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私、足引っ張ってるよね・・・


 またこのイベントが来ちゃったかぁ。私、学校行事はどちらかというと楽しみなんだけど、このイベントだけは大嫌いなのよねぇ。何で開催しちゃうんだろう?体育祭。

 私って、ほとんど見てばっかりだし、出る競技じゃ確実に皆の足引っ張っちゃうのよねぇ。どんなに雨で延期になったって、絶対に開催しちゃうんだから、横八小って、ある意味変な学校よね。しかも今年はよりによって、私の大好きなイベント、文化祭も一緒に2日間で開催されるのよねぇ。 どうしてなの?校長先生。実行委員会。誰でもいいから教えて!これじゃ、マイナス×プラス=マイナスの方程式で、文化祭まで嫌なイベントになっちゃうよ!

 それに、今年から「文化体育祭」(イベントの名称)のルールも変わったのよねぇ。紅組対白組の図式から、クラスごとのスコア制に変わって、「各クラスの絆を確かめる!」とか言ってるけど、文化体育祭だけじゃクラスの団結力計れないわよ。早く時が過ぎちゃえばいいのに。これ終わったら、次はクリスマス会があるんだもん。そっちが寧ろ楽しみよ。


「そう、それから、全学年で共通の新種目が出来た。男女2人3脚だ。このクラスもそうだが、人数の関係上、一部は3人4脚で参加する。新種の花形競技だからな、しっかり走って、着実にポイント取ってくれよ!」

 ななな、何ですと!?聞いてないわよ!そういう競技があるなんて!私みたいに男子苦手な子、男子にも女子苦手な子がいるでしょうけど、どうやって参加するのよ!

「さて、くじ引きと…んっ?どうしたんですか?原さん。」

「先生、阪本さん、男子苦手なのですが、どの様に対処したらいいですか?」

「なるほど、俺としては女子同士でパートナーを組むという解決策があるが、また別のとこで男子同士のコンビを組まねばならない問題も生じる。俺もどうしたらいいか、迷ってるんだ。」

 いいわよ、私、前日に雨打たれて風邪引いて休むから。いちいち議論しなくたって…

「相坂さんどうかしました?」

「ボクの案なんですけど、阪本さんは松本くんと組むと良いと思います。」

「ナナちゃん、それ名案だぜ!」

「すごーい!きっとそれ正解よ!」

 えっ!えっ!?トモくんと私が走るの!?2人3脚を!?いいって!トモくんのあのスピードについて行けないって!私が足引っ張って、俊足のトモくんと最下位走るって屈辱のオチだから!何とか拒否してよ、トモくん!

「松本はどうだ?ここにいるほぼ全員の案に賛成か?或いは、阪本さん以外に誰かと走りたいって人、いるか?」

「そうですね。あk…阪本さん、この競技自体嫌がってると思うんですよ。でも、もちろん全員参加ですよね?」

「そうだ。」

 そうよ、そのまま拒否して!


「僕、阪本さんと走ります。」

「「「オーっ!さすがじゃん!」」」

 だぁれ?拍手に混じって「オーっ!さすがじゃん!」って言った子!もぉー!どうして拒否なんかせずに、私と2人3脚走る事にしたのよ!トモくん、ビリになっちゃうよ!そんなトモくん、見たくないよ!

「それじゃ、くじ引きが終わったら、1時間目から体育だ。早速2人3脚の練習をするぞ!」

 やだー!早速練習だなんてー!



僕一人で勝手に決めちゃったけど、大丈夫だったかなぁ。もしかすると、あきらちゃんは体育祭自体も苦手なイベントだったりするのかなぁ。


1時間目 体育は、僕とあきらちゃん以外、くじ引きで決まったパートナー又はトリオが集まっての2(3)人3(4)脚の練習となった。どんな反応するんだろう?あきらちゃんは。

「バンド持って来たよ。」

「ありかど。」

何だか、乗り気じゃなさそうだなぁ。

「ねぇ、何でナナちゃんの案を拒否しなかったの?拒否したって良かったのよ。私は。」

「何にしたって、この行事は全学年が出るわけだし、それにこの競技(男女2人3脚)に出るんなら、田山とかああいう子とは組みたくないよね。」

「…想像もしたくない。」

「でしょ。それに、僕自身あきらちゃんと一緒にいる時って、何があったって楽しくて仕方がないんだ。」

「えっ?やだぁ、照れるからそんなに言わないでよ。」

「でも、本当だよ。だからさ、例えビリになったって構わないから、一緒にがんばろう!」

「分かった。トモくんがそう言うなら…」

 やや説得する感じになったけど、ようやくあきらちゃんも2人3脚やる気になったね。とにかく僕だけが速く走ったって、息が合わないだろうから、まずはあきらちゃんのペースに合わせよう。


 体育の授業が終わり

「智彦、やっぱりビリだったな。」

「仕方ないよね。でも、最初のうちはこうなるって予測してたから。」

 着替えながら剛史と会話。

「しかし男子は全員、お前の事羨んでたぜ。」

「そうなの?」

「あぁ。だって相手は阪本だぜ。このクラスで1番の美人と2人3脚出来るんだから、男子の連中が「智彦と代わりてぇ!」って言ってたよ。」

「変態ばっかりだなぁ。」

「うっさい!普通だ!智彦が女子に興味示さねぇのも変だと思うけど。」

「僕はこれで普通だけど?」

「脳内がレースの事ばかりのお前の「普通」が分からねぇ。」

 なるほど。そのセリフ、レースマニアじゃない剛史らの気持ちが出てるな。今日はいつものF1の雑誌じゃなく、グループCカーの特集記事が載ってるのを持ち出したから、周りから

「F1マニア、どこ行った?」

みたいな事、よく言われたわ。


「男子ー、私ら着替え終わったわよ!」

 かなちゃんの甲高い声が響く。

「あっ、ちょっと待って!まだ山田が着替えてる!」

「またぁ?山田くん、女子を待たすなんてどう言うつもりよ?」

「俺さ、脇の下から毛が生えたみたいで、ちょっと眺めちゃった。」

「おバカさん。そんなとこに、山田くんの好きなスペースシャトルなんて無いから。」

「人体の科学は宇宙と同じぐらい神秘的だよ。」

「分かったから早く服を着なさい。」

山田は、夏休み前から仕切りに、どこからか毛が生えた事を気にするようになった。それが原因かどうかは分からないが、着替えの時間が人一倍かかるようになった。


やっと着替えが済んだ頃、女子が教室に入ってきた。

「見てみて、ほら脇の下から毛が…」

「見せなくったっていいって!」

「きゃーーーーー!!!!」

あっ、この声は、あきらちゃんだ。そして全力で叫んだってことは、山田がこれから殴られるんだな!そりゃ、見たくないもの見られたら、ビックリするよな。


バコーン!!


うぉー、あきらちゃんから繰り出されたアッパーが、山田の腹部に強烈に当たって、山田が吹き飛んだぞ。心なしか、あきらちゃんのメガネが反射されて、めちゃくちゃかっこいい何かのアニメのヒロインみたいだなぁ。

「あれっ?どうして山田くんが倒れてるの!?」

そして我に戻ると、さっき自分がぶん殴った事を忘れる。こうなるので、どんなに空気が読めない奴だってあきらちゃんを警戒するようになった。

「あきらちゃんが殴ったのよ。かっこ良かったわよ。」

「えーっ!?覚えてない!本当に私が…」

「そう、あきらちゃんが…」


それから数分して

「ごめんね、山田くん。」

「すいませんでした。」

山田だけ土下座して、あきらちゃんも膝を着いて礼をするように謝罪。何とか和解したけど、これはえらい見せしめになっちゃったなぁ。



 体育の授業5回も使って2人3脚の練習したのに、また今回もビリかぁ。もしかして、私のせいかな?私の足がもっと速かったら、トモくん本来のスピードが出るはずなのに、何で私って走るの遅いんだろう?

 トモくんに、私の正直な気持ちぶつけようっ!

「トモくん、放課後になったら、校舎裏に来てくれる?」

「んっ?いいけど、どうしたの?」

「ここじゃ言えない…」

 トモくん、トモくんの好意、ありがたかったけど、今の私には、応えられそうにない…。


 放課後になった。号令がかかった後、誰にも気づかれない様にこっそりと教室を後にした。5年生が下校する時って、1~4年生の子はほとんど下校してるから、ある程度安心して、これまたひっそりと校舎裏に行く事ができた。そもそも、校舎裏に人が立ち入る事って滅多にないんだけどね。

トモくんが来たのは、それから5分ぐらい後だった。


「お待たせ。」

「待ってないわよ。」

「よかった。それで話って、何?」

「あのね、トモくん、2人3脚、私と組んだ事、後悔してない?」

「いや、全然してないけど。」

「そうなんだ…。そう聞いて安心した。けど、気持ちは変わらないわ。トモくん、2人3脚のコンビ、変えよう!」

「えっ?なんで…」

「だって、私、脚遅いし…、私よりもナナちゃんとコンビ組んだら、きっと、ブッチギリでゴールできるでしょ?」

「一理あるけど、あきらちゃんはどうするの?山田和也くん(ナナちゃんの2人3脚のパートナー)と組むの?」

 山田くん、この間私が思い切り腹部を殴打した男の子。彼も私同様、脚が遅い事で知れてるわ。けれども、将来は宇宙飛行士になる夢を全く諦める様子も無い。むしろ日々努力してる。


「うん。私…、トモくん以外の男の人苦手だけど…、我慢する!」

「ほ、本当に大丈夫なの?あきらちゃん。」

 どうしよう。今にも泣きそう。

「うん。あのね、私考えたの。いつも2人3脚で私達がビリになっちゃう理由。私とトモくん、いつも100m走で3秒ぐらい差がついちゃうでしょ。」

「そりゃ、走力の違いだから、練習すればまだ速くなるよ。」

「でも、文化体育祭まであと3週間ちょっとでしょ。見違える程脚が速くなるなんて考えられない!…うっ…、ごめんね…。私…脚遅くて…私…トモくんの足…引っ張ってるよね…うっ…うっ…。」

 もう、堪えられない。思いの丈を全部言おうとする余り、感情的になっちゃった。

 でも、トモくんだったら「そこまで言うんだったら、分かった。先生に伝えておく。」って言うはずよ。それで、私は…


「そんな事、言わないでよ…。あきらちゃん。」

 えっ!?思ってたのと全然違う反応だわ。それでも私と走るって言うの?そこまでしなくても良いのに…

「確かに僕がナナちゃんと組んだらいつでも勝てるかもしれない。でも僕はこう思うんだ。ナナちゃんよりも、あきらちゃんと走った方が、何と言うか、息が合うんだ。」

「うっ…、何でそう思うの?」

「何と言うか、苦手な事でも一所懸命に頑張るあきらちゃんを見て「凄い、僕もまだまだだなぁ」って思った事かな。それで、僕は速く走るより、あきらちゃんと息を合わせて走ろうと頑張るから、自然とあきらちゃんと走ってて楽しく感じるんだ。」

「足引っ張ってない?」

「全く思わないよ。むしろ、僕があきらちゃんの足引っ張ってないか、心配になるぐらいだよ。それに、あきらちゃんは僕に無い事があるんだ。」

「どんなの?…うっ…」

「あきらちゃん、どんなに苦手な事でも投げさないんだ。そこが、僕と違う所だね。僕は、まず興味が無い事には目も向けない。苦手科目の国語もそうなんだけど、出来ない事はほとんど放ったらかしにして終わる。だから成績はいつも国語だけ良くないんだ。でも、あきらちゃんは違うよ。」

「もしかして、私が教室で一人、算数の問題に取り掛かってたの見たの?…ぐすん…」

「見た。あきらちゃんは体育と算数が苦手。でも、逃げずに立ち向かってる。そこが僕よりすごい所だよ。」

 そっか。私に、そんなにすごい長所があったなんて、気付かなかった。

「あきらちゃん、もしも、あきらちゃんが望むなら、練習付き合ってあげるよ。火曜、木曜、土曜午後はスイミングスクールがあって出来ないけど、それ以外の日時なら大丈夫よ。」

「私のために?」

「あきらちゃんの為に。」

 トモくん、すごく優しい。レースの事に時間を費やしたい所を、私との練習に付き合うために時間を割いてくれるなんて…。よかった。トモくんが、私のたった一人の男の子の友達で、2人3脚のパートナーで

「良かったーー!!。・゜・(ノД`)・゜・。」

もう、我を忘れて、トモくんに抱きついちゃったかも。でも何となく、トモくんを抱いてる感触がある。

「わっ!ちょっと!」

「ありがとう!トモくん!大好き!!」

 あれっ?私、今「大好き」って言った?あぁ、でもその、恋人としてでなくてね、でもやっぱり、トモくんを一人の人間として、好きと言うか、何て言ったらいいんだろう?



 「大好き」か。女の子に言われると、嬉しいのと恥ずかしいのが混み合っちゃうね。少なくとも、恋愛感情でそう言ったんじゃないだろうな。多分、尊敬で言ってくれたのかな。そっちであったって、やっぱり照れるね。

 僕にとっては、戦意喪失してるあきらちゃんを懸命に励ました。言い切れるならその一言に尽きるけど、約束まで取り付けたからな。言い出した手前、破るわけにはいかないね。


 その日から、僕とあきらちゃんは2人3脚の練習に取り組んだ。同時にあきらちゃんの100m走も見てあげた。前々から「膝が伸びた様な状態で走ってる」「競歩みたいな走り方」と言われてるフォームをまずは直した。

「膝伸びてるって言われたけど、そんな事ないよね?」

「いや、ほとんど曲がってなかった。鏡かビデオカメラで確認してもらいたいぐらい。」

 そういう風に会話が繰り返したって仕方ないので、その場で腿上げをして「こうやって走ると、もっと速くなるよ」と伝えた。本当にそれだけとことなんだけどね。

「短距離走って、足だけ疲れるかと思ったら、お腹や腕も使うのね。知らなかった。」

「でしょ?この間のオリンピックの陸上短距離走の選手だって、体つきがすごいでしょ?」

「てことは、トレーニングしたら、私もあんな体に…」

「ならないって。3週間ちょっとじゃ。でも、体脂肪が減って、いい感じに筋肉がついて、普段の動きにキレが出るね。」

 この言葉にあきらちゃんは反応したみたい。特に「体脂肪が減る」とのフレーズに、一瞬だけ目を輝かせてたのが見えた。女の子らしいなぁ。


 2人3脚は、速く走るより、息を合わせる事に集中して走った。それでも心なしか、走れば走る程、タイムが上がってるように感じる。

 試しにストップウォッチを右手に持って走った。(僕が右側、あきらちゃんは左側に立っている。)すると、1秒半も縮んでいたことがわかった。初めて2人3脚を走った時と比べても、かなり速かった。あきらちゃんは、努力の天才なのかも。


 こうして練習が終わると

「トモくん、脚疲れちゃった~」

と言って、ベンチの上に寝転び脚を伸ばす。つまり「脚揉んで」のサインだ。一言付け加えておくと、僕らは体操服を着てるのだが、あきらちゃんはブルマの上にハーフパンツも履いてる。理由は以前聞いたから、また聞くまでも無い。

 でも、こうして親密な仲になった今でも、あきらちゃんに触れるのはドキドキするんだ。だって…

「んあっ…くすぐったい…」

 変な声が出るんだ。あきらちゃんから。

 このシーン、誰かに見られてないだろうね?見られたら僕とあきらちゃんは、変態の多い横八小5年2組の男子のいいネタにされるんだろうなぁ。


「ああっ…そこがいいの…」

 だから、その声やめんか。あぁ、こう言う事か。ムラムラするって感覚。男子がよく、アイドルのグラビア本を見て「ムラムラする!」って聞くけど、「ムラムラ」ってセクシーな何かを見た時に起こるんだ。

「トモくーん、手が止まってるよ。」

「あっ、わりーわりー。」

 ズルいなぁ、喘ぎ声出してるの気付いてないんだもん、あきらちゃん。僕には聞こえるから、手が止まっちゃうよ。

 それにしても、何か気持ち良さそうにしてるね、あきらちゃん。そんなに僕のマッサージっていいのかな?

「ここもやって。」

 えっ?尻!?太ももの付け根のとこ指したけど、ほとんど尻触るようなもんじゃん!でも、マッサージしてって言われた以上、やらなきゃ。

「あっ…いいわ…そこ気持ちいい…」

 僕は興奮が止まらんのだが。本当柔らかい。あきらちゃんの太ももの付け根。姐さんのなら普通に触れるとこなのに、なんであきらちゃんになると「触れては行けない所に触れてる」ような感覚になるんだろう?もう、そこに触ったって何事も無いようになったんだな。僕はまだ慣れてないけど。



 トモくんのマッサージ、最高だったわ。何なら、全身くまなくして欲しいぐらいだったわ。あっでも、胸はちょっとね…まだだからね、触るのも。

 たまにトモくんの手が止まってたけど、何でかしら?うーん、あっ!もしかして、私が気づかない時に、喘ぎ声出してたかな!?どんだけ気をつけても、出ちゃうのよねぇ。そこは、頑張らなくてもいいか。あはは…


 こうしてトレーニングを繰り返すこと、2週間。次に、実践トレーニングが始まった。今まで公園でこっそりやってたのを、今度は麻耶ちゃん家が所有する競技場でやることになった。

「やっぱり、麻耶ちゃん家って、すげーなぁ。」

「そうね、もう、何もかも驚いちゃうね。」

その名も

「エトーズトラック&フィールド」

しかもこの競技場、陸上競技の県大会でもちゃんと使用されてるなんて、江藤家、やる事が桁違い過ぎるわ。しかも、江藤家の敷地内にしっかりとあるんだもの、その競技場。

 そうやって呆気に取られてると…

「あっ、トモくん、あきらちゃん、御機嫌よう。」

「こんちは。」

「こんにちは!」

 私達が着いた頃、麻耶ちゃんとの高崎(健太)くん、ナナちゃんと和也くんが集まっていた。高崎くんの立ち位置がおかしいよ!麻耶ちゃんの左斜め後ろって、何だか、私がよくイメージする痴漢の常習犯にそっくりよ!既に顔がにやけてるし。


 今日はこの3グループで各自50mを走った。ただ、何かが違ってたわ。

 最初に走った麻耶ちゃんも高崎くんもそんなに脚は遅くないのに、2人3脚になると、イマイチ息が合ってないというか、スタートのタイミングから何かおかしかったわね。

 次のナナちゃんと和也くんの走りにしても、何かいつものナナちゃんの走りにキレがないような、いや、和也くんが足引っ張ってるようにも見えるわね。やっぱり、練習不足なのかな?学校の体育の授業だけじゃ、補いきれないのかな?いつものナナちゃんらしくなかったわ。


 最後はトモくんと私。いつも通り走れば大丈夫!トモくんと、一つになって…


「えっ!?トモくんとあきらちゃん、速い!!ボクら、負けたかも…」

「あきらちゃん、正直に申し上げて下さい。ドーピングされました?」

「使ってないわよ!その薬って、どうやって入手するの?」

 あまりにも私らが速過ぎた為に、思わずチェックが入ってしまった。

「トモくん、まさかボクらが知らない方法で、ドーピング的な薬を入手したんじゃないの?」

「僕だって、そういう薬がどうやって売られてるか知らんよ。」

 こんなに警戒されるなんて思っても見なかったわ。麻耶ちゃんもナナちゃんも「何であきらちゃん速くなったの?」と、速さの理由が知りたくてたまらないみたいね。


「あらっ?あきらちゃん、以前より、お身体しぼられたような印象を受けますわ。」

「そ、そうかな?」

「ちょっと失礼しますね。」

 そう言うと、おもむろに私の腹部を触り始めた!

「んあっ…ちょっと!ここ屋外よ!」

「あっ!腹筋が前に比べて硬いです!ナナちゃん、触ってみますか?」

「イエース!ボクも触る!」

 ちょ、ちょっと!2人して、ああっ…だめぇ…くすぐったいよ…

 よく考えたら男子に見られてる?あっ、健太くんだけ見てるみたいだけど、トモくんと和也くんが健太くんを妨害してる。それよりも助けて!トモくん!



「健太!俺も気持ちはわからなくもないけどよ、阪本は男子に見られるのもダメなんだよ。」

「何でだよ。女同士だっていいエロティシズム出てんじゃん。それに、あきらちゃん良い声してるよ。」

 高崎健太は、女子どころか男子も引くぐらい、エロには強いこだわりを持つ。こいつに、女子の戯れを見せちったら「ビデオカメラ持って来ればよかった!」とか言い出すんで、和也と僕とで必死に健太の視線を妨害しなければならない。


「皆さん、終わりましたよ!」

「ボクら、もうあきらちゃんに触れてないよ!」

 やっと終わったか。あきらちゃんの体触り始めたら、しばらく続くかと思ったんだが、2分ぐらいで済んだな。

「すごい体でしたね。よく鍛えられたといいますか。」

「うん!あきらちゃんの体つき、以前よりも引き締まってたね!」

 そう話す麻耶ちゃんとナナちゃんの後ろ、へたり込むあきらちゃんがいた。

「あっ、ちっきしょー!折角のレズプレイ見逃しちまったじゃねぇか!」

 知った事か!僕は急いであきらちゃんの元に駆け寄った。


「あきらちゃん、大丈夫かい?」

「と、トモくん。よかった…」

 安堵の表情を浮かべるあきらちゃん。ずっと「はぁ…はぁ…」と息を切らしている。何だか、姐さんと見た映画のベッドシーンを連想させられそうだ。何かエロいよ。

「あのね、大丈夫よ。触られたのは腹部だけだったから。まだ純潔のままよ。」

 つまり「ロストパージン」はしてないと訴えかけたかったんだな。意味分かって使ってるのかな?


 女子達の詮索、あきらちゃんの呼吸が整ったとこで、今度は3コンビ一緒に走る事になった。

「おかしいですわね。あきらちゃん、決して俊足とは言えないにもかかわらず、トモくんと走りますと、いつも以上に速く感じますの。」

「ボクよりもあきらちゃんが速いなんて見間違いと思いたい!」

と言う女子サイドの要望からだった。和也くんはあまり乗り気じゃなかったみたいだが、健太はなぜかやる気満々だった。と言うのも、さっき走った時に分かったんだが、健太、麻耶ちゃんの脇の下に手を置いて走ってたぞ。休憩中にも

「俺ね、ちょっとだけなんだけど、麻耶のちょっと膨らんでる箇所触ったんだ。絶対に麻耶には内緒だぞ。バレてねぇみたいだから。」

と報告してきた。女の勘を甘く見ちゃ困るぞ。以外と鋭いし、バレてないと思っても、本当はもう気付いてたりするし。


「位置に着いて」

 スタートの合図は僕の右側にいるコンビのナナちゃんが出した。その時ちらっと左側にいる健太を見たら、やっぱりまた麻耶ちゃんの脇の下に手を置いてる!僕もあきらちゃんの肩に手を置いてスタートの合図待ってるんだがね。

「よーい、ドン!」

 あっ!スタート!スターターが適当な合図でスタートするもんだから、そりゃナナちゃん達にアドバンテージあるよなぁ。と思ったら

「えっ!ナナちゃん達を追い抜いた!」

 ゴールまであと10mぐらいして逆転した!何と僕とあきらちゃんのコンビが1着でゴールした!

「うそぉ!私、練習でも何でも、1着って初めて!」

 あきらちゃんビックリ。一生かかっても勝てないと思ったナナちゃんに勝てるなんて、天変地異が起きたぐらいの出来事に思えただろう。

「ボクがあきらちゃんに負けた…」

 呆然とするナナちゃん。こっちもこっちで信じられなかっただろうね。


 約2時間の3コンビだけの練習が終わった。健太が黒瀬さんに後で呼び出され、麻耶ちゃんにセクハラした(胸触ったから)とかしてないとかの押し問答をしたり、その健太が

「おっぱい触って何が悪い!」

と、変な反論する一幕もあったけど、楽しくできたんだし、それで良しとしよう。

 何てったって、あきらちゃん、練習終わった後に良い笑顔を僕に向けたし、何か幸せだね。



 さぁ!待ちに待った文化体育祭の日になったわ!この日の為にいっぱい練習したんだもの!トモくんと一緒に。

 文化体育祭は、体育祭の競技に加え、文化祭の演目やダンス、劇などが合わさったイベントで、世界初の試みとあって、去年の体育祭の時よりも人が多いわね。私達の親、保護者、教育機関も中学高校、県をまたいで来てもらったり、神奈川県の新聞やテレビ局といった報道陣もいたわ。何だか、いつものような学校行事と違うわね。


 トモくんと出る男女2人3脚は、午後の部の大トリを飾る種目よ。明日クラスがに勢いを付ける為にはどうしても落とせない種目ね。

「あきらちゃん、今年はいつもより見てる人、多いわね。」

「そりゃそうよ、だって、文化祭と体育祭が一つになって開催する学校行事なんて、世界初だもん。」

 私の前にいる絵美裡ちゃんが話しかけてきた。珍しく緊張してる様子だったわね。

 開会式が終わると、最初の競技が始まった。

 午前は1~2年生が出る種目が多いけど、その中にも演舞やダンスもある。ちっちゃい子も可愛らしい動きで、見てて可愛らしかったわ。でもねその中に、私の胸触った男の子もいたけどね…。うん、そんな過去もあったなーなんて思ってるだけよ…。


 私たちが最初に出るのが、

「【プログラム7番】足して「7」になる2つの学年同士でラインリレー」

1本のバーを上と下の学年の子が交互に持って、パイロンを左回りに一周して、向こうにいるグループに渡す競技。

 私達は5年生なので、相手は2年生の子達が揃った。男子と女子が別々になって整列したから安心してるんだけど、私の右横にいる女の子が私をじーっと見てるのよね。

「あきらお姉ちゃん、びじん。私、5ねん生になったら、あきらお姉ちゃんみたいになる。」

 えっ、私を目標にしてるの?そんなに美人と呼ばれる程可愛いかな?


 スタートしてから4分。バーが私ら4人の手元に渡った。向こう側は男子でかたまってる場所。そこめがけて進むなんて私には苦行でしかなかったけど、私に憧れてると言う小さい子がいるもの。頑張らなきゃ、2年生のクラスの分も一辺に。すると…

「あきらちゃん、よく頑張ってるね!」

 あっ、トモくんだ!所定の位置にバーを置いて、トモくん達4人が走り出した!はっ、速い!私が持ってた手の位置にトモくんが重なって、と言ってる間にもうパイロンを1周して、あっという間に向こうの走者に渡っちゃった。

 いや、それ以前にうちら2組、独走状態ね!こんなにスポーツ大得意なクラスで、2年生もよく着いて行ってるね。

「あきらお姉ちゃん、すきな人いるの?」

「やっ!え?好きな人!?お姉さんには…、いるよ。」

「やはり。ママがいってた。すきな人がいると、女の子はきれいになるって。」

 な、何聞き出すんだろう、この子ったら。


レース終了!結果は

「1位、2組

2位、3組

3位、1組

 どのクラスもよく頑張りました。盛大な拍手てお迎え下さい。」

 よかったー、私足引っ張らずにお役果たせたわ。去年のリレーしてもそうだけど、私がポカしちゃって、勝てるレースを落とした事も何度かあったんだもの。


次に

「【プログラム14番】5、6年生の100m走」

 私は第14組に登場。何とその14組には、トモくんが「姐さん」と呼ぶ明来子さんが登場してた!明来子さんとの初顔合わせ。何て言われるんだろう?

「初めまして、あきらちゃんだっけ?」

「はい、阪本あk…」

「弟からあきらちゃんの名前、何度も聞いたわよ。まぁ、本当に可愛いわね。弟が選んだだけの事はあるわね。」

「可愛い、ですかね?」

「うん!私がもし男だったら、年なんか関係なく告ってるわ。いや、性別が今のままでも「大好き!」って言ってるわ。」

 何と言うか、アクが強い人ね、明来子さんは。

「あら、あきらちゃん、後ろ見て。一番後ろで弟と、女の子が話してるわ。寝取られちゃうかもよー。」

 あっ、ナナちゃんか。なぜか全然心配に及ばなかったわ。

「うちのクラスのナナちゃんですね。恋の、と言うより、この徒競走のライバル同士ですから、大丈夫ですよ。」

「あら残念。あきらちゃん.、妬くと思ったのに。」

 よく読めないわねぇ、明来子さんって。それに、トモくんとナナちゃん、何話してるかな?



「引き分けに終わった去年の借り、今年はきっちり返すからね!」

「はいはい、好きにやってちょうだい。去年はリレーで勝たせてもらったからね。」

「じゃあ、リレーの分の借りも返すからね!」

「今年は味方だぞ。来年も同じクラスだし、味方に喧嘩売ってどうする?」

 ナナちゃんが横八小に入ってから、スタート前の言い合いはお決まりの事になった。僕は去年と違って、打ち負かしてやろうと牙を剥くナナちゃんに、冷や水かけるように「あんたは相手じゃないから」とあしらった。


「見て、次あきらちゃん走るよ。」

「えっ?姐さんと同じ組!?」

 あらまー、あきらちゃんはきっと姐さんにいびられてたんじゃないかな?あきらちゃん、許してやってくれ。あれが、姐さんの年下に対するコミュニケーションの取り方なんだ。きっと辛かろう。面白くなかろう。鬱憤溜まっただろう。


「位置に着いて、ヨーイ」

BANG!


「おぉ、明来子さん速いねー。って、え"え"え"ー!あきらちゃんも速い!2人並んでトップ競ってる!何で!?あきらちゃん、去年はビリだったじゃん!」

あきらちゃん、成長したと言うより、進化したな。スピードに乗ってるし、僕が教えた通りの走りだ。

今、フィニッシュ!姐さんには負けたけど、いい走りだったよ。2位の旗が1位に見えてしまうぐらいに。


それから7分後。最終組の僕とナナちゃんが走る出番になった。

声の掛け合いは今年はやらず、各自ひっそりとスタート位置に着いた。僕は5レーン、ナナちゃんは4レーンにいる。


「位置に着いて、ヨーイ」

BANG!


あっ、ちょっとスタートの反応遅かったかも!右隣の6年生の子の背中がちょっと遠いな。でも、すぐ追いついた。けど、インからナナちゃんが…

きたー!そして、追い抜いたー!

直線入ったけど、差が詰まる事無いみたいだ。走れども走れども、ナナちゃんの背中しか見えない。

そして先にゴールテープを切られてしまったー。

「やった~!ボクの勝ちだ!」

参ったねー。手は抜いちゃいないのに、全力で走ってこの結果かぁ。まぁ、悪くないか。結構マジになれたし、去年同様にいい勝負だったから、何か楽しかったね。一瞬だけあきらちゃんの顔が見えた。何だか、僕負けたのに、賞賛を送ってるような笑みを浮かべてたな。隣の姐さん的な人も手を振ってるが、放っておこう。


 昼食休憩を挟んで、午後の部最初の最初が

「【プログラム 20番】5年生による喜劇「旅館大騒動」5年生の皆が、この日の為に、面白い劇を練習しました。大いに楽しんで、大いに笑ってください。」

 僕は、85歳ぐらいになる旅館のオーナー、松元宗佐武郎役で登場。

「ごめんくださーい。わたくし、松元と申しますが、松元さんのお家で宜しいでしょうか?はい、ここが松元家で御座います、どうぞお入り下さい。上がるぜ!」


ズコッ


「あんた本当に85歳か?」

「んっ?」

「八十五歳か?」

「Yes, I'm eighty-five years old.」


ズコッ


 何かいつでもボケてるじっちゃんを演じ、とにかくセリフにあった事プラスαのボケをかまし続けた。なので、ちょっと感動するクライマックスでも、僕が入って、良い雰囲気ぶち壊して終わるという、あまり人から好かれないおじいさんを最後まで演じた。


 そして、僕とあきらちゃんが特訓を積み重ねた、あの競技が始まる。

「【1日目 最終プログラム 男女2人3脚】1~6年生の男女が、息を合わせて50m先のゴールに向かいます。」

 この競技、1年生から順番に出るので、上級生は結構待たされる。と言ったって、競技自体を見るのも好きなので、そんなに退屈しなかった。1~4年生の走りだって、中々のものだし、3年生の仲野も1位でゴールしたので、僕ら5~6年生も十分楽しめた。


 さてと、いよいよ5年生の出番が来たぞ。僕とあきらちゃんは9組目に出る。僕らと走る子達を見ても、去年の体育祭でもいい走りを見せてた子が多い。あと、同じ組には、健太と麻耶ちゃんもいた。

「トモくん、緊張してぎだ…」

「あっ、本当だ。一回落ち着こう。深呼吸して。」

「すーはー。うーん、中々落ち着かないなぁ。あのね、後ろにも同じクラスの子が見てて、恥ずかしいんだけど、手を握っててくれるかな?」

 後ろにも人?そんなに多くないけど、よく見りゃよく知ってる顔が並んでる。絵美裡ちゃんと剛史、ナナちゃんと和也くん、などなど他のクラスの子もまだいた。

「わ、わかった。緊張しっぱなしじゃ、硬直しちゃうもんね。」

 まぁ、また後で「コイツら、皆の前でいちゃつきやがって」的な事でも言われるんだろうけど、いいか。


ギュッ


 あきらちゃんの手を握った。何だか、震えてるのがよくわかる。

「あっ、ありがと…。落ち着いて来た、えへへ…」

 段々とあきらちゃんの手の震えが収まってきた。それに何だか、最近はあきらちゃんの笑顔を見て、僕が幸せな気分になるんだ。

 よし、ベストを尽くして、出来るだけいい順位でゴールしよう!



 ホッとした。何だか、トモくんから力貰った様な気がする。段々と私とトモくんの出番が近づいてきた。でも、今の私は大丈夫。「私、トモくんの足引っ張っちゃうかも」と心配する余地もなく「トモくんと一緒に頑張ろう!」と思う気持ちでいっぱいだった。


 さぁ、私とトモくんの出番になったわ!トモくん、私と息合わせて走ろうね!


「位置に着いて、ヨーイ」

BANG!


 スタートした!息が合ってる、練習通りにうまく走れてるわ!私とトモくんが、まるで一つになったように…

 あれっ?周りに誰もいない!でも、まだゴールしてないんだもん。気が抜けないわ!どうか、転ばずにゴールさせて!


 ゴールテープ、切っちゃった!1着だ!勝っちゃった!どうしよう、どうしよう!こんな事、絶対に起こり得ないと思ってたのに。だって、体育の授業だって1回も1位になる事なかったのよ。

「やったね!あきらちゃん。僕ら1位だよ!」

「あー、本当ね!2人っきりだったら、もう抱きついてるわ。」

「そ、そうなんだ。そこまでしてくれるなんて…」

 ふふっ、トモくんったら、また照れてる。

 それにしても、まさか今日、[1]って書いてある旗の前に座るなんて、思ってもみなかった。その場所にトモくんと並んで体育座りしてる。何か言わなきゃ。

「トモくん、ありがとね。脚が遅かった私なのに、パートナーに選んでくれて。」

「あ、ああ。あきらちゃんも頑張ったよ。あんなに大変なトレーニングだったのに、よく着いて来れたよね。」

「何でかな、やっぱり、トモくんがいてくれたからかな。1人でやってたら、確実に途中で投げ出してたかも。でも、トモくんがいてくれたから、何だか楽しく練習が出来て、辛さを忘れさせてくれたわ。トモくん…」

「なぁ、2人で話し合ってるところ割り込んで悪いけどよ、智彦ん家のお爺さん、君ら2人が話してるのを満面の笑みで見てるぞ。」

 剛史に話しかけられた。せっかくいいとこだったのに。

 それで、トモくんのおじいちゃんってどこかな?

「あーっ。参ったなぁ。多分おじいちゃんのあの顔は「おじいちゃんが死ぬ前に、横にいる子と結婚して、子供を産んで、ひ孫の顔が見れるぞい。智彦、でかしたな。」と言いたげな、そんな表情に見て取れたな。」

「ど、どこにいるの?」

「あのー、わっ、あぶねーとこにいるわ。ジャングルジムの棒が重なって、大と小の四角い立方体が重なったような所の、頂上にいる。そこは今日登っちゃいけないとこなのに。それに、もう63歳になったのになぁ。」

 振り向くと、私の視界にもジャングルジムが見えた。そして、その上にトモくんのおじいちゃんが見えた。言われてみれば63歳に見えるけど、何だか若い人みたいな事やってるわね。


 競技が終わり、1日目の日程は終了。各クラスのスコアが表示されたけど、5年2組が断トツで他のクラスを引き離していたわ!こんなにうちのクラスの子達って、スポーツ万能だったかしら?


 1日目の総括が終わると、一目散にトモくんがおじいちゃんのいる場所に走って行った。代わって話してきたのは…

「やるじゃん!あきらちゃん!トモくんと2人3脚で1着取るなんて!」

「えへへ…頑張ったんだ。」

「頑張ったって、何を?」

「あのね、今終わったから言うんだけど、トモくんと2人3脚の特訓したんだ。」

「2人3脚?もしかしてそれは隠語で、本当は2人で暮らし始めたんじゃ…」

「違うわーーーーい!!!!」



「おじいちゃん、危ないから降りて!」

「おじいちゃんはここから落ちたぐらいで死にはせんよ。」

「そうじゃなくて、学校の人が来て、おじいちゃん怒られるよ。」

「あっ、怒られたくねーなぁ。よし、降りよう。」

 あーやっと降りた。ってちょっと!まだ地上高3mぐらいあるよ!危ない!危ない!骨折しちゃう!


くるん!バタン!


 前転1回転しながら飛び降りた!自分んちのおじいちゃんだが、何だか、すげーわ。

「親父、また無茶するよなぁ。」

 お父さんが近寄ってきた。

「裕一郎、俺もまだ現役だ。まだサーフィンは引退せんぞ。」

 おじいちゃん、週末になるとよく葉山や三浦でサーフィンする。若者に混じり大会に参加すると、だいたい優勝して帰ってくる。本当に63歳のおじいちゃんなのか?と僕も言いたくなるなぁ。


「トモくん、連れて来たわよ、お嫁さん。」

「お嫁さんて、姐さん、あきらちゃんも僕もまだ結婚する年じゃないって!あっ、姐さんもそっか。」

「お嫁さん」のフレーズにあきらちゃんが照れた。

「あのー、まだ10才なので「お嫁さん」にはまだ程遠いのですが…」

「そーだよー、姐さん。」

 僕とあきらちゃんから交互に否定的な事を言うので、珍しく姐さんはタジタジになってきた。その後、おじいちゃんが一言。

「おぉあなたが、智彦が言ってた、阪本あきらさんですか。」

 今の会話と関係なく、おじいちゃんのペースで僕らの会話に入った。

「は、初めまして。」

「宗三郎です。」

 午後の喜劇、「宗佐武郎」という名はおじいちゃんから取った。

 何でだろ?おじいちゃん、初対面のあきらちゃんに、ですます調使って、丁寧に話してるな。たぶん、大人としてはこれが当たり前の事なのかな?


「なるほど、智彦の友達ですか。もしよろしければ、私達家族に何の気兼ねなく我が家にお入り下さい。きっと、智彦も喜びますよ。」

「そういうことだって、トモくん。将来のお嫁さんが家に来るんだって。うれしいっしょ?」

 だーかーらーよー。お嫁さんと呼ぶにゃあ早いって!今「将来の」と言ったのが聞こえたから、突っ込まなかったけどな。

「ん?ああ。否定しないけど、姐さん知ってるでしょ?僕の部屋はあまりにもマニアック過ぎて、姐さんすら引いちゃうんだもん。」

「あの部屋は、女の子は入りたくないわよ。至る所F1カーのプラモばっかり飾って。」

だろうね。

「それに、トモくんの部屋に入れるとは一回も言ってないわ。」

 …あっ!言ってなかった!あきらちゃん、何だか苦笑いしてるなぁ。僕が言うのも変だけど、こんなに灰汁の強い家族、取っ付きにくいもんね。


 翌日、文化体育祭2日目(最終日)を迎えた。

 リレー、棒倒し、大玉相撲などもあったけど、今日はどちらかと言うと、演舞や演劇、ダンスが多かった。

 1年生のダンス、仲野がいる3年生のミュージカル、6年生の劇(ワイルドな怪盗のストーリー、姐さんは主人公の1人として登場してた…)を見届けることが出来た。

 今日も下級生の手伝いをしたり、クラス対抗競技では、中心選手の1人として大活躍した。リレーでは、全員参加であきらちゃんの次に走ったり、代表戦ではナナちゃんからバトンを貰って走る事2回。しかも両方ともアンカーだったが、勝つことが出来た。

 僕以外にも、男女問わずにここ一番で活躍した子は多い。だって、クラスメイトの大半は、何らかのスポーツクラブに入ってるんだもの。リトルリーグ、少年サッカー、新体操、などなど沢山。入ってなくても活躍してた子もいたけどな。例えば…あきらちゃんとか。

 まぁ、本当に5年2組は団結力が強いね。普段なら互いの個性がぶつかり合う様な、でも面白いクラスなんだがね。


 全演目、競技が終了。そして、結果を見てびっくり!ほとんどの学年が僅差での決着だったのに対し、僕らの学年は2組が圧倒的大差をつけて優勝!

 紅白対抗の頃だって見たことないスコア「1005」だったもんだから、何か横から異様な程のシャッター音が響いたね。驚いたのは僕ら学童だけじゃなかった。いやー、これは愉快だったな。


 式が終わり、皆で後片付けも済ませた後、体操着姿のまま下校しようとすると…

「久々に一緒に帰ろう!あきらちゃんも呼んだから。」

 かなちゃんにそう言われた。

「あぁ、わかった。いいよ。」

 もう後は帰るだけだしなぁ。そこで何かハプニングがあるとは考えにくいのだが。


 帰りの途につくとかなちゃんが思い返したように、1日目の僕とあきらちゃんの2人3脚での大活躍を聞いてきた。

「トモくん、昨日あきらちゃんから聞いたんだけど、秘密の特訓したって本当?」

「うん。本当だよ。」

「去年のあきらちゃんから考えれば大躍進よ!どうやって教えたの?」

「そうだねぇ。徒競走の時のあのフォームを変えた、とだけ言っておこうかな。」

「なんでよ、他に無いの?」

「いやー、もう後はいっぱい走って、改善点があればアドバイスを送る、という感じだったからなぁ。」

 かなちゃん、来年に向けて色々探ってるな。来年また新しい種目が出たりするだろうに。

「まだあるでしょ?トモくんとあきらちゃんの2人3脚。他の子達に1秒ぐらい大差つけて勝ったんだもん。」

 えっ?そんなに僕ら速かったんだ。何か周りに人がいないなぁと思ったら。

「あと言えるのは…」

やっぱり、あきらちゃんと息がピッタリだったから…

「コンビネーションの差かな?」

「コンビネーションの差かな?」

 んえっ?異口同音であきらちゃんの揃って言っちゃった。裏で、口合わせとかしてないよ。凄いな、僕ら。



 あら、トモくんと同じこと言っちゃった。しかも、トモくん同じタイミングで。

「コンビネーションかぁ。それなら合点がいくわ。今回組んだ子とは最後迄上手く行かなかったし。」

 あぁ、今沢(孝太)くんかぁ。あの子は、自分かしたい事を邪魔されると、とにかく敵対心を剥き出しにするのよね。気の毒だわ。あの子じゃ誰と組んだってコンビネーション最悪になっちゃうわね。かなちゃんのパートナーか。あっ!


「来年さ、剛史くんと組んでみなよ!」

「ななな…何であいつなのよ!」

「幼馴染だし、よくケンカするけど結局仲良いじゃない。」

「ま、まぁ、彼奴とは、来年の2人3脚でコンビ組んでやれない事もないけど。」

「まんざらでもなさそうだね。」

とトモくん。

「べ、別に好きで言ったわけじゃないし!まぁ、彼奴もそんなに運動神経良くないし。彼よりも脚の速い私がリードしなきゃと思ってるわよ。もし組んだならねっ。」

 まぁ、何だか、剛史くんにその気がありそうね。表面上は素っ気無い感じだけど、心の中は少しばかり気にしてる様に見えるわね。剛史くんとかなちゃんこそ、将来結婚するんじゃないかな?


「ボクから質問して良い?もしも、指名制で2人3脚のパートナーを選べるんだったら、誰と組みたい?」

「そりゃもちろん、トモくんね!」

 えっ?トモくん?

「ダメよー、トモくんには私がいるんだから。」

「おや?あきらちゃん、それは2人3脚のパートナーだけでなく、カレシカノジョや、その先の夫婦としての関係性をにらんで?」

「に、2人3脚のパートナーとしてだよー!」

「だって。残念だったね、トモくん。」

「でっ、でもね、私、たまにトモくんとそういう関係になったらいいなって思う時が…」

「おっ!続き聞かせて!」

「んー何でもナーイ!」

 どうしよう!トモくんがいる前でそんな事口走っちゃうなんて!

「いいじゃない、トモくんとあきらちゃんの夫婦関係も。ねぇ?トモくん。」

「あんたらみたいな幼馴染夫婦みたいに口論できないけどね。」

「だから、夫婦なんかじゃ、じゃないって!」

 えへへ…、かなちゃんの事ならいくらでも言えるけど、私の事となると恥ずかしいわね。トモくんに気付かれちゃったかな?

 でも、それでも良いんだ。もし気付いてくれたら、告白して欲しいなぁ。お願い、トモくん!

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