聖女代理の追放 〜本物の聖女が帰ってきたので国から追放されました〜
「シエラ、お前をこの国から追放する」
双子として生まれ、姉は生後六か月で誘拐された。誘拐された理由は、神聖力を生まれながらにして持っていたため。次期聖女が誕生したと国中でお祭り騒ぎだったと聞いている。だが満月の夜、一瞬目を離したところで姉は消えてしまった。幸いなのか不幸なのか私は違う部屋で寝ていたため、誘拐されずに健康に育つことが出来た。が、問題は姉が誘拐されたことにより次期聖女がいなくなってしまったこと。誘拐された後、国中で探されたが見つからず失意にくれていた。ただ失意にくれていても、次期聖女をどうするかは考えなければいけなかった。現聖女が高齢で、一刻も早く新しい聖女を見つける必要があったからだ。そして、人々は答えを出した。
――次期聖女の妹を、次期聖女が見つかるまでは聖女代理として立てようと。
かなり、厳しい話だと今聞いても思う。なぜなら、次期聖女の妹には神聖力なんて一ミリもないから。なのに、どうやって代理をするのかという話だったが、国に厄災が降りかかった時には神聖力を使用して国から厄災を退けるのだが、ここ数百年は厄災が降りかかったことなどない。そのため、聖女と言っても神殿で父なる神――ウラーノスに祈りを捧げることと民衆へたまに姿を見せるだけ。それぐらいなら代理でも出来るだろうということで、姉が誘拐されてから十六年私は聖女代理として育てられ過ごしてきた。と言っても、民衆の前は現聖女が姿を現していたため、私は神殿の中で過ごすだけだった。神殿で過ごす内容はいたって簡単で午前午後でそれぞれ一度祈りを捧げる以外は、神殿の掃除と神像の掃除と信者の悩み相談と現聖女の話し相手と雑務。難しいことはなかったが、困ったことが一つ。聖女には国に留まってもらうため、王族との婚約が必須だった。現聖女は婚約しない代わりにこの国にいると誓約を交わしたことによって好きな人と結婚できた。旦那さんにもお子さんとも神殿で過ごしていれば話す機会があったが、仲睦まじい親子である。次期聖女は不在で、帰ってきたとしても国に留まってくれるかが不透明。そのため、代理婚約者ということで私になった。婚約相手は第二王子で、月に一回王城へ招かれて会っていたがその度に「勘違いするなよ、お前は代わりだから」と言われ続けていた。神殿で過ごす内容は文句はなかったが、周りの目は厳しかった。代理として過ごしていたけれど、本物がいいという声はいつだって耳に届いていたし、一番ショックだったのは母親が「誘拐されるのがシエラだったらよかったのに」と面と向かって言われたことだ。姉が誘拐されたことで家族は崩壊したし、神殿では厳しい目を向けられ、王城でも神殿と変わらず、代理婚約者である第二王子は味方ではなかった。私に味方はいないと分かった時はどうしようもなく逃げ出したかったが、逃げ出したところで姉が見つかるまでは連れ戻されるだけで、逃げることを手伝ってくれる人もいない。だから、父なる神に毎日祈った。姉が帰ってきてくれますように。そして、家族が元通りになりますように。でも、姉の幸せも願っていた。誘拐されたとしても、誘拐された事実を知らないまま幸せに生きていてくれますように。姉のことは母のお腹の中と生まれてきてからの二年にも満たない期間しか一緒にいなかったけれど、それでも私にとって魂の片割れに違いはなかったから。そして、その願いは叶えられた。
ある日、姉が帰ってきた。
国内の少し離れた街で暮らしていた。姉は老夫婦に育てられたそうだ。老夫婦との出会いは、夜中に森の中で怪しい男が地面を掘っており、隣町から帰ってきていたおじいさんが不審に思い声をかけたら男が赤ん坊を抱えて逃げ出したところを捕まえたところ男は自害したそうだ。そして残された赤ん坊の姉がそのままおじいさんの家で育てられることになった。王都から離れた隣国に接していた街だったこともあり、次期聖女が誘拐されたということは数か月遅れて新聞に入ってきたらしい。が、赤ん坊が森の中で捨てられることはよくあることだったらしく、まさか次期聖女だとは思わなかったそうだ。そして、十六年経ち、姉が育っていた街で火事が起き、ちょうど隣国に遠征中だった王国騎士が対応した所、姉に会ったそうだ。火事で怪我した村人を神聖力で治療しているところを王国騎士が見て、もしかしてとなったそうだ。それを聞いたときに、幸せに生きていたんだとホッとした。そして、森の中で埋められそうになった姉を救ってくれた姉を育ててくれた老夫婦に感謝した。
姉に再会する前は姉だって分かるのか、初対面に近いのに他人としか思えなかったらどうしようと不安だったけれど再会したときに目が合って姉だって思えた。見た目は私と正反対で、私の髪色は黒紫だけど姉はピンクで、目の色は私は緑で姉は青色。不吉な髪と目の色だから、神殿ではベールをかぶってすごしていた。だから、誰も私の顔をちゃんと見たことはない。現聖女には気にしないでいいと言われたが、現聖女に目をかけられているとまた何か言われるのが億劫で一人の時以外はベールを外さなかった。姉とは何一つ同じ色がないけれど、髪の長さと身長は同じだった。私と目が合った時に微笑んでくれた。それだけで私は泣き出してしまって、姉は抱きしめてくれて、私も抱きしめ返したら二人でわんわん泣いてしまった。時間なんて関係ないんだと姉が教えてくれた。
姉は老夫婦とお別れをし、王都に来てくれた。そして、崩壊していた家族も戻っていくのを感じた。神殿では姉に視線が向けられるから私への関心はなくて以前まで聞こえていた声は聞こえなくなり、王城にも姉と行った時に第二王子は姉へ気遣いを見せて私にいつも言うことは言わなかった。世界が正しい形に戻っていくようだと思い、異物がなければこんなにも簡単に物事はうまく進むんだと感心した。同時に代理聖女から次期聖女へ引継ぎを行った。二人でいるときは幸せだった。今まで何か足りないと思っていたけれど、それが埋まっていくのを感じ、そしてそれは姉も感じてくれているように思えた。
引継ぎ最後の日。
「はい、これで終わり。今までよく頑張ったね」
「はー、めちゃくちゃあるね? すごいよシエラは……」
「掃除して話聞くだけだから、大丈夫だよ」
「そう聞くと簡単そうに聞こえる。……ねえシエラ、私とこれからも一緒にいてくれる?」
「……シオン、私達はお母さんのお腹の中にいるときから二人で一つだよ。十六年一緒にいられなかったからってそれは変わらない。でもね、一緒にはいられない」
「どうして? もう離れたくないよ」
それはね、次期聖女が帰ってきたら私は国を出なきゃいけないって誓約を交わしてるからだよ。なんて、姉――シオンには言えなかった。第二王子と代理婚約をするときに、シオンが帰ってきて私が欲を出さないようにそれが書かれた誓約書を結んだ。だからだよ、なんて今にも泣きだしそうにしているシオンには言えないな。
「私はシオンの幸せを願っていたし、今でもそうだよ。シオンはどう?」
「私もだよ。ここに来たのは双子の妹がいるからって聞かされて、今まで住んで来た村から離れるのは苦しかったけど、それでも会いたいって」
「私もずっと会いたかった。シオンが帰ってくることを信じてから今までやって来れた。だけどね、私が今いる場所はシオンのものだから返さないと」
「返すなんて言わないで、私の隣にいてよ」
私もいたいよ、いたいけどね。
「シオン、クリフォード様のことどう思ってる?」
「え? いきなりどうしたの?」
「教えて。ね?」
「……良い人だと思ってるよ」
「好きなんだ?」
「今そういう話じゃないよね!?」
よかった、第二王子――クリフォードのこと好きになったんだね。クリフォードもシオンには優しい態度で私には向けなかった視線を向けている。それが羨ましいとは思わない。元々シオンのものだったんだから、羨ましいと思うことさえおこがましい。
「クリフォード様の代理婚約者だった私がシオンの傍にいたら、周りが言ってくるでしょ? 私はそれが辛いよ」
「……」
シオンの良心につけこんでごめん。
「だからね、旅に出ようと思うの。そして、旅先でシオンに手紙を書くの。シオンは神殿にいるのに、私だけ自由すぎかな?」
「そんなことない! 今まで私が自由にしてたんだもん。そんなことないけど……」
「聖女としての仕事が落ちついたら会いに来て? 手紙にはどこにいつまでにいるのか書いておくから。ね?」
「うん! 絶対会いに行く! だから、絶対手紙ちょうだい!」
「もちろん。私達は遠く離れていてもずっと一緒だよ、それは昔も今も変わらないって私は思ってる。シオンはどう?」
「私も! どこか遠くに離れていたとしても、私達は二人で一つだよ」
お互いを抱きしめ合って、再会した日みたいにわんわん泣いてしまった。
それから数週間後、王城に私だけ呼び出された。シオンには代理婚約を解消してくるのに必要だからとだけ言って出てきたけど、多分今日が最後の日だと言われていないけれど分かる。そして、その予想は的中し、冒頭に戻る。
「誓約の事忘れたわけではないな?」
「はい。誓約書に書かれている通り、この国を出て行きます」
「わかっているならいい。シオンは?」
「神殿にいます」
「そうか。なら出て行く用意は準備してある。今からでも出れるな?」
「はい」
シオンにはお別れを言った。あのあと両親にも一声かけたが「そう」とあしらわれた。十六年ぶりにシオンが帰ってきたんだからそりゃそうかと特に何も思わなかった。
用意された乗り物に乗りこむ。手荷物は旅行鞄一つ。あとは、慰謝料のお金。それも旅行鞄の中に入っている。ようやく再会できたシオンと別れるのは辛かったけれど、生きているならまた会える。それが分かったから、昔感じていた途方もない気持ちよりはずっと軽かった。それに、もうベールをかぶる必要もない。視界が晴れて前が良く見えて、少しワクワクしている自分もいる。
私が最初に向かったのは、シオンが過ごした村だった。シオンには言ってあったから、手紙を出してくれていたようで迎え入れてくれた。クリフォードにはシオンから言ってくれていたようで、国を出るのに一週間の猶予をくれた。
「あなたがシエラ? シオンととても似ているわ」
「そうですか? 声も髪色も目の色も違いますよ」
「歩いている姿が同じよ。さ、中に入ってお茶でも飲んで。王都からは遠くて疲れたでしょ?」
シオンがあの性格になった理由を、老夫婦と話して感じた。ここで過ごしていたころのシオンの話を聞いて、すごく楽しかった。シオンは、邪教信者に誘拐されたそうだ。男が持っていた持ち物から分かったそうだ。そして、シオンという名前も赤ん坊のシオンの首にかけられていたペンダントに刻まれていた名前から分かったそうだ。双子で同じ顔だから、シオンにだけペンダントをつけてどっちがどっちか分かるようにしていたと聞いている。
「この後はどこかに行く予定があるの?」
「はい。隣の国に行こうと」
「知り合いでもいるの?」
「うーん、知り合いという知り合いではないんですが。隣の国の人と話す機会がありまして、その時に聞いた話が面白くて、ぜひ来てほしい案内するからと誘われていたのを思い出しまして。社交辞令だとは思うんですが、最初の国としてはちょうどいいかなと」
「世界旅行に出かけるのかしら?」
「うーん。どうでしょう。とりあえず隣の国に行ってみて、違ったらまた違う国に行こうかなと。世界旅行ほどではないかもしれません」
「そうなのね。隣の国に行くバスが二日後に村の入り口から出るから、それで行くのが一番楽よ。それまでうちにいなさいな」
「でもお邪魔じゃ」
「そんなことないわよ。シオンからあなたによくするよう言われているから」
「なら、お言葉に甘えて……」
シオンに感謝しながら、老夫婦の家でお世話になった。シオンの部屋は残されていて、そこで寝泊まりをした。普通の女の子の部屋で、ああよかった幸せに生きていたんだと実感した。
老夫婦のお手伝いをしながら二日を過ごし、老夫婦にお別れをしてバスに乗り込んだ。四時間ほどで着き、検問所で身分証明書を見せ入国した。息を吸い込むと香辛料の匂いで肺がいっぱいになる。それに暑い。暑いから半袖着て行きなさいとシオンの服をもらっておいてよかった。シオンには悪いけど、いつか返すから今は貸してね。
まずは大通りを歩いていると露店が立ち並んでいて、活気づいている。美味しそうな料理もあり、一つ買って広場のベンチに座って食べた。美味しい、野菜と肉が薄い生地に挟まれていて少し食べにくいけど口いっぱいに頬張るのがいいと店主に教えてもらったからそれ通り食べる。香辛料がアクセントになってもっと食べたくなるんだとパクパク食べていたら。
「シエラ、来てくれたんだ」
目の前に私と同じくらいの年の男性が立っていて、誰かと思い見上げたら。
「アミル。偶然だね、こんなところで会うなんて」
褐色肌に黒髪、金色の目の少年――アミルだった。アミルはこの国の使者として私がもといた国に来ていて、その時に神殿にも訪れてきた。その時は現聖女が体調不良だったため、私が対応して話をした。話しやすくていつもより話過ぎたことを覚えている。その時に、アミルが自分の国について話してくれてそれで興味を持った。
「隣いい?」
「うん」
「一人で何してるの? 危ないよ」
「治安良いって話をしてくれたのはアミルだよ」
「そうだった。覚えててくれたんだ。お姉さん帰ってきて、一緒にいるのかと思ったのになんでここに?」
そっか、新聞で隣の国までシオンが帰ってきたこと伝わってるんだ。
「私の御役目は終わったの。だから、旅に出てるんだ」
「は? どういうこと?」
私は、今まであったことを話した。シオンが帰ってきて、聖女の引継ぎをして、第二王子との婚約は解消され婚約時に交わした誓約に則って国から出てきたことを。
「なんだそれ! ひどすぎるだろ! 十六年、シエラが神殿のためにどれだけ尽くしてきたと思ってるんだよ!」
「怒ってくれてありがとね。でも、いいんだよ」
「よくない! どうしてそんな笑ってるんだよ」
「アミルが怒ってくれてるから? 正直、私はようやく肩の荷が下りたんだってホッとしてるよ」
「……まあ、あんなところから逃げ出せたならよかったと思うべきか」
立ち上がって怒ってくれたけど、私の返事を聞いて落ち着いたのかまた座り直した。
「今日ってどこに泊まるとか決まってる?」
「ううん。宿は今から探すところ」
「なら、オレの屋敷来なよ。使ってない部屋いっぱいあるし」
「アミルのご両親に悪いよ」
「いいよ、息子を外交に出すぐらいこき使われてるんだから、このぐらいのわがまま聞いてくれるって」
「うーん。でも、傍から見たら未婚男性の屋敷に未婚女性が泊まるって、噂にならない?」
そういった悩みを聞いたこともある。娘が男の家に泊まるんだが、付き合ってはないと。付き合ってからにしなさいと言っているのに、聞いてくれないと。その時は、そういうこともあるんだと思っていたがまさか自分が体験することになるとは。
「オレはシエラとなら噂になってもいいよ。むしろ、なりたい」
「え?」
「俺がなんで今日シエラの前に現れたと思う?」
「たまたまじゃないの……?」
真剣な顔で見つめてくるから、ドキッとする。さっきまで楽しそうに笑ってたのに。
「検問所で、シエラが通ったら連絡するように言ってたから。ここに来るなら、聖女と一緒に来ると思ってたから意味ないとは思ってたけど、もしシエラが神殿から逃げ出したら分かるようにって」
それで意味は違うけど、私が通ったから分かったんだ。
「なんでそんなことを?」
「オレ、シエラと神殿で初めて会った時、ベールで全然目合わないし話も聞いているのか分からなくてちょっと退屈だったんだけどさ」
静かに話を聞くのが癖づいていたから、楽しく話をしたいアミルからしたら退屈だっただろう。
「自分の国の話をしたらシエラが食いついてきて、それでいっぱい話してた時に、ベールの下のシエラの目が見えたんだよ」
あんまり覚えてないけど、風でも吹いたのかな。
「そしたら、楽しそうに話を聞いているのが見えて、態度には出てないけど顔には出てたんだって。こんなに真剣に楽しく聞いてくれてたのに、退屈だなんて思って悪かったなって」
なるほど。だから、次来たら案内してあげようと思ったのかな? こちらの顔色をうかがいながら話をしている。
「そのあと何日か神殿行った時に、シエラが掃除して信者の話聞いているの見て、がんばってるんだなって。でも誰もシエラ自身じゃなくて代理聖女として接してるの見てシエラはどこにいるんだろうって思ったんだ。だから、オレはシエラのこと知りたいって。でも、そのあと話す機会はなかったから今度は話したいって思ったんだ。だから、オレの家来て話そうよ」
「理由になってるかな? 噂になるについては策なかったと思うけど」
「シエラ、ここまで言っても分からない?」
「何が?」
「……いや、いいや。オレ頑張るから。最初に言ったけど噂になってもいいし、むしろなりたい。それにどの宿よりオレの屋敷が一番泊まり心地いいよ?」
「それは言い過ぎなんじゃない?」
「本当本当! ね、来てよ」
「うーん……」
「じゃあさ、宿今から周ろう。泊まるところなかったらオレの屋敷おいで」
「わかった。宿探しに行こう」
ベンチから立ち上がって、宿を探し始めた。アミルが宿の場所を分かっていたから案内してもらったけれど、どの宿も満室だった。アミルが何かしてるんじゃないかと一瞬疑ってしまったが、宿の人に一週間前からこの国は大きな休みに入っているらしく、観光地であるここに泊まる人が多いためどこも満室だと思うと言われ、アミルのせいだと思った自分を恥じた。
「ね、オレの屋敷しかないでしょ?」
「……少しの間、お世話になります」
「少しの間じゃなくて、ずっといていいよ」
「それは悪いから」
お祭りの間はお邪魔して、終わったら宿探そう。
アミルの屋敷に言ったらとてつもなく大きくて、ビックリした。そういえばアミルは侯爵家の長男だったと思い出した。アミルに今日出会えてなかったら、野宿するところだった。アミルのご両親と弟と妹にも挨拶をし、よくしてもらった。弟と妹には遊ぼうと言われたので、本を読んだり中庭で追いかけっこをして遊んだり。色んなことをして遊んでいたら、いつの間にか一週間いた。
「アミル、そろそろ私出て行かないと」
「どうして? 居心地悪かった? ベット変える? それとも服の着心地悪かった?」
「どれもすごくいいよ、ありがとう。でも、さすがに居すぎだと思うし、アミルと外歩いてるときに視線をよく感じるし」
「気にしなくていいよ」
「気にするよ!」
十六年間、視線を気にして生きてきてここ一年はなくなったとはいえまだそういった視線には敏感。
「でも、弟も妹もシエラと遊びたいって言ってるよ」
「うっ。宿に泊まったとて、遊べるから」
「屋敷にいたほうが遊びやすいよ」
「それに、ここで出てくる料理におやつ美味しすぎて、舌が肥えそう」
「よかった。料理長が喜ぶ」
「だから、出てく!」
「それだけなら出て行く必要ないでしょ?」
「アミル、止めないで。このままだと本当にまずい」
「何が?」
「……この話はやめよう。シオンからの手紙読むので、部屋に戻ります」
アミルが何か言っていたけれど聞かないフリをして、部屋の扉を閉めた。
一番の問題は、アミルのこと好きになっちゃったってこと。アミルが私の事宝石みたいに大事に扱うし、気遣ってくれるし、些細な変化にも気づいて気にしてくれる。そんなの好きになっちゃうでしょ。それに、噂になってもいいだなんてそういうことかもしれないって思っちゃう。でも、アミルからそんなこと言われたことないし、アミルが他の女性と話しているところを見たこともあるけれど、同じようにエスコートしてたし。このままじゃ、アミルのこと独占したくなって暴走する可能性が高い。あと、アミルが好きな女性と紹介され場合、自分が何かしでかしてしまんじゃないかと怖い。……シオンの手紙読もう。今悩んでいることを神殿の人の検閲も入ると思い、ぼかして書いたからその返事が来てるはず。
【シエラ、元気そうでよかった。私は今、聖女としてお勤めしてるよ。掃除は村でもやってたからいいんだけど、人の悩み聞くのって大変だね。アドバイスするわけでもなく、ただ聞くだけなのにそれだけでも結構つかれるね。シエラの悩みの件だけど、やっぱり相手に聞いてみるしかないよ。もし失敗しても大丈夫、私がシエラのこと慰めに行くから! そしてそいつに、パンチしてあげる! 話したら教えてね。幸せな返事が来ると思って待ってるよ】
シオンの手紙を読んで、ちょっと元気が出た。そっか、私の味方にはシオンがいたんだった。だから、ここでアミルとダメになっちゃっても、私にはシオンがいるし、泣いてもシオンが慰めてくれるから大丈夫だね。ずっとうじうじしているわけにもいかないし。ありがとう、シオン。勇気が湧いた。
部屋から出て、中庭を歩いてくると使用人に声をかけた。アミルにどうやって話そう。どこか行った時にその時に話したほうがいいよね。でもその時話してダメだった場合、帰りがきまずいか。この屋敷でよくしてもらっている間に荷物も増えたからすぐ屋敷を出て行くってこともできないし。
うーん、と悩んでいたら。
「そんな薄着じゃ風邪ひく。夜は冷えるよ」
アミルが上着をかけてくれた。心配そうな顔をしていて、ありがとうと返事をした。
……今かも。夜で電灯も立ってはいるけれど振られても、顔が見えにくくていいかも。
「あのね、アミル」
「うん」
「私、アミルに言いたいことある」
「なに? 今日の料理美味しかった?」
「それはもちろん! 魚料理がすごくおいしくて……って違う!」
ははっとアミルが楽しそうに笑っている。もう、最近からかってくるんだから。でも、そのおかげで緊張が解けた。
「私、私ね」
「うん」
いざ言おうとすると言葉がつっかえる。でも、アミルは待ってくれている。
「私、国を追放されて本当は不安だった。住む場所もなくなって、お金だけ渡されて。シオンは心配してくれたけど、心配かけたくなくて大丈夫だって言った。両親に言ったときに引き留めてくれるかと思ったけど、そんなことなくて辛かった。でも、私がいるべき場所じゃないって思ってたから耐えられた。だから、シオンが暮らしていた村に行った時、本当は出て行きたくなかった。シオンが暮らしていたここでずっといたいって。でも、あそこはシオンの場所で私の場所じゃないって、二日間過ごしてて思ったからここにきた。ここに来た時もどうしたらいいのか分からなくて不安だったけど、アミルと会ってホッとした。知り合いに出会えたって思えて。それで、アミルが屋敷に誘ってくれて過ごさせてもらって、みんなによくしてもらって、私、私……」
どうしよう、まだ言いたいこと言えてないのに、涙が出てくる。これじゃアミルも困ると思って、慌てて拭こうとしたら手をそっと掴まれて止められた。そして、アミルがハンカチで拭ってくれた。
……そういうとこだね、きっと。
「私、アミルが好きだよ。次期聖女にじゃなくて、私のために話をしてくれたあの日から惹かれてたんだと思う。だから最初にここに来た。アミルに会えたらと思って。そしたら、本当に合えて、一緒に過ごして、遊んで、よりアミルのこと好きになった。私のために喜んでくれて、怒ってくれて、優しくしてくれて、嬉しくて、好きになったの……」
私の鼻をすする音しかしない。アミルが何も言ってくれなくて不安になる。でも、アミルの返事を待つしかない。
「オレが、シエラがこの国に最初に来た日に言ったこと覚えてる?」
「来てくれたんだってやつ?」
「それもそうだけど、噂になってもいいって言ったでしょ」
「うん」
「オレ、シエラのこと好きだから噂になってもいいって、なりたいって言ったんだよ。でも、シエラその時は不思議そうな顔してたし、好きになってもらったらいいやって思ったから、これ以上言って困らせるのやめようって。だから、オレもシエラのこと好きってこと!」
「な、なに!?」
抱きかかえられて、足が宙に浮く。アミルより視線が上になり、私がアミルを見下ろす形になる。
「嬉しい! シエラがオレのこと好きになってくれて! アプローチした甲斐あった~」
「ちょ、ちょっと、回るの止まって!」
嬉しいのかくるくる回られるけど、足が宙に浮いて不安のため止める。
「じゃあ、今日から恋人だ」
「……うん、よろしくね」
嬉しそうに笑うアミルを見てホッとする。そして同じ気持ちだと思ったら嬉しくて、目の前にあるアミルの顔を両手で包んで。
――ちゅっ
アミルにキスをしたら、目を見開いた後、にっと意地悪な顔をして私に仕返ししてきた。それが、嬉しくて、人生で幸せな日だと思える日が増えたと感じた。
そのあと、アミルの家族に付き合ったことを言うと中庭の様子を窓から見ていたと言われて顔から火が出るかと思った。シオンにも手紙を書いたら、会いに行く! とだけ来てまあそんなわけないかと思っていたら本当に数日後に来た。
「シエラ!」
「シオン!」
抱きしめ合って、久しぶりの再会に浸った。
どうやら、アミルがシオンがこっちに来れるよう根回ししてくれたようでシオンが来れたらしい。クリフォードも一緒に来たようで、ちょっと緊張したが、目が合ったら。
「すまなかった」
と頭を下げて謝られた。何かと目を白黒させていたら、どうやらシオンに私に取っていた態度がバレたようでこっぴどく叱られたそうだ。そして、一緒に来て謝るようにと連れて来られたらしい。ちょっと胸がスッとする思いをしながら、了承することを伝えた。シオンとクリフォードは仲睦まじくやっているようで、アミルにこそっと「オレたちみたいだね」と声をかけられて恥ずかしかった。
シオンと久しぶりに時間を忘れるぐらい話をした。その時に両親が私がいなくなった一週間で老け込んでしまったと聞いた。シオンはざまあみろと言っていたが、シオンにはいい顔してたと思うからその態度は不思議に思ったけど、ちょっとだけ胸がスッとしたのはシオンにバレてると思う。シオンは三日間滞在で、最初の一日は私と過ごし、二日目はアミルとクリフォードと三人でこの国の王宮に行ったようだった。私は屋敷でお留守番をしていた。最後の日、シオンが帰ってしまう日にお見送りをしに行った。
「シエラ、幸せそうでよかった! あ、手出して」
「?」
手を出すと、シオンがぎゅっと手を握って何か光ったと思ったら、「終わったよ」と手を離された。
「聖女様からの祝福だよ! これで絶対幸せになるから。父なる神もそう言ってる!」
「声聞こえるの?」
「今日夢でお告げがあったの! シエラはよくやってくれてたから、私に祝福を預けるから渡しなさいって。だからそれだよ」
「えっ」
「ふふ、じゃあね! また会いに来るし、今度は会いに来て! クリフォードが言ってた誓約書、父なる神からの怒りの雷で保管していた塔ごと燃えたから!」
ばいばーいと乗り物の窓から手を振ってシオンは帰って行った。クリフォードが危ないと言って止めているのが見える。え? 塔燃えたの? 本当? もしかして両親が老け込んだのも……? いや考えすぎか。
「シエラのお姉さん、元気だね。それに父なる神も」
「う、うん……」
本当なのかな。でも、なくなったなら国に行ってもいいのかも?
「……シエラ、帰りたくなった? お姉さんがいる国に」
アミルが手を握りながら聞いてくる。こんなに身長大きいのに、そんな顔しただけで子犬みたいに見えるんだから私もたいがいかな。
「シオンには会いたいけど、帰りたいとは思わないよ。私がいたいって思うのはアミルの隣だけ」
「! シエラ!」
「ちょ、どうして嬉しいと持ち上げるの!?」
またアミルより目線が上になるまで抱きかかえられたけど、何回かされている内にこれも慣れてきた自分が怖い。でも、幸せだって思えてるからいいか。




