和感あるけど「この中こうなってるんだ!」的なニュアンスで捉えられるんだろうなぁ。どっちの覗きにしたって。

「皆、トモくん連れて来たよー!」

「入っていいわよー。こっちは準備OKだから。」

「じゃあ、入って!」


コンコン


 あれっ?何でノックしちゃったんだ?もう入っていいんだよな。


ガラガラ


「さぁトモくん、早速、この中で一人だけ、サンタコスを着てる子がいるけど、この子は誰か当ててみて!」

 入るなりいきなりかなちゃんのレクリエーションが始まった。誰がサンタコスした子だって?どこだ?なぜか全員揃って密着してるし、僕の後ろにさっきまでいたモモちゃんも加わってるし。少し動いてみたら、僕の動きに合わせて、女子らが全員で何かを隠そうと動くし。これ、レクになるのかなぁ?


 色々と体を動かしたら、あるものが見えた。一人だけ、なぜかブーツを履いてる子がいた。誰だろう?それに、女子全員と僕はさっき思ってたけど、誰か一人足りない気がした。いや、もう気のせいなんかで済む話じゃなくなってきた!

「あれっ?あきらちゃんいない。どこ?」

「あきらちゃんに会いたい?」

「うん。だって今日も登校してたし、この集団にいないのがなんだか変だったし。」

「それじゃ、あきらちゃんに登場していただきましょう!せーのっ!」

一斉に女子らが2つの集団に分かれた。その中央には…

「はぁ…。これは…。」

 思わず溜息が漏れちゃった。だって、あきらちゃんが…。



「はぁ…。これは…。」

 み、見てる。トモくんが私を見てる。サンタコスに身を包んだ私を見てる。どこ、見られてるんだろう?ちょっとあらわになってる太もも?肩だってちょっと出てるし。あと、いつもより服がキツめだから、ボディラインがくっきり見えちゃってるよ。

 どこをどう隠したって、何だか、見透かされてるようで、恥ずかしい。


はぁ…はぁ…


「どしたの?あきらちゃん。息荒いよ。」(かなちゃん)

「だって、トモくんが私を見てるの意識したら、その、妙に気恥ずかしくなって…」

「セクシーさとキュートさを、リョーリツしてみたの!実際に着てみると、あきらちゃんがチョーカワイク見えるから、トモくん目のやり場に困るよね!」

「溜息出ちゃったもん。想像よりも上を行った衣装で、あまりにも可愛すぎるから。」

 そんな、褒めすぎだよぉ。

「トモくん、あきらちゃんをいやらしい目で見ちゃダメよ。」(かなちゃん)

「そーゆー目で見ちゃいないから!」

 分かってるけどね…。あぁ、どうしよう。スカート丈短くないかな?胸が、強調されたような気がするし。私だけこの衣装なのって、恥ずかしいよ…。


「さて、そろそろ私らの分も届いてるはずだから、校門で業者さんに挨拶がてら、ここに衣装を運びに行くよ!あぁ、あきらちゃんのはもう着てるから、そのままでいてね。それと、トモくんもそこにいてね。」(かなちゃん)

 ああっ、ちょっと!トモくんと一緒にさせるって、かなちゃん、わざとでしょ!

「えっ?僕は…」

「あきらちゃんを一人にさせる気?誰かに寝取られちゃうかもよー。」

「なーもう、分かったから!あきらちゃんとここで待ってるよ!」

 何だかヤケになってない?トモくんにしては珍しい反応ね。


バタン


「2人っきりになっちゃったね。」

「そ、そうね…。」

 わぁー。かなり緊張するよー。私だけこんな格好で、トモくんにじーっと見られてて…。トモくんと2人きり!?今まで、かなちゃん達がいたから意識してなかったけど、これって、何だか嬉しい事じゃない?学校じゃ今まで2人っきりになった事ないから…。

「トモくん。椅子に座ろうか。」

「そうだね。落ち着こうか。」

と見せかけて…


ちょこん


「わあっ!ちょっと!またか!?」

「えへへ…。良いでしょ?トモくんの上に座るのって、何か気持ち良いんだ。」

「えっ!僕、体脂肪少ないし、どちらかと言うとガッチリした体格だよ。多分そんなに心地良くないと思うんだけど。」

「ううん。私には心地良いわよ。しかも今、こうやって身を寄せたら、温かくなるし。」

「そ、そう?なら、良いか。」

 冬だから、更衣室は暖房が無くて寒いし、トモくんと引っ付いているのって、良いよね。もう、何だか温かいを通り越して、暑くなってきたわ。サンタのドレスだけで、上着羽織ってないのに。


ガラガラ…


「あきらちゃん、トモくん、帰って来たわよー、って何やってるの!?」

「「わぁ!」」

 わぁ!かなちゃん達帰って来ちゃった!

「この学校の中で、見事な迄のいちゃつきぶりですね。」

「ボクらがいない時に、こんな事してたんだ…」

 ど、ど、ど、どうしよう。今のシーン、かなちゃん達全員見ちゃったわけだし、もう言い訳が効かないわ。恥ずかしさのあまり、奇声に近い声で、私叫んじゃった。

「見ちゃいやぁーー!!!」



 あきらちゃんの声、でかかったなぁ。近くでF1マシンが通ったようだよ。エンジン音にしたら、V…10ぐらいかな?

 このあきらちゃんの絶叫、後日いろんなとこで話題になった。気付いたのは5年生の子がほとんどだったけど、姐さんも気付いてた。

どこまで気付いてたか、はっきり分かったのが、当日…。


まずは1年生から…

「おねえちゃん、おおきなこえだしてた?」

 入るなり、あきらちゃんに聞いてくる女の子(あっ、ひかるちゃんだ)にこう質問された。

「わ、私!?」

「このあいだ、おねえちゃんのこえが、ひかるにもきこえたの。おねえちゃん、あまりびっくりさせないでね。」

「分かった。あきらお姉ちゃん、あまり大声出さないようにするから。」

「ともひこおにいちゃん、あきらおねえちゃんをいじめないで。」

 そう見てたんか!?

「いじめてなんかないって。ねぇ?あきらちゃん?」

「うん!あの、トモくん優しいよ。」

「そうなんだ。わかった。ひかる、ふたりをできるかぎり見てるよ。」

 ひかるちゃん、僕らをついに恋人同士と認識してしまったか?参ったなぁ。あきらちゃんがどう認識してるかともかく、僕はかなり仲の良い友達と認識してるんだが。


 2年生であきらちゃんと一緒にラインリレーに出てた女の子からは…

「あっ、きっとこの人。あきらお姉ちゃんの好きな人。」

 僕らが入るなり早速、僕を引っ張って、その子が座る席に座らされた。

「あきらお姉ちゃんに何かした?」

「えっ?お兄さんが?」

「うん。だって、この間、あきらお姉ちゃんの叫び声、聞こえた。何かしたと思うんだけど、何した?」

「あれは…そう、今日の準備してる時だったんだけど…」

「何で準備中に大声出すの?」

「あ…えっと…正直に話してあげたいんだけど…」

 あきらちゃん、どこ?えーーっと…。

 あっ、いた。また別の女の子に胸触られてるし。

「やーめーてー!お姉さんの胸触ったって大きくならないわよー!」

 何か、もみくちゃにされてるな。そんでその女の子が、あきらちゃんを後で助けたんだが、結構キツい追求だったので、教室から出た時は、僕の介抱が無きゃ立てなかったんだ。はぁー…。あの子おっそろしいわ。


 仲野のクラスでも…

「この間の叫び声、もしかして、阪本さんですか?」

「何て言ってたの?私。」

「確か「見ちゃいやぁー!」って言ってたように聞こえました。」

「あっ、あk…私だわ。」

 危ない、危ない、一人称が「あきら」に変わるとこだったな。

「先輩、阪本さんをいじめちゃだめですよ。」

「それ、1~2年生にも言われたぞ。」

「うん(笑)。相当あれこれ言われたのよ。それで、トモくんが疑われててね。」

「私も今だに先輩がいじめてると認識してますから。」

「違います、智美ちゃん。あまりにも仲が良すぎるこの2人の姿を見てますと、冷やさせずにいられなくなりまして、私のクラスの女子全員で、トモくんとあきらちゃんを弄ったのです。」

「あっ!お姉ちゃん!」

 僕らの元に麻耶ちゃんも来た。

「智美ちゃん、私達がついついあきらちゃんを襲いたくなる気持ち、分かっていただけましたか?」

「そうですね。阪本さん、すっごく可愛いので、もっと遊びたくなっちゃうと言いますか、女の子同士なのに凄く興奮しちゃうんですよね。」

 何考えてんだ?この2人は。一応、プレゼントは配ってあげたが、あきらちゃんにとって、かなり厄介な事になりそうだったので、ちょっと大胆だけど…


ギュッ


「あっ、手、握ってくれるんだ。」

「うん。何かあった時は僕ら互いに切り抜けたいから。」

 僕が握った手を、あきらちゃんは(ほど)かなかったのは、多分、僕とあきらちゃんの絆が表れてたんだろうなぁ。僕らのこの姿を見て、男子は悔しがり、女子はまた冷やかしてきたわ。いつもの事だけど。


 やっとの思いで4年生まで配り終わると、今度は体育館で小芝居やら合唱やらをしたりした。しかし1番驚いたのが、先生達が劇をやってたことだった。小山先生がサンタを信じない嫌味ったらしい子供を演じて、何だか体がむずかゆくなった。劇自体は良かったけど。

 劇が終わったあと

「俺、役で言ってるだけだからな。だから余計に心が痛いんですよ。」

と、小山先生なりの自己フォローで何とか和ませることができた。分かってたけどね。


 クリスマス会はこれで終了。午後2時を回る前に終わったので1~4年生はこれでお家に帰れる。去年までは僕らもそうだった。この子らを送ったら、あとは5~6年生の後夜祭が始まる。後夜祭と言っても、2時半から始まるので、打ち上げと言った方が正解なんだろう。

 体育館に長テーブルが並び、その上にジュースや炭酸飲料、お菓子、サラダ、ターキーなどが置いてあった。

 クラスごとにそのテーブルに座ると、校長先生が乾杯の音頭を取って宴が始まった。まぁ、そこまでは良いんだが…。

「あきらちゃんの隣で良かったねー、トモくん。」

「あ、まぁな。」

 かなちゃんの言い分に何も否定しないぞ。

「やーだぁ。かなちゃんったらぁ。」

 結構恥じらってるなぁ、あきらちゃん。

「あっ!忘れ物しちゃった!」

 って、どしたんだ?急に。

「私1人で校舎に入るのって心細いから…」

 えっ、ぼっ、僕を見てる?

「カレシさんのデバンだよ!」

「行ってやりなよ。あきらちゃん守れるの、トモくんしかいないから。」

 良いこと言うけど、かなちゃん、僕はかなり恥ずかしいぞ。

「わ、分かった。僕、あきらちゃんと一緒に行ってくる。」

「よっ!男らしいぞ!」

 ま、まぁええか。男子からの視線がトゲトゲしいけど。


 教室に入った。あきらちゃんの忘れ物って何だろう?



 トモくん、あと、クラスの皆、私が忘れ物したなんて、ウソよ。楽しい宴だけど、皆といると、大好きなトモくんを独り占め出来ないもん。だからこうして、私とトモくんしかいない状況を作ったの。


 そうと気付かずに私について来たトモくん。大胆にも、私の席に着いて机の中の物を探してくれてる。入ってるのは、私の家の鍵。あげる訳じゃないけどね。

 そしてよく見ると、トモくんは左ひざを窓側に、私が立ってる方に向いてる。低い姿勢で物取ってるから、そうなっちゃうのよね。

この姿勢でいるトモくんの太ももに…

「よしっ!取った…わぁっ!えっ!?ちょっと、どしたの!?」

「えへへ、イイでしょ。」

「いいって、この姿勢でいるのが?」

「もちろんよ!」

 今日はいつもと違う体制でトモくんの上に座っちゃった。お互い顔が見えるような姿勢で座ってるわ。

「いつも、トモくんに背中向けてるから、トモくんの顔見れないんだもん。」

「あの…そんなに僕の顔、見たかったの?」

「もちろん。均整のとれた顔つきで、どこか凛々しさと逞しさを兼ね揃えてる、そんなトモくんの顔が見たくって、今日は向かい合ってみちゃった。」

「あぁ…どうも。初めて顔で褒められたなぁ。」

 皆の前にいる時の、自信満々な表情を浮かべてるトモくんもいいけど、私とだけいる時の、純情に恥ずかしがってる時のトモくんの顔も、私は好きよ。

「ね…ねぇ、こうして、脚広げたままじゃ、その…、見えちゃわない?」

「何が?」

「だからさ…、その…下着が。」

トモくんはまだ見てないけど、下を向いたら…!

「も、もぉ!トモくんったら、えっち!」

「僕はまだ見てないよ。」

「わかってるよ。背を向いた方が良かった?」

「いや、そんな事ないよ。ごめん。」

 いいよ。トモくんだから許すわ。とは言わなかったけど、代わりにニコッと笑顔で返したわ。

 私にちょっかい出したら、ちゃんとフォローするんだから、そこにはトモくんなりの優しさがあるわ。

私ったら、かなりあざとい事やってる。自分でやっておいて言う事じゃないけど。さて、次は…


「トモくん、2人っきりだね。」

「あ、うん。」

「トモくん、チャンスよ。今が。」

「んっ?…えっと、何がだっけ?」

「分かってるくせに、私に言わせるの?」

「あぁ、分かってるって。」

 よかった。「さっ、お好きにやっちゃって」と思いながら、右のほっぺた向けちゃった。きっと、トモくん分かってるわよね。私がどこに何をして欲しいか。


チュッ


「ふふっ、当たり。」

ほっぺたにキスしてもらっちゃっ…


チュッ


「えっ?ちょっと?ああっ、首元は、だめぇ…。トモくん、ストップ!」

「ダメなの?」

「ダメ…じゃないけど、くすぐったかった。」

「感じやすいんだ。」

「ばっ、ばかぁ!」

 トモくん、顔が変なにやけ方してるわよ。何だか、下級生が上級生をからかったような、そんな人相をしてるー。そんな風にお姉ちゃんをからかっちゃダメでしょ!トモくん!

「で、でも、トモくんがしたいんだったら…」

「いいの?」

「う…、うん。」


チュッ


「あっ…んっ…はぁ…」

 やだ、どうしよう。トモくんが喜んでる顔を見て、つい、首元にキスするのを承諾しちゃった。くすぐったい…。

「あぁ…やぁ…」

声が出ちゃうよ。こんなとこ、もし他の子に見られてたら、大騒ぎになるわね。

 夕焼けの太陽が、私の首元にトモくんがキスしてる影を映してるわ。その影が、私にも見えてる。


はむっ


 あっ!トモくん、今、甘噛んだ!?やあっ…妙に気持ちいいんだけど、くすぐったいよ…。

「ああっ…はぁ…はぁ…」

「ふぁいほうふはよ。はははがほほらはいほうひふるはら。(大丈夫だよ。歯型が残らないようにするから。)」

甘噛みしながらしゃべらないでー。振動とかが伝わっちゃうからー。

「あっ、もう、だめ…。意識が、飛んじゃう…。」

「あ、あらら?」


ガタッ


 トモくんの体に身を委ねるように倒れ込んじゃった。何も考えられないわ。

「あきらちゃん、顔が胸に挟まれちゃって苦しいよ。空間開けたいから、ちょっと触るよ。」

 トモくんが私の胸触ってるように感じるけど、抵抗出来ない。何だか、エクスタシーを感じちゃうわ。まだクラクラしてる。


(10分後)


「トモくん…良かったわよ。」

「えっ、キスが?」

「キスも…甘噛みも…上手なのね…。」

「練習なんてしてないよ。まぁ、あきらちゃんがそこまで言ってくれるとは思わなかったけど。」

 意識が飛ぶほどしてくれたんだもん。少しだけ首元がしびれてるけど、良かったわよ、トモくん。

「そ、そろそろ、戻る?クラスに心配されそうだし。」

「うん、いいよ。」

 こうして、皆が待ってる体育館に戻った。もっと、トモくんと一緒に居たかったなぁ、あきらは。


 年末になって、麻耶ちゃんと会った。麻耶ちゃんが言うには

「うちのクラスでの噂ですが、トモくんを教室に(おび)き寄せて、一緒にイチャイチャしてたとか、Bをやったと聞きましたが本当ですか?」

「してないわよ!もぉ!トモくんと、探し物してたの!」

「探し物?何を探されたのですか?」

「自宅の鍵。思ったよりも時間かかっちゃった。」

麻耶ちゃんはそれで納得してくれたみたいね。まぁ、鍵を探してたのはほぼ事実だし?ウソはついちゃいないわよ。たぶん。本当だってぇ!

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