【第6の謎】罪を隠す者の心理
放課後の特別生徒会長室。
豪奢なソファに深く腰掛けた蓮は、沈みゆく夕日を背に、影のようなシルエットで私を見つめていた。
「被害生徒の訴えで、今日の昼休みに容疑者3人の抜き打ち持ち物検査が行われたんだ。彼らは全員、学園の寮生だ。でも、決定的な証拠であるSDカードは、彼らの持ち物からも、寮の自室からも見つからなかった。外部に持ち出すこともできず、自室にも隠せない。つまり犯人は、学園内の『自分の部屋以外のどこか』に、現物を隠し続けているはずだ」
蓮は、楽しそうに目を細める。
「……白石さん。君なら、その『絶対に見つかってはならない、けれど犯人にとっては何よりも失いたくない大切なもの』を、学園内のどこに隠すと思う?」
私はごくりと唾を飲み込んだ。
どこに隠すか。
もし私が犯人なら。
絶対に誰にも見つかってはならない、けれど、失われても困るものを隠すとしたら。
――ズキリ。
不意に、あの嫌な頭痛が視界を歪ませた。
真っ暗な底なし沼の縁に立たされ、無理やり下を覗き込まされているような、得体の知れない恐怖と寒気が全身を駆け巡る。なぜこんなにも恐ろしいのか、肝心の理由はすっぽりと抜け落ちているのに。
「……絶対に開けられないような、完全に封鎖された場所には隠さないと思います」
私の口から、無意識に乾いた声がこぼれ落ちた。
「ほう? それはどうしてかな?」
蓮が、身を乗り出すようにして尋ねてくる。
その瞳には、私の言葉を一つ残らず拾い上げようとする、純粋な好奇心が宿っていた。
「不安だからです。自分の目で安全を確認できない場所に置いておくと、誰かに見つけられていないか、気になって夜も眠れなくなる」
心臓が肋骨を打ち付ける音が、鼓膜の裏で鳴り響いていた。
「だから……毎日自分が通る場所で、他人の目につかない隙間。たとえば、毎日自分が当番で掃除している理科準備室の棚の奥とか……。いつでも確認できる場所に、隠すはずです」
言い終えた瞬間、室内の空気がふっと軽くなったような気がした。
蓮はしばらく黙ったまま私を見つめ、やがて、感嘆の息を漏らした。
「素晴らしいよ、白石さん」
彼はソファに深く腰掛けたまま、賞賛するようにゆっくりとパチパチと拍手を送った。
「容疑者3人のうち、理科準備室の清掃担当は一人だけだ。明日、先生に頼んであの棚の奥を調べさせよう。十中八九、彼が隠したSDカードが出てくるはずだ。見事な推理だよ、これで事件は解決するかもね」
「……はい」
「それにしても、完璧なプロファイリングだった。君は本当に、『隠し事をする人』の心理がよく分かっている」
その声は、心の底から私を褒め称える、優しさに満ちたものだった。
しかし、その優しさが、今の私には何よりも恐ろしかった。
「まるで、君自身が誰にも言えない重大な秘密を、大切に抱え込んでいるみたいだ」
胃が激しく痙攣した。
夕日を背に微笑む彼の純粋な目が、私の輪郭を少しずつ削り取り、心の奥底に封じ込めた『何か』を暴き出そうとしている。私はただ、その美しい瞳から逃れるように、震える両手を強く握りしめることしかできなかった。




